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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十二章~時の流れ~
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29.溜息だよ

「……あぁ……ああぁぁ……ぁぁああぁぁぁあぁぁあっ!嫌です!行かないで!止めてください!」


 時が止まったかのような静寂の中、クロノの慟哭が響くその声に被せるようにして絶叫が迸った。その声の主を見てクロノは叫ぶ。


「バカ!死んじゃえ!来るな!皆……皆死んじゃえ!何で、何で、お兄ちゃんばっかり……」

「いや、全くだ。」


 泣きじゃくりながら崩壊しつつあった今村の体を抱えていたクロノは目を真ん丸にした。


「え?」

「……何気に恥ずいから。ちょっと離して?」


 今村は普通にクロノにそう頼む。首がクロノの太腿の上に乗っているのはいいのだが、顔がクロノの胸の付近で抱えられており、体勢的に母親が子どもに授乳しているような状態になっているのだ。


「……え、うん……」


 クロノが少し身を離すと今村は起き上がって溜息をつく。


「……あ~……俺に休みと言うのはやって来ないらしいな……ほんっと、皆死ねばいいのに。毎回毎回……前回の城での一件でも……その前の異世界でも……みぃんなすべてがウザい。いい加減にしてほしい。休みたい。休みたいなぁ。」


 今村は溜息の後に頭を掻きつつぼやき、空を仰ぐ。崩壊した天井の上は闇やら水柱が視界の縁に入っているがいい天気だった。


「だから死ね。」


 空を見上げている内に視界に入ったイヴを見て今村は端的にそう告げてイヴを呪言で殺した。


「……何でコレがここに……ウザいんだけど。ほんっと。死ねよ。」


 今村はイライラしている。正気に返ったクロノは今村に飛びつこうとして今のご機嫌がよろしくないことを理解して止まる。祓も今村に色々と言いたいことはあったが取り敢えずご機嫌がよろしくないので口籠った。


「……はぁ。まぁ……起きたものは仕方がない。あ~……休みたい……そろそろ体感時間と普通の時間を揃えて1日は24時間だけにしたい。一日3時間以上はちゃんと一人で深い眠りに着きたい。……お前は永眠してろ。」


 またいつもの生活に戻ることをぼやきいていると呪言で殺したイヴが闇の中から再び現れてきたので今村は殺し直す。


「……あ~……嫌だなぁ……仕事したくないなぁ……ふむ。それはそれとして、ドイスの馬鹿に起きた現象の応用式はきちんと起動したな……魔法院に提出してもいいが仕事したくないしなぁ……機密扱いでいっか……それかセ……【無垢なる美】に術式だけ送りつけておくか……?」

「な、何で……」


 何か耳障りな声が闇の中から聞こえてきたので今村は無言でその中にいる何かを闇ごと消し飛ばす。


「お、怒ってるんですか……?」

「……ウザいなぁ……休み明け一番にこんなのに遭うとかマジやってられないんだがほんっとに……」


 壊れかけの家の中にある影の中から怯えるような声が聞こえてきたので今村はクロノをお姫様抱っこして外に出ると家ごと吹き飛ばした。


「……大丈夫だな?」

「え、う、うん……」


 クロノはまだ現状についていけていない。今村の声掛けに曖昧な反応を返すと地面に降ろされた。その影から声がする。


「ひ、仁さん……何で怒ってるんですか?」

「……別に怒ってないけど。」

「それじゃ、何で……」

「不快な音が聞こえるから消したいだけ。つーか、嫌いなだけの物に怒らないだろ。居なくなればいいから排除するだけで……」


 今村の返答を聞いて影から黒髪の絶世の美女は微笑みながら出てきた。その喉元には先程までなかった痛々しい傷がある。そして闇が文字を作った。


 これでいいですか?


 そう文字が浮かんでくるとクロノは文字通り引いた。今村は特に表情を変えると言うこともせずに文字ごと彼女を「黑之焔」で消し炭にする。すると再び闇が浮かび上がる。


 今度は、何がダメでした?


