6.見縊ったら駄目だよ
(……さて、俺の自由時間を増やすために召喚したのに付きっきりで指導するとかアホだし。……総監督にシェイムでも呼ぶか。)
計画始動に伴い、今村は暇そうな人を呼んでその人に自分の仕事を押し付けつつ細かな指導を少年たちが自分で選んだ相手に任せることにした。
「シェイm「お呼びですか?」おう。ここにある企画書通りに物事を進めてくれ。いいか?」
「はい。」
遥か彼方階層世界すら違うのにもかかわらず神速でこの場に現れた女性に今村は特に何か突っ込みを入れることもなく書類を渡した。
「……この少年たちを指導すればいいのですね?」
「おう。何かレジェクエの暗部の女人部総元締めを別の奴に譲ったらしいから時間出来たのかと思って呼んでみた。」
今村が凛々しい顔立ちの銀髪のエルフの美少女にそう言うとその美少女は深々と礼を取った。
「はい。この度、暗部の総元締めになりました。」
「……引退したんじゃなくて位が上がってんじゃねぇか……オティエノは?」
「引退しました。」
今村はまた幹部の男が減ったのを聞いて溜息をついた。
「何勝手に引退してんだあの禿……」
「歳ですし……」
俺より若いくせに……とは言っても無駄なので言わないでおく。
最初レジェンドクエスターズを設立した時の幹部の男女比はは8対2くらいだったのに気が付けば男の方が過半数割れしている事実に目を伏せて思考を切り替える。
「……はぁ。まぁいいや……あんまりよくないけど。今から子どもたちの面倒を看るように話を付けに行くから付いて来い。」
「はい。」
移動中、このままだと本当に囲い込まれる危機感を持ったが、最悪別時間軸に逃げればいいかと楽観的にいくことに決めた。
「と言うことで、君らにはあの子どもたちの面倒を看てもらうことになったがいいか?」
今村は超適当な理由づけで子どもたちを今日も懲りずに家に来ていた面々に押し付けていた。
それに対する反応は。
「…………すっごく嫌。ひとくん以外の男性と係わらないことなら何でもする……してあげたいけど。」
「触りたくない~無理~嫌~」
「気持ち悪いので嫌なんですが……あの、他のことはないですか?その埋め合わせでしっかり頑張りますので……」
「あ、あの、無理……です……怖いです……」
「クロノもヤ。お兄ちゃん以外の人って基本的に敵でしょ?」
「無理じゃな。主に捨てられかねない芽は事前に潰しておくに越したことはないしの。」
「仁さん絶対押し付ける気でしょ~?嫌ですよ~」
完全拒否だった。それを聞いて今村が先程呼んだ銀髪の少女が蔑むような視線を向ける。
「……仁様の言うことを聞けないのに、ここにいるんですか?死んだ方がいいと思いますよ?」
彼女を見てアリスが嫌そうな顔で答える。
「何でいるの?」
「御用があると呼ばれたので。……あぁ、私はあなた方と違って他でもない仁様の命ですのできちんと引き受けましたよ。」
言外に見下してくるシェイムの言葉でアリスの目が鋭くなる。だが、雲行きが怪しくなったところで今村がアリスを睨んですぐに下がらせた。
「ごめんなさい……で、でも……」
「まぁ、嫌がるとは思ってた。」
どうしてもこれだけは言わないといけないと言う顔でアリスが反論を続けようとする。しかし今村はそれを遮って小さな透明な箱に包まれたお守りのような物を出して言う。
「これ、一番上手に育てられた人に貸すよ。」
「……何ですかそれ?」
祓の質問に今村は少し笑みを浮かべて答えた。
「ちょっとね、俺のことを好きで仕方がないとか嘘をつく奴から搾り取ってみたものから作ったやつ。まぁ、昔作った『恋愛君』の最新最強バージョンとでも思えばいい。」
「……ち、因みに、その絞った物って……」
「愛情だ。……絞った相手はまだ死ぬほど持ってやがるから当初の目的は果たせなかったが……まぁ副産物として凄まじい物が出来た。」
