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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十二章~時の流れ~
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30.感覚がズレてる

「え~……いつも~抱き締めて~くれたのに~……」


 今村が真顔なので残念そうに目の前の少女は抱き着こうと前に出していた手を降ろした。

 フィトと名乗る少女の発言にクロノと祓は少し驚いた顔をして、イヴは敵愾心を剥き出しにその少女に攻撃を加えた。


「……痛いよ~?えい~」


 だが少女は眠そうな顔をしたまま振り返りもせずにイヴを木で作った牢獄の中に閉じ込める。その一連の動作を見て今村は手を打った。


「フィトって、冥界の木か?」


 今村の言葉にフィトはふにゃっとした笑顔で頷く。


「そ~だよ~。あなた~会いたかった~」


 そういいつつふわふわ浮いて今村の方に近付き再度手を挙げて抱擁を促すが今村はそれより気になることがあったので訂正させる。


「あなたのイントネーションに気を付けろ。意味合いが変わってくる。」

「知ってるよ~?これが~正しいよ~?」

「……自意識異常と思いたくないからこんな質問したくないんだが……お前、俺のこと、好きとか?」


 今村が言いたくなさそうに尋ねるとフィトはあっさり首を縦に振った。


「そ~だよ~そのために~人化を~頑張ったよ~頑張って~1秒もね~起きたんだよ~あと~後ろの人~うるさいよ~?」


 フィトは脱力ボイスでそう言うとイヴを問答無用で消した。今村はそれを見て驚く。


「完全に能力封じたな……」

「ほめて~」


 フィトがいい加減抱き締めてくれない今村に業を煮やして頭をぐりぐりしながら今村にアピールするのを見つつ、先程から今村の変化や状況の変化などに追いつけていなかった二人がようやく追いついて今村に質問した。


「あの、この方が誰だかわかったんですか……?」

「フィト。ほら、俺が月に1回くらいの割合で抱き着いて実を回収してた木が冥界にあっただろ?アレが、これらしい。」


 祓の質問に今村は軽く答える。取り敢えず誰なのかはよくわからないが今村がそれでいいと言うのであれば異論はないと祓は黙った。


「さて……寝てるし。」


 祓が黙ったのを見て今村はフィトの目的が何なのか尋ねようとしたがフィトは宙に漂ったまま眠っていた。今村はそれを見て呆れる。


「この俺を前によく……あぁ、そんな奴ばっかりだったな。」

「んにゃ?クロノの顔に何かついてる?」


 自分を前によく寝れるな……と今村は思ったが、クロノや祓も出来れば一緒に寝たがる上、本気で寝れるので今村は言葉を濁す。


「ま、それはともかく、そこに居る奴さぁ。説明してくれんの?」


 色々言いたいことや考えること、また祓やクロノに言っておきたいこともあるが現状としては未知の勢力が目の前に来ているので説明が欲しいと先程フィトがこの場所に来てからこちらを窺っている何者かに声をかける。


「あー……流石ですね。」


 すると何の変哲もなかったはずの島の木が揺らぎ、そこからライトグリーンの髪をした青年が苦笑しつつ現れる。今村は彼に対して少し不機嫌そうに尋ねた。


「……そういうのいいからさぁ。フィトの目的と、お前の目的、そして何をしに来たのか答えてくれるか?」

「フィト……まぁ、お気に入りの名前みたいですしそれでいいですが……」


 今村が今眠っている少女のことをそう呼ぶのには微妙に納得いかないようで、彼はそう前置きしてから言う。


「フィトは私の母親です。母の目的はあなたと会って、そして結婚し家庭を築くこと。私の目的は……嫌嫌なんですけど、それに協力することです。」

「嫌なら連れて帰れ。寝てるから余裕だろ。」


 今村は自分の目の前に浮いている少女を見下げながらそう言った。その横でクロノが何か言おうとしているのを祓があまりいいことを言わなさそうなので口を封じたりしている光景を見つつ男は溜息をつく。


「無理です。私の能力じゃそこのお嬢さんたちにすら劣ります。おそらく邪魔だと思われたらその時点で死んでますね……」

「……生殖タイプは?父親がいるなら術式使って寄り戻させるが……一度惚れた相手がいたら縁の術式も楽だし……」

「母は【木】を司る【五柱神】です……私は母が仕事をしたくないという理由で近くに在った植物に魂を吹き込んだだけなので父はいません……」


 それに返答するための言葉を今村が掛けようとする前に眠っていたはずのフィトが目を擦りながら口を挟んだ。


「旦那様は~あなただよ~?」

「寝てろ。」

「うん~」


 フィトは素直に寝た。口を塞いだことで諍いが起きている後ろを後でどうにかすることにして話を元に戻そうと今村は男の方を見て使えそうな術式を考えつつ尋ねる。


「……こいつと過ごした歴、長い?」

「母は、厭世家ですから結界を張ってましたのでほぼ会ってません……」

「こいつと仲が良い奴は?」

「……まず、起きて活動をしている所を殆ど見たことがないです。今回の頑張りを見て驚愕してます。」


 この男にフィトのことを訊いてもほぼ何もわからないことが分かった。仕方がないのでフィト本人に尋ねる。


「心見ていい?」

「あなたなら~なにしてもいいよ~……あ~、でも~」


 先程までの緩やかな動きとは全く違う速さでフィトは不意打ち気味に今村にキスをしてにへぇと笑う。


「うん~お礼~もらったから~いいよ~」


 後ろの喧騒が止まってこちらを注視しているのを感じつつ今村は術式を行使して溜息をついた。


「……思ったより、肉食系。つーか単純で楽そうで、いいねぇ……」

「好き~」


 術を掛けられたことで起きたのかフィトは今村に抱っこされる形でくっ付いてそして寝ようとする。それに対抗するようにクロノが背後からよじ登っている中で男は若干険しい目で今村に尋ねた。


「何が分かったんですか?」

「……これが、俺のことを好きになった経緯とか。知りたくもなかったがまずそれから見させられた。」


 フィトは別に厭世家というわけではなく、ただ単に強過ぎたから避けられていただけで、その強固な力により外界の全てのことが取るに足りない状態で過ごしていた。

 そんな状態で膨大な年月を無為に過ごさなければならない第3世界の最高神域である【五柱神】を押し付けられて自我が希薄になりこのままなくなってしまうところで奇怪な行動をする今村に出会ったらしい。


(……まぁ、普通に加害者なんだけど。本人的には幼馴染が学校に行く時間になっても寝てる主人公を起こしに来たって感覚だし……)


 今村が使った技【呪死裂断】をその程度で済まされたことに驚きだが、それより深刻なのはこの少女には今村と彼女の友神であるもう1柱の神以外は全て無価値に見えているという状態だ。


「あ~……取り敢えず、こいつの知り合いの所に行って何とか解決案を考えてもらうか……」


 御簾越しで、声の質も良く分からないものだが、男だったらいいなぁと思いつつクロノを降ろして祓にクロノの面倒を看るように言ってから今村は【五柱神】のいる神域へと飛んだ。




 ここまでありがとうございました。


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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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