8.気付くのが遅いようです
クロノとみゅうは添い寝を希望して来て、そしていつの間にかフィトもそれに便乗しており、朝から少し騒ぎになったその日、今村は少し考え事をしていた。
「……この館には突っ込み属性が足りなくなったよな……」
こんなことだ。突っ込み担当だったはずのミーシャは既に今村と言う名の毒に染め上げられて非常識が常識になりもう駄目になっている。
「……ん~本の世界の中に入っていい感じの奴を探すか……誰にしよう。」
と言うことで今村は様々な世界の中へと潜り込んでいくことにした。その為に行き先について考え始める。
(……一先ず、ハッピーエンドの世界から人を持って来るのは何かアレだからバッドエンドから人を持って来よう。まぁそのついでにバッドエンド回避くらいはしてやろうか……ん~でも綺麗なバッドエンドはそれでもいいんだが……)
今村はハッピーエンド好きだが綺麗な形のバッドエンドも好きなので色々考えているとまず祓が紅茶を淹れて今村の部屋に入って来た。だがそれを無視して今村は考える。
(……まぁ、何の救いもないバッドエンドの世界から行ってみるか……そういう世界に突っ込み要員っているのかなぁ……?)
「お、紅茶か……ん~」
「?今日はそんな気分ではないですか?」
祓が今村の警戒エリアに入って来たので気付いていることを表すように声を上げると祓は今村の発言に小首を傾げた。
「いや、出掛けるから。ちょいとね。」
「……お一人で、ですか?」
「まぁそうだな。お前ら仕事いっぱいあるだろ?」
今村の言葉に祓は頷く。この間の一件のお蔭で計画に滞りが出てしまっている箇所がいくつかあり、持続可能な開発が20年先までで止まっているのだ。
少し前倒しにし過ぎているが、今村の行動如何によってはいきなり十年単位の大幅な休暇が発生するのでこの程度では心もとないというのが彼女たちの心情になっている。
更に言うのであれば今村の計画案だけは数千年先まで行っているのが彼女たちのプレッシャーにもなっている。
「先生は……お姉様が……」
「まぁあいつが死ぬ気で頑張るから俺の仕事の5分の1はなくなってる。だから結構暇があるんだよね。鍛えることに関しても全盛期になったしちょっと休憩入れる。」
なのでしばらく悪ふざけをするのだがそれは基本的にここに居るメンバーには内緒となっている。そして、その悪ふざけの為に突っ込みのメンバーが欲しいのだ。
「取り敢えず直近の計画ではある世界のガチムチの語尾は『にゃん』。そして子どもたちの語尾に『鏡を見ると世界でも類を見ない美形がいるんだよね……』普通の男たちの語尾には『メロンパンバーガー墨汁ダクダクで』とつけさせ、美女の語尾には『東南西北白は……つぅ?ちゅんちゅん!』で、普通の女性には『具なしおにぎりシャリ抜き酢マシマシの海苔パリパリで』を語尾につけさせよう。」
「……先生は何がしたいんですか?」
祓の反応は普通だが、今村はやはり突っ込みが必要だと感じた。
「……さて、突っ込み探しに行くか……誰を連れて行こうかなぁ?」
「あ、誰かついて行ってもいいなら私が行ってもいいですか?」
「30秒で支度するなら。」
「はい。」
祓は10秒もしないで支度を終えて今村の下へと戻って来た。
「仕事は?」
「今、贖罪のために無料代行サービスをしているお姉様の所にそっと置いてきました。」
「……あいつ、無茶しやがって……今回の旅行が終わったら俺の仕事も5分の1追加で置いておこう。」
祓は流石にそれをしたら白崎が潰れるんじゃないかと思ったが白崎は機械状態になっているのでスペック的には大丈夫なんだろうと自身を納得させて別世界への旅路に付いて行った。
「……あれ~?ここ~どこ~?」
「何でフィトが先回りして……」
今村が祓を連れてきた世界の先には一本の木がありそこに眠そうなフィトがいて激しい戦闘の真っただ中で辺りを見渡していた。
「だって~あなたが~どこか行くから~」
フィトの言い分に今村は黙って目で見た。そして軽く息をのむ。
「お前、木……いや木に関連する物があるところなら余程の神域でなければどこにでも行けるのかよ……」
「そ~だよ~?ついでに~その木が~知ってることも~フィトは~ぜ~んぶわかるよ~?見直して~くれた~?」
「いや、間延びしてる話し方が見直すポイントからお前をずらしてる。残念だがお前はゆるキャラだ。」
今村がフィトと話している間に祓は頑張って周辺の武装兵力を鎮圧して今村の下へと帰ってくる。その様子を見て今村は気付いた。
「あ、今いつで、ここどこだろ?」
「軽く精神を読んだところですと、数字ではないのでわかり辛いのですがタカキラムという時代らしいです。そしてここはシュトリーム高原らしいです。」
「……さて、どうしようか。」
今村は本の世界に置いてバッドエンドを迎える寸前、戦争に敗れた主人公たち敗残兵を皆殺しにするの目的で放たれた斥候部隊、その中でも主人公たちを発見するグループを全滅させたことを知った。
「……ん~死の直前、敵兵のことを感知してやっと告白してキスするんだが……どうするかねぇ?敵兵が来なかったらあの主人公なら足止めに奮闘して姫と結ばれない気がする。つーか、こんな段階になっても最期まで仕えてくれる忠臣ということで姫の心がようやく溶かされるのに……イベントどうするかなぁ?」
「生き返らせるの~?」
フィトは今村が微妙な顔をしていたのでどこからか種を取り出し、浮遊霊たちを集めて今村にそう尋ねた。
「ん~……突っ込み魂は姫のすぐ上の兄さんが持ってたからなぁ……一応、姫も心の中じゃ突っ込みを入れてたが……それじゃ物足りない気がする……まぁでも、変わってしまった物語を直に見るのもいいか……」
「一先ずはこの小隊が向かう先に行くということでいいんですか?」
「そ。」
今村は祓の言葉に肯定して、眠そうにし始めたフィトを祓に背負わせようとして思いっきり拒否されて自分の背中を占拠され、寝た所でフィトを祓の背中に乗せつつ王城の隠し通路と繋がっているボロイ小屋へと向かった。
「……ん~あ、少ないから打って出て来た。そい、よい。」
「少し、手ごわいですね……」
「瞬殺してんじゃねぇか。」
まったり話しながら今村と祓は敵を薙ぎ倒して進む。ある程度近付いたところで姫が出てきた。そして今村を見ると顔を綻ばせる。
「あなた、良い目をしてる……」
「アレ?ウィリアムは?」
姫の虚ろな目を前に今村は常に傍に控えていなければならないはずの主人公のことを探し始める。姫はそんなことお構いなしに続けてきた。
「誰も信じていない、この世の悪意を見て育った私よりも深い深い深淵の闇を抱えた目……人ではない存在……」
「あ、踏んでた。ごめん。『白寿法』」
「姫!お下がりを!危険です!」
祓は姫がこの後に続ける言葉が何となくわかり、先程殺して踏んでしまっており復活させたウィリアムと姫を見ながらニヤニヤしている今村を見て軽く息を吐いた。
「私は、あなたの贄になるために創られた人形だったのね……」
「姫!お気を確かに!おのれ蛮族!姫に妖術を掛けたな!」
「……あれ?何か変な流れになってない?」
「先生……気付くのが遅いです。」
「ふむ。早い所やり直そう。」
今村は面倒なことになる前に時の力を行使して巻き戻しを行った。
ここまでどうもでした。