今村はその透明な箱をくるくる回しながらこの箱の説明をする。そして不本意ながらもお試しでごく短時間だけこの中の誰かに貸すことを告げた。
「クロノしたい!貸して~!」
「早いな。じゃ、クロノで。……いいか?1秒だけだからな?持つなよ?触れるだけにしておけよ?」
今村は厳重封印してあるその箱をクロノの前に出してクロノに触れさせると触れたのを確認してすぐにそれを引き上げさせる。その瞬間、何かが今村とその箱の間に入り今村の口の中に何かが入った。
「……~っ!ヤバッ!逃げろ!」
体内に入った瞬間、それが何か解析して何かの薬物だと分かった時点で解毒を開始したが詳しい分析を行い、それが何であるか判明した瞬間今村の血の気が引いた。
「え?どうし……」
一番最初に反応したのはアリスだった。だが、それより先に今村は何故か「αモード」に入ってクロノの胸に顔を埋めていた。周囲は理解が及ばずに首を傾げる。
「……私が言うのも何ですけど、その反応どうなんですか?」
今村のいきなりのセクハラ行為に対して咎めるわけでもなく疑問視した女性陣にシェイムが冷静に突っ込む。尤も、本人も首を傾げた一人だが。
「えっと、気持ちいい?大丈夫?……クロノここに来る前にお風呂入ってくれば良かったなぁ……」
当事者であるクロノはクロノで明後日の方向の反応を示している。そんなクロノを今村は抱き締めて顔を埋めたまま今度は撫で回し始めた。
「ひゃぅ……な、何か、ぞわぞわ~ってする……気持ちいいのと、むずがゆいのと何か……ぅぅ……」
クロノはそれに反応して艶やかな声を上げて抱き締め返し、体を細やかに震わせた。部屋のど真ん中で始まったこの光景に全員首を傾げて動かない中、不意に何かが飛んできた。
「どこ!?るぅねあるじ様に怒られるのやだ!」
「……あー…………凄い、確率だった……よね…………」
瞬時に固まる風景と人物。動けるのは飛来して来た人物とシェン、そしてフィトとシェイム。後は今村だけだった。固まった風景に何を思ったのか今村は顔を上げて何か呟く。
「……?あれ、クロノ今……」
そして、クロノはすぐに復帰する。それを受けて今村はクロノの耳を甘噛みした。この光景を見て飛来して来た人物たちが溜息をつく。
「……飲んじゃったみたいだね……」
「あれ………………危険、なんだけど……対……上級、神用の…………8那由多柱、分……の……原液、だよ…………?」
「じゃああるじ様もるぅねとえっちしてくれる!?」
「……期待に、目を…………輝かせる、な……治す……」
「心配いらん。自力で治した。ド畜生が……」
顔を真っ赤にして譫言を言いながらトリップしたクロノを「雲の欠片」の上に横倒して今村は飛んで来ていた二人の方に笑顔でやって来た。
「あるじ様~るぅねとしましょ!」
「……ちょう、怒ってる…………るぅね、静かに……」
るぅねも今村の様子に気付いてあわあわし始め、何が起きたのか説明をし始めた。
「え、えっとね、るぅねね、シュティちゃんと畑のやくそうとか色々使ってね、
お薬作ってたの。でね、とぉ~ってもすぅっごい媚薬が出来たの。それであるじ様に褒めてもらえるってね、喜んでたらね、シュティちゃんが危ないから封印しようってね……」
「……次元の箱を使ったんだな。あぁいい。……お前らに非はないよ。こいつの力を見縊ってた俺が悪い……どんな確率だよ……取り敢えず、るぅねはともかくシュティは危ないから帰れ。お前を血祭りに上げた奴がそこに居るぞ。」
今村が眠っているフィトを指すとシュティはすぐに消えた。次いで、るぅねも待ってと言いながら消え、残ったのは興奮しているシェンと眠っているフィト、それと呆けているクロノと状況の理解が追いついていない女性陣だけとなった。
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