7.色欲処理
今村は何事もなかったかのように会話を切り出した。
「これが、この『恋愛君』の効能だ。凄まじい確率だろうが何だろうが関係なく強力な補正で恋愛……いや、もう何ていうか……そう言ったフラグを立てる。」
「す、凄いです……」
るぅねの出現にも耐えることが可能だったシェンが目を輝かせて再封印された『恋愛君』を見る。
「ふむ……何が起きたのかよく分からんのじゃが、胸に顔を埋めたいのなら妾のを貸すぞ?」
「……クロノが1秒以上このお守りに触ってそうだったから俺が術で引いた瞬間に別次元で封印術式を組んでいた凄まじい媚薬に空間が衝突して俺の口の中に媚薬が入ったんだよ。」
今村は理解が追い付いていない面々に説明する。そんな事態が起きる確率はあり得ないという説明も加えておいた。
「……そうですね~確かに、ありえませんね~……」
日常的に空間術式を使う面々には凄く納得されたが基本的に個人用倉庫などの今村から貸与されている術しか使わない面々にはピンとこなかったようだ。
しかし、今村が言うのだからという感情で納得した。
「欲しい、です……わ、私、頑張ります!」
説明が終わり、周囲がお守りについて考えている中で一番最初に手を挙げたのはシェンだった。ここに居るメンバーの中では一番自分からアプローチを掛けるのを苦手としているのを自覚しているのでお守りが輝いて見えているのだ。
「……私も参加しますね~。」
「妾も欲しいのう。」
シェンに続いてサラとヴァルゴも名乗りを上げた。今村は残りのメンバーを見て尋ねる。
「お前らは?」
「……欲しいけど、お姉ちゃんひとくん以外の男の人本っ当に嫌だから……」
「……私も、本当に欲しいんですけど……自分で頑張ります。」
アリスと祓はとても欲しそうな顔をしているが諦めている顔だった。この二人は魅了の力の所為で過去に色々あったので仕方ないとは思って取り敢えず保留にしておき、未だどこかに精神をトリップさせているクロノと寝ているフィトに尋ねる。
「お前らは?」
「……す、すっごく、欲しいけど……でも、やっぱりお兄ちゃん以外の男の人と一緒はやだな……」
「私も~自分で~頑張るから~いいや~」
これで半数を切った。それを受けて今村は笑顔で断言した。
「じゃあ、不参加者は罰ゲーム。ちょっと記憶貰うね?」
その一言で不参加表明した全員の顔が蒼褪める。
「……い、いやだよ……何でそんな酷いことするの……?」
「逃がしません。」
「やだ~!」
逃げようとしたフィトは今村の少し後ろに控えていたシェイムの手によって瞬時に捕まり抵抗する。他のメンバーも逃れられない様に術式が施された。
「参加、する?」
「し、したくない……でも、思い出取らないでよぉ……何でそんな酷いことするの?わ、私が、男の人嫌いなの知ってるよね?」
「知ってる。その嫌いな男なんだ俺は。嫌われることばっかりしてる。」
今村は手で触れるだけでも記憶を消せるが今回はわざと忘却の壺を出して周囲にこの壺の概念体を見せるようにして笑いながら仁王立ちする。
壺からは無数の銀の触手と怨嗟の声、そして亡霊のような顔が幾つも立ち上るような概念が見える。
「く、クロノ……やります……だから、取らないで……」
先程の状態から一転して泣きそうな顔で何かから守るように頭を手で庇いつつか細い声で今村にクロノはそう告げると、今村はそれを受諾した。
「……早い所、決めてくれる?」
クロノを参加組の面々の方に寄せると今村は他の面子に笑顔で尋ねた。その目は全く笑っておらず全員泣きそうになりながら少年たちの面倒を看ることを受諾し、今村は後のことをシェイムに任せてこの場からすぐに立ち去った。
「~っ!縛り付けろ【グレイプニル】!」
壺を背景に女性陣たちを無理矢理納得させた今村は自世界に逃げ込んですぐに自分を縛り付けた。
「ド畜生が……なんつー劇薬だアレは……まだ、解毒できてない……つーか、ヤバいのが、起きそう……あぁもう、一回、入るしかない。」
「恋愛君」により摂取した劇物は今村の中で解毒されていなかった。しかもそれが悪いことに媚薬により自分の中に封印している七つの大罪が1つである色欲、【傾世の妖姫蠍】と結びつき、果てしなくはしたないことになりかけているのだ。
その上、あっても邪魔なので自分で封印している前世の体と今世の体の自分の本来あるべき性欲とも結びついて暴走が始まりかけている。
「まず、あんなガキに欲情しかかった……いや、素直に認めよう。完っ然に犯しにかかってた。……そのことに関して落ち込みたいのに、それどころじゃないというこの事態。ヤバい。このままじゃ、歩く性犯罪者になりかねない。そして、それを止める奴はいない……」
寧ろ嬉々として捕まえに来る奴の方が今村の知っている限りでは多い。特にあの原神にでもバレたら……
「ふぅ。いつも屋敷の中だと気が滅入るよね。【精練された美】ちゃん警護よろしくね?」
「【可憐なる美】様、ここは仁の世界だけどあんまり顔を出したら……あ、仁だ!おーい!」
今村は視界にある人物たちが入った瞬間、術を装填する銃を召喚して頭を撃ち抜いた。
今村の心内のホールで様々な今村たちが若干肌を晒しており色気をまき散らしている今村を全力で袋叩きにしていた。
「おい!殺せ!何としてでも押さえつけろ!」
豪奢な服を着た尊大な雰囲気を身に纏う今村が猛攻で以て動きを止め、執事服を着た怜悧な雰囲気な今村は黙って一撃必殺であるはずの技を繰り広げる。
それを遠目から憂鬱……彼女は今村ではなく、過去にこの中に入って来た咲夜として、当時のままの可愛らしい姿で呆然とそれを見ていた。
「……どうしよ。凄いことになってる。」
「はぁ、面倒……」
尊大な今村―――【傲慢なる獅子王】と怜悧な今村―――【妬み嫉む孤高狼】の攻撃をものともしない袋叩きに合っている今村を少年姿で布団と抱き枕装備の眠そうにしている【深淵に微睡みし暴虐熊】が結界で更に動きを封じる。
「放せぇっ!俺は今すぐ外に出て長年溜まりまくった性欲を発散させるために≪自主規制≫して≪自主規制≫して≪自主規制≫するんだ!」
「黙って死ね!」
「えぇい、弱体化するだろうが!黙って埋まっておけ!」
【怒り狂いし破壊竜】と【欲深き闇より来たる漆黒狐】がタッグで攻撃するがそれでも【色欲】は動く。
「……ボク、どうしようか?食べたらボクも変になるかも。」
「……虚飾もどうしようもないな。」
【喰らい尽くせし狂粘液】たちはすることがないので傍観していた。
「よぉ……よぉもやってくれたなこのタコが……これで俺は変態のレッテルが張られるじゃねぇか……」
そんな中に本体の今村が進むと【色欲】が笑みを浮かべる。
「クッハハハハハハハ!俺が来たってことは、現在無防備だな?ハッハ。都合がいい。誰でもいい!今の内に俺を犯せぇっ!」
「深淵の闇に犯されて先に死ね。【マーガ・ラーズ】」
今村にとってここ最近で一番大変な死闘が幕を開けた……
ここまでありがとうございました。




