15.休暇モドキ
「っはぁっ!タークァン!居るか!?」
大手の奴隷商館に銀髪の狼少女が飛び込んできた。彼女は店に入るなりいきなりそこのオーナーを呼び付ける。
「はいはい。ヨシノ様。仰せのとおり黒髪の少年にあの子どもたちは売っておきましたよ。」
のんびりした声と共にここに来るのを見越していたかのような顔で現れた奴隷商。彼は少し前に今村に奴隷を5人売った人物だ。現在、巨大な金塊を貰って非常に機嫌がいい。
「いやぁ……あの方は一体誰なんで……おっと、詮索はしない方がいいんで……どうか致しましたか?」
あれほどの金塊を無造作に渡してくるのだからかなりの大人物と思った奴隷商が楽しげに詮索しようとして銀髪の狼少女の顔が真っ青になっていることに気が付いて脂肪で太くなっている首を傾げた。
「う、売って……」
「……?そう仰せではありませんでしたか。」
「じ、事情が変わっ……」
何か続けようとした瞬間、銀髪の狼少女の頭に突如として落雷がぶち当たり問答無用で黙らされた後に奴隷商に天啓が降りる。
『その者は我が命に逆らい世界を滅ぼそうとしております……あなたが奴隷を売った人物に、それ以上の干渉はしない様に……カエキリアからの厳命です……』
「おぉ……」
奴隷商は神を全く信じていなかったが、その天啓はまさに心打ち震える物であり、それが神からのお告げであることを全く疑わせない声音だった。
思わず跪いた奴隷商だったが、以降声は聞こえなかったのでしばらくして立ち上がり、目の前に神罰の雷で焼かれ、今回復している最中である少女に冷たく言い放った。
「あなたは神に逆らうおつもりなのですか?」
「ち、ちが……」
「お引き取り願います。オイ。」
「「はっ!」」
神罰を受けた少女は抵抗することも出来ずに外に放り出される。普段であれば跳ね除け、この国ごと破壊できる力を持っている少女だが、彼女に力を授けた神がその力を回収している為、そんな力は出ない。
「うっ……うっ……カトレア、カスミ、コトリ……ごめんね……」
彼女は無力感に打ちひしがれ、泣いた。
「全員、まとめて掛かってきな。まずは身体能力のチェックから始める。」
今村はこの国で最強レベルのモンスターが出ると言われる森林付近へとほぼラグなしで移動すると子どもたちにそう告げた。
「ガルルルルルル……がぁっ!」
「手加減いたしますが……後悔されないでくださいね?」
「後悔させてあげるわ。」
「ふふっ。今日は何だか調子がいい日なのに……」
途中から何か違うだろと思ったがまぁいいことにして今村は全員の攻撃を避けもせずに全部受ける。その瞬間、奴隷少女たちの顔色が悪くなった。
「え、あ、ちょっと……」
「どうした?……あぁ、お前だけ獲物使ってたからか……」
暗器を忍ばせていた少女だけが焦り、致命傷になりかねない一撃を平然として受け止めた今村を見て絶句する。他の面々は声も出せない。その少女もようやく異変に気付く。
「金剛鉾が……なくなっ……」
「素手で、打ち込んで来い。よし。」
全員攻撃を『多重倍返しの復讐法』により返されて激痛にもだえ苦しんだところで今村は測定を終了する。
「ん~けだもの娘が一番丈夫……かな~?ん~でも泣き虫の方が……体の使い方は上手いかね。この歳にしては中々……」
「お師匠様から貰った……金剛鉾がぁ……」
「うっさい。リペア。」
粉末状になるまで破壊され尽くされた独鈷みたいな形をしている暗器の小型の鉾を直して泣き虫とあだ名を付けた少女のことを後ろに放置して今村は家を作っているるぅねの方を見た。
目を離していた時間が3分も経っていただからだろうか?3階建ての家が完成していた。
「……え、嘘……」
今村の視線を追って気付いた少女たちが痛みも忘れて驚きの声を上げる。そんな彼女たちを瞬時に治すと今村は行くぞとだけ伝えて家の中へと入って行った。
家の中は1階に6畳の部屋5つと10畳のリビング、それにキッチン、冷暖房や家具などがすでに完備された状態で大浴場に室内外にプールが付いており寝室が更に別で作られていた。
「…………すご……」
「?あるじ様~こんな感じで良いの?地下実験室とかトレーニングルームとかないんだよ?」
「今回は休暇だから別にいい。」
「ふ~ん……あ、あるじ様のお部屋は上だよ。金色の扉のお部屋ね?」
今村とるぅねの会話を聞き取れない程呆然としている奴隷たち。そんな彼女たちに今村は部屋を適当に割り振るようにるぅねに言ってからエレベーターで2階へと上がった。
「……無駄に豪華だな。まぁいいけど。」
「………………ぁーぅ?」
「壊さなくていい。アルマは大人しくしてろ。」
豪華絢爛という言葉を体現したかのような扉を開くとその中には眩しくない様に工夫を凝らした明るい照明器具、金と白、そして黒を調和させた調度品などが綺麗に揃えられていた。
「……まぁセンスは良いんだが……休暇だからなぁ……まぁいっか。」
「ぅ~」
巨大なソファに身を投じて目を瞑るとその上に横になる。するとその上にアルマが乗ってきた。
「……まぁいっか。」
「ぅぁ……」
2,3度軽く滑らかな肌触りの髪と頭を撫でてやり今村は目を閉じる。今日の活動はもう終わりにして寝るつもりだ。
「……あぁ、いいや。面倒臭いし……るぅねにでも結界生成はしてもらっておくか。いや……匂いで分かるだろ……」
そう言えば猛獣避けはしてなかったなと今更思ったが既に寝るつもりだったので動かずに、今村は眠りに着いた。
「……ダメです。何故か、今日も『幻夜の館』の営業はしてません……」
今村が眠りに着いた頃のゲネシス・ムンドゥスではサービスが軽い不調に陥っていた。根幹的なサービスは行われており、現行のサービスも行われているのだが内々で進められるはずのことが全く行われておらず、無人の状態になっているのだ。
そこに来ていたサラ、ヴァルゴ、クロノ、シェン、アリス、フィト、祓は首を傾げてそれぞれの彼氏に対して今から帰ることを告げた。
「……何か不測の事態が起きたんですかね……?それなら、私たちにも伝えてもらえればよかったのですが……」
「…………何かなぁ……」
どこか不満気な顔になるそんな一行を彼女たちの目の前の建物の情報から見ている影があった。
「…………徹夜、し過ぎよね……疲れないからって、今村くん……いや、私が悪いんだけど……」
未だ大量の仕事をしていた白崎だ。彼女は今村から大量の仕事を送りつけられていたが、この2日ほどは異常な量送られていた。
そしてふと外を見ると祓たちが目に入り……その隣に現れた男たちを見て精神的に眠い目を見開いた。
「……誰なのかしら……?何事なの……?疲れすぎて寝てるのかしら……?」
目の前の光景が信じられない白崎。彼女は自らの妹たちが彼女の想い人である今村以外にあんな顔を見せることを想像できなかったのだ。
「と、とにかく……これが現実なら、何か悪いことが起きそうだから今村くんに連絡しないと……」
しばらく現実かどうか悩んだ白崎は今村に連絡する……前に少しだけ休んで紅茶を淹れて落ち着いてから電話をすることにした。