 その問いに今村は端的に答える。


「お前という存在全て。……はぁ。あ~もうウザいよぉっ!死ねばいいのに!出て来い屑!今度は攻撃しないから!」

「………………はい……」


 今村の答えに闇が揺らいだところで今村は叫んだ。今村が感情的に叫んだところ等見たことなかった祓とクロノは驚きながら今村を見るが、今村は苦々しい顔をしてイヴを見ているだけだ。


「な、何が……何で、怒ってるんですか?」

「……殺しといてよく言えるな。あーウザい……何がウザいって、殺したいけど殺したら第2世界以下の世界の光と闇の均衡が崩れるのが一番ウザい。最悪の人質だよこの屑……再封印しよ。」


 今村が封印の準備を始めたことでイヴが慌てて今村に詰め寄る。


「わ、私はそんなことしません!冤罪です!仁さんとは言え、言っていいことと悪いことがあります!」

「……先程、私に言っていたことと違いがありますが?あなたは治せば何をしてもいいと言ってましたよね?」


 そんなイヴに祓が冷たい目でそう言った。イヴの目から光が消えて祓を闇が覆う。


「仁さんと私の甘美な会話に入るな雌豚……」

「……光よ。」


 油断していた祓を闇が圧縮し始める前に今村が祓を救出してすぐさまローブで確保して自分の隣に降ろした。


 そして祓は地味に自分とイヴに怯えているクロノがいる距離がいつもより今村に近いのに気付いたが、目の前の黒髪の美女が恐ろしい目でこちらを見ていることでその情報は打ち消されてしまう。


「なん、で?仁さん、それ、私じゃないよ?」

「見りゃわかるに決まってんだろ馬鹿が。脳味噌入ってないんだろ?誰かに闇の権利譲って死んだらどうかな?」

「……欲しいなら、仁さんにあげるけど……」

「仕事を増やすなぁああぁぁぁぁああっ!」


 また今村が大きな声を上げたことで祓たちは一瞬驚いてびくっとする。イヴは今村以外にこれはあげないとだけ言って闇を全部体の中に仕舞った。


「……それで、その、雌ガキたちは……仁さんにとって、何?」

「生徒と今世における妹分。良い奴らだよ。少なくともお前の何百倍……いや何兆倍もな。あ、間違えた。負の数に掛け算したら負が大きくなるだけだ。まずは2乗してもらわないとな。」


 これだけで褒められたと解釈したクロノは嬉しそうにし、祓も笑みを溢して、イヴが二人を睨みつけてぶつぶつ言い始める。


「そうか、仁さんは、この女狐に騙されて……」

「聞こえてるぞ?狐はお前だし、騙されてもない。……まぁ、仮に騙されてたとしても別にいいけど。」


 クロノと祓は思わず今村の顔を見た。だが、目の前の強烈な殺気で視線を戻さざるを得なくなる。


 目の前では闇が溢れ出ていた。それを見て今村は嘆息する。


「面倒臭ぇ……これだから、こいつの相手はやってられんのだよ。負の気持ちが強くなれば強くなるとか……」


 今村がため息をつきつつ臨戦態勢に入ろうとしたところで目の前に突然何かが浮いて現れ、その場でふよふよ浮いた。


「待って~……あ~……えへ~……やっと~、会えたね~」

「……どちらさん?」


 現れたのは保護欲を過剰なまでに漂わせた新緑を思わせる髪をした少女。その可愛らしさは第1世界の原神までは行かないものの、第1世界でもトップクラスの可愛らしさを誇る。


 だが、今村はこれが誰だか知らない。そんな今村を見て彼女は笑って自己紹介した。


「私は~フィトだよ~。会いたかった~」


 そんなふよふよ浮いて脱力するような声を出しながら今村の方に近付いて来る彼女に対して今村は言った。


「だから、誰?」




 ここまでありがとうございました。

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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