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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十二章~時の流れ~
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27.何だろう?

 一先ず家に戻った今村はくっ付いて離れないクロノに懇切丁寧に自分とクロノは赤の他人であることを説明した。


 それを聞いてクロノは悲しげで困ったような難しい顔を今村に向けて椅子に腰かけている今村の上で対面したまま言い放つ。


「もしかして、また記憶喪失なの……?」

「あ?またも何も……」

「クロノたちの所為だよね……ぅぇ……ごめなしゃぁ……」


 また泣き始めたので今村はクロノをあやす。今村的にあまりいい絵面とは思えないが片手で抱き締めてもう一方の手で頭を撫でるとこの童女は落ち着くらしいので、実行に移す。

 案の定クロノは抱き締め返してきて落ち着き始めたので今村は大きく息を吐いた。


(疲れる……これ誰だよマジで……実験の一環か?)


 そんなことを思う今村を前にクロノは何とか泣き止んで笑顔を作った。


「…………ひくっ……じゃ、じゃあお兄ちゃんが思い出してくれるようにクロノからお兄ちゃんとの思い出のお話しするね?」

「……まぁ、いいよ。」


 今村的にはどうでもいい。という意味で皮肉を込めそう言うが、口に出すとまた泣き出すので内心だけにとどめておく。


「んとね、クロノとお兄ちゃんはね、町中で会ったの。クロノが癇癪起こしてたのをね、パンチしてくれたの。」


 取り敢えず今村は黙らざるを得なかった。普通に事案のスタートだった。少しの逡巡の後に今村は尋ねる。


「……お前、俺に攻撃して来たか?」

「!うん!思い出してくれたの!?」

「いや、じゃないと正当防衛じゃないから困っただけだ。」


 今村は正当防衛であれば許されると思っているのでクロノの答えを聞いて安心したように頷く。過剰防衛は彼の頭の辞典から削除されているのだ。

 クロノは続けた。


「でね、クロノお兄ちゃんについて行ってね、優しくして貰って泣いちゃったの最初は怖い人だ、痛い……とか思ってたけどね、クロノの間違いだったよ。」

「……ちょっと待て、俺、何をした?」


 説明を聞くにどうも怪しい。と言うより非常に不味い雰囲気だ。この童女が嘘をついているのかもしれないと今村は若干本気を出して童女を見ているがどうもその様子もない。


「お兄ちゃんはクロノに優しくしてくれたんだよ!初めてで、温かくてとっても嬉しかった……」

「……マジ何やってるんだ俺……君、取り敢えず訊くが、俺は君にどこで何をした?具体的に言ってもらわないと俺が何をしたのか分からないんだが。」

「ホテルでね!お兄ちゃんはベッドの上でね!クロノの手を握って色々教えてくれたんだよ!人と繋がってられることがどれだけ温かいとか、一人はね、ダメダメになることとか……」

「アウト……」


 今村は力なくそう言った。そして自分が知らないところでロリコンだったという事実に愕然とする。

 目の前のクロノは無邪気に今村を見て笑顔でいる。その目をしっかり見てその細い首筋に手を当てて頸動脈に軽く触れて今村は尋ねた。


「……今の、全部本当のことか?」

「うん……」

「目を閉じるな。顔を近付ける……」


 クロノはその眼差しを受けてこくんと頷いた後に今村にキスをした。混乱中の今村は動けずにそれを受ける。舌を絡められたところでもう頭の中がどうでもいいやで占められてしまった。


「もう、ダメ人間だな。死のう。」

「だ、ダメだよぉ!クロノ、お兄ちゃんいないと死んじゃう!もう生きてけないよぉ!」

「……ほんっとダメだ…………死のう。もしかしたら実験とかいうのも嘘で性犯罪者になった俺を組の奴らが薬打って洗脳して体よく監禁したのかもしれん。」


 そう考えれば色々と辻褄が合ってきた。


(実験と言うのに誰か来たことは変にこいつが騒いだら大変だし、本人も望んでいるということで俺の島に送り、外部の人間、つまり組員が来てるとバレたら俺の洗脳が解けるかもしれないと。組のルートを使えば銃火器は送れる。相手が俺で、厄介さ加減を知ってるから高待遇という訳か……)


「あの、し、死なないでね?もう、居なくなっちゃやだよ?」

「……まぁ死にたいと言うのは俺にとって挨拶代わりだからそんなに気にするな。常々死にたいと思っているがまだ死んでない。……今回は、どうだろう?いかんな落ち着こう。」


 今村は落ち着くために息を吐いた。そして落ち着いたところで嘘に関する情報を引っ張り出す。


(仮に、こいつの頭の中でこれは嘘じゃないって思ってるだけの嘘かも知れないからな……そういうタイプもいる。そういう奴は細かいことを聞かれると設定が破綻する。)


 と言うことで質問しまくった。そして、後悔した。今村が尋ねたことにきちんと答えた上に、訊かれていないことも答えて、時折思い出した?と尋ねて来るのだ。繰り返させても一番最初に言ったことはとても大事なことらしく同じでその後が小出しで出てくる程度。


 その内容も、お風呂に入って目にシャンプーが入って痛かった。痛かったから助けてもらおうとお風呂から裸で勢いよく出て来たら鞭を持ったお兄ちゃんが目隠しして来た。とか悲惨な内容だった。


「……俺が悪かった。」

「お兄ちゃんは悪くないよ?クロノが悪いんだよ?クロノが悪い子で言うこと聞かなかったからお兄ちゃんはどっか行っちゃった……もう、何でも言うこと聞きます。だからお願いします。許してください。」


 今村から離れて土下座するクロノ。今村は天井を仰いで溜息をつき……そして天井が崩壊する様を見ることになった。


「っちぃ!組の奴ら俺にバレたと思って殺しにかかって来たか!?お前は取り敢えずどこかに隠れておけ!」


 今村は盛大に舌打ちをするとクロノの返事を待たずに家を焼き討ちされる前に楯代わりのテーブル倒して転がして速やかに外に出た。


 だが、そこには何もいなかった。


「……あ゛ぁ?」


 空を見上げるが何一つない。まさか衛星から射撃とかそんなSFチックなことでも始めやがったか……?と上空を睨むが、そんなことをしていたのであれば今村は今頃死んでいる。


「……何だ?竜巻かなんかが起こって上空に何かが巻き上げられた気流に乗ってしばらく移動した後降って来たとか……じゃないよな。なら何かしら物が落ちてくるはず……」


 今村は首を傾げる。先程は色々処理しきれないことがあった状態での事態に驚いて平静を失っていたが、考えれば何も降って来ていないことに気付いてあまりの意味の分からなさに首を傾げた。


「……竜巻?……いや、この島の……それに今日の気候でそれが起こるとは考え辛いよな……それに、風が巻き上げられるような動きじゃない。何かが落ちてくる感じの壊れ方だった……」


 謎は謎のままだったが、今村は首を傾げて家の中に戻るとクロノを連れて倉庫に使おうと思っていた別の建物へと移動して行った。




 ここまでありがとうございました。

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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