14.こいつ……
「あー面白かった。ご馳走様。」
「……………………うん。ごめんなさい……」
(……ん~割と精神的にダメージ喰らってるなぁ……そろそろ遊神さんの呪が掛かってること教えるべきか否か……でもこいつの毒物生成スキル半端ないから面白いんだよなぁ……)
史上最悪レベルの毒物を食べた後今村は自分で生成したまさに甘露と言うべきお茶を飲み口直しをしつつ色々考えて泣きそうになっている瑠璃を見てそんなことを考えた。
(面白いし、俺以外の奴に料理を振る舞うのであれば術式の解除ができるようにはしてやってるからなぁ……別に知らなくてもいいと思うんだが……)
限定的に術式の解除を行っていないのは今村の場合のみの為、まだ自分のことが好きらしい瑠璃には基本的に料理を作らせていない。何回も作られると流石にバレそうだからだ。
「……ごめんね……?料理も、出来ない……こんなんじゃ、仁のお嫁さん……なれないよね……だから、ダメって……」
他の男に振る舞ったら料理は愛情が大事とか何とか適当なことを言って料理が成功した理由を脳裏に浮かべるようにし、自分に対する感情が愛情ではなく悪意だったということも同時に思い付くように術のキーを掛けたのだが今見ても発露していない。
「……どうしよっかなぁ……」
目の前で本気で落ち込んで悲しんでいる瑠璃。彼女の料理は見ても出来上がりを食べても非常に面白いのだがこれを本当に気にしているのは前々から知っている。
(これで諦めればいいのに……)
そんな彼女の姿を見ても今村の胸中にやって来るのはこれを理由に諦めればいいのにというモノだけだ。
「が、頑張るから、絶対、がんばる……だから、待って……」
そんなことを思いつつ今村が落ち込んでいる瑠璃をぼんやり眺めていると瑠璃は何を思ったのかこう言ってきた。それを冷めた目で見つつ今村は呟く。
「絶対と言うのはこの世に存在しないんだが……まぁそんなことはどうでもいいとして。諦めないの?」
「うん。」
そこは即答だった。
「……だって、ボクだって、仁に美味しい物作って食べさせたいんだもん……笑顔でボクの作った物食べて欲しいんだもん……」
「めっちゃ面白いから今も笑ってるけどな。」
「そういうのじゃないよ……その、自然に?笑って欲しいの。」
「超自然に笑ってるけどな。」
瑠璃は頬を膨らませる。
「違うよ。それじゃないもん。」
「我儘な……んじゃ、右と左どっちがいい?」
唐突な質問。瑠璃は目を鋭いものに変えた。
「……右。」
「チッ……じゃあ、よっと。」
今村は右側の空間からある程度の大きさのボックスを瑠璃の前に出す。瑠璃は今村がこのようなことをする場合、彼にとって何かしたくないが他者にとってはいいことがある事態が起きているということを知っていた。
(今回は何だろ……?)
箱の中から前後左右そして真ん中の5つのボックスが出てきたのでそれからまた一つ選ぶ。すると更に中から……ということを計4回したところで今村の表情に変化が出た。
(……でもあの才能も惜しいよなぁ……やっぱ呪い解くのも勿体ない……今更だが俺が介入していいかな……いや、ダメか……)
ランダムで配置してある箱の正解。今回は何故か全て右に置かれているが瑠璃は全て的中させている。そして最後の箱も正解を引き当てた。
「……で、何これ……」
「……ギフト、スキル、能力、経験、技能……まぁ各種詰め合わせの【料理】という技だな。これだけ詰めれば流石に打ち勝つ。」
彼女の父親の呪にとは言わないが瑠璃は今村の言葉を聞いて少し硬直してから目を輝かせて今村に飛びついた。
「ホント!?」
「……その毒物生成スキルは惜しいものだが……まぁ、消滅寸前まで行ってでも俺を助けようとした精神への贈り物だな……甘すぎるかもしれんが……」
「あれはいいのに……でもありがとう!お礼いっぱい、いぃっぱいするよ!」
「いや要らねぇ。強いて言うなら誰かしらない奴と付き合ってくれ「嫌。」ならいい……」
最近甘いなぁと思いつつも瑠璃が喜ぶままにさせておく。周囲の植物たちの色が鮮やかでどこか淡い彩りになり世界全体が祝福されている様な中で瑠璃は食事を作り直した。
「えへへ……これは、だいじょーぶ。うんうん……」
「……ごはん~?」
美味しそうな匂いが立ち込めてきてフィトが目を覚ますが今村は毒物ではないことに寂しさを感じている。
「はぁ……塩を手渡しで渡しても次の瞬間にデッシュラッシュの糖蜜より甘くさせる瑠璃の殺神クッキングが……」
フィトは全ての世界において最も甘く、あまりの甘さに動物どころか神ですら一部しか食べられないという植物の名前を聞いてあどけなく可愛らしい顔を曇らせた。
「ど~いうこと~?」
「……まぁ、色々。」
「出来た!」
説明するのも面倒な今村が説明から逃れた所に出てきた料理は至って普通の美味しそうな物。それに愛情が掛かっており何か光っている。
「えへ……えへへへへへ~これ、大丈夫でしょ?」
「……大丈夫なのかこれ?」
「ボクと仁しか食べたらダメだからちょっと術掛かってるけど。」
フィトは食べられないと分かりこの時点で再び睡眠に入った。
「はいあ~ん♡」
「あ゛ぁん?って感じだな。まぁいいけど。」
今村は普通に美味しそうな食べ物を前にどこか期待しつつ食べるが見た目通りに美味しいので若干落胆した。
「……毒じゃない……」
「…………ボクを何だと思ってるの……?寧ろ薬膳料理だけど……」
「うん……」
「ざ、残念そうにしないでよ!そんな顔されたってボクが好き好んで君の体に悪いような物作るわけないじゃないか!」
「……そうだね。別にいいけど。」
今村は立ち上がった。瑠璃もそれにならって立ち上がり、先程作った料理に目を落とす。
「……た、食べない?」
「……『瞬喰らい』ご馳走様。」
「えへ……うん。」
一瞬で食事を終えた今村。瑠璃は食べ終えてもらったことに満足して片付けを行う。それを尻目に今村は自分の中に若干ストレスが溜まり始めているのを自覚して探し物を突っ込み要員から別の者に変えた。
「ん~悪者いないかな~瑠璃、踊って。」
今村は準備のために特殊な結界を張って自分が望まない者はこの世界の中へと淹れないようにして瑠璃にそう言った。
「え?うん……武曲でいいのかな?」
「何でもいい。何か魅了するやつ。」
瑠璃が了承を得て踊り始めると体のいたるところが妖艶に見える舞を始めた。その気配に釣られた男神たちが集まり、植物まみれの世界に様々なモノが生まれ始める。
「ふぅ……これでいいの?」
踊り終えると瑠璃は群がる男たち全員のアプローチをガン無視して今村の下へと戻ってくる。途中で乱暴な者がいるが今村が手招きしている状態では瑠璃も急ぎのため払って一撃入れるくらいしかできない。
「よしよし。」
「ん~♡」
変態を集められたので今村は瑠璃を褒めて頭を撫でる。それだけで思考停止してくれる瑠璃を非常に扱いやすいと思いつつ。今村は眼前の男たちに笑いかけて言った。
「初めまして【正の神々】よ。俺は……まぁ最近じゃこの名前が通りがいいらしいからこれで行こう。【冥魔邪神】だ。掛かって来い。」
物も言わずに襲い掛かってくる男たちに今村は笑顔で丁寧な応対をし始める。
此処まで有難う御座いました。




