5.お礼をしに行こう
るぅねという過去に創ったゴーレムを見た後今村は元の世界に戻って来てバツが悪そうなフィトとシェンを見ながら言った。
「ゴーレムは……微妙だな。アホすぎる……まぁアレもアレで味があると言えばあるかもしれんが……」
「な、何の話……ですか?」
「いや、あいつらのご褒美の話。」
今村はまだ「幻夜の館」の面々の彼氏造りをするつもりだったようだ。
「ね~多分~嫌がるよ~?」
「嫌よ嫌よも好きの内。……まぁ過去、俺にそんなこと言った奴はアシッドスライムの餌にして非っ常に遅い再生を『これ嫌?』って訊きながら掛けつつ、嫌って言われたら『へぇ、嫌よ嫌よも……何だっけ?』って言って何度も再生して餌にしたが…………まぁそれは置いといてやってみないと分からない。と言うことで、消滅しかかった奴らに好みのタイプを訊きに行こう。」
理不尽な今村がそう決めたのでフィトとシェンは無駄足だろうなぁ……と思いつつ付いて行くことにした。
「好きなタイプですか?先生ですよ?」
突然部屋にやって来て好きなタイプを尋ねられた祓は何を当然のことを聞いているのだろうという風に紅茶を出しながら今村にそう答えた。
「いや、そうじゃなくて……具体的にどういうのが好きか……」
「先生の全てですけど……説明、要りますか?」
「……サイコパスが……」
取り敢えず話が通じない祓に新しい彼氏を作るのは難しそうなので別の提案をしてみることにした。
「何か欲しいのある?この前頑張ったから出来る範囲で何でもあげる。」
「ご褒美……ですか。……アレは当然のことなんですが……くれるならもらいますね。えっと、少々お待ちください。」
そう言って祓は立ち上がり押入れを開けた。その中にはノートがたくさん入っており、その中の一冊を取り出すと中身を今村に見せる。
「……何コレ?」
「先生としてみたいことリストです。」
内容を見て押し黙った後、今村は先程少しだけ見えた押入れの中身を思い起こす。少なく見積もって200冊はあっただろう。
「……さっきの、全部?」
「あ、アレは最近のだけです。入らない分は『個人図書館』にきちんと入れてありますよ?」
今村はドン引きした。だが、いずれ自分には飽きるだろうと次のターゲットのご冥福をお祈りしつつ祓が開いたページの白魚のような指が示している箇所を見る。
「…………お前が立ち去ろうとするのを後ろから無言で抱き止めるってやつ?」
「はい。やってみたいです。」
祓の目はあまり感情を表さない顔と違って爛々としていた。今村はしばしの逡巡の後、頷いた。
「いいよ。……ただ、身構えてて楽しいの?」
「その辺は後で説明するんですが……えっと、後ろから抱き止める時の腕の場所なんですけど、お腹の真ん中あたりで手が組まれる感じで斜めにかけられるのがいいです。……もう少しこだわりがあるんですけど……いいですか?」
「いや、いいけど……」
今村がいいと言うと祓は日頃顔を突き合わせている人にしかわからない位少しだけ目の色を輝かせた。
「ありがとうございます。……胸の少し下側の、横辺りに少し腕が触れてほしいんですよね……この辺りです。」
祓は空気中の水を集めて矢印を造り、今村に示す。どこまで要求するんだこいつと思いつつ今村は一応頷く。
「それで、手は組むといっても掴まないでください。腕の力でぎゅってしてほしいんです。結構強めでお願いします。あ、骨を折らない……いや、折れてもいいですかね……?」
「折らねぇよ……」
祓の発言にシェンもドン引きしてこの話題に触れないで済むように存在感を消した。フィトは寝ている。
「……後は、先生がしてくださるなら何でもいいですかね……」
「この時点で結構注文があった気がするがな。」
「では、今から少しだけ記憶喪失になって一先ずお茶を淹れないといけないという感情を入れますので、後ろを向いたらお願いします。」
「……あいよ。」
祓は術を詠唱して少し考える素振りを見せると水を凍らせて頑丈にすると躓くように進行方向に設置し、満足気に頷いた。
「では。」
祓は術を仕上げて記憶を飛ばした。その瞬間、祓はお茶を淹れる使命感に駆られて高速で動き、足を躓かせてよろけた所を今村に抱き止められる。
「あ、す……スミマセン……」
祓には記憶がないが今村は祓のご要望通りに祓をそのまま強く抱き締めて離さないでおく。祓は顔を真っ赤にしていた。
「あ、あの……い、いえ……何でもない、です……」
今村の方からは祓の視線は見えないが、外から見ているシェンは祓が今村の腕が当たっている胸の辺りを見ているのがわかった。祓は恥ずかしそうに、そしてそれ以上に嬉しそうにしている。
(……これの止め時が分からんのだが……)
今村は今村の方で困っていた。なので、後で八つ当たりと言いようのない恥ずかしさの解消のために【呪言発剄】で殺せなかった敵対勢力の誰かを殺しに行くことに決定する。
「……ね~いつまで~やってるの~?」
ここに来るまでしか起きておらず、話の間ずっと寝ていたフィトが空気などお構いなしにそう言うまで今村は祓を抱き止めていた。
今度はサラの部屋に移動していた。サラの部屋は基本的に赤と黒がデザインの基調になっている部屋だ。そこで今村は既に疲れていた。
「……あんまり訊きたくなくなって来た。」
「む?来て早々何じゃ?」
「……消滅の、礼に何が欲しいか。出来る範囲で何か……」
「……アレは、妾たちが悪かったからのぅ……そう言われても困るんじゃが……」
「じゃあなしな。」
今村はすぐに部屋から出て行こうとする。サラは少し慌てて呼び止める。
「ぬ、主は本当に意地悪じゃの……少し、やってみたいことがあるんじゃがいいかの……?」
「出来る範囲で。気に入らない奴を殺して来いとか大歓迎だ。今はそんな気分だからな。」
「……気に入らない奴は自分で殺すから大丈夫じゃ。椅子に腰かけてくれるかの?これに。そして、少し動かないでいてくれるかの?」
今村は言われるがままに座り、一応何かあった時のための保険に暗器を体中に潜ませる。
サラは、今村の前に立つと少し屈んで今村の頭を抱き寄せようとする。だが今村は動かない。
「……のう、少し、いいかの?」
「あ?動くなっつったろうが……」
今村はサラの成すがままにサラが誇る二つの山脈の中に顔を埋めさせられた。そして空いている方の手で優しく頭を撫でられる。
(……3人は、屈辱的に殺す。悪く思うなよ……敵対した方が悪い……)
祓の一件で殺す相手を探していた今村の標的、5人と13柱の内、3人の惨殺が決定した。
「……仁がのぅ、少し前に死にかけて子どもになった時に……こうしてみたかったのじゃ……」
サラは非常に穏やかな声でそう声をかけて来る。その視線の先にいる今村はいかに惨殺するかという非常に穏やかではないことしか考えていない。
「うむ。……出来れば、またしたいのじゃが……」
「……褒められるようなことしたらな……」
今村はそう言い残して取り敢えず3名を円環悪食陣の残虐刑にかけに出かけた。
爆発すればいいのに。……間違えました。ここまでありがとうございます。




