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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十二章~時の流れ~
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26.観点がおかしい

「はっあはぁ~っ!死ね!ミンチにしてやる!摩り下ろして固めて板で焼いて蒲鉾にしてくれるわ!」


 今村がサメ狩りに勤しんでいると遠くの方から何かが流れてきているのを発見した。


「……?取り敢えずあんまり大きくないが、威嚇の発砲しておくか……」


 思考が大分おかしい今村は海面へ向けて二度の銃撃を行う。だが、それからの反応はない。


「……何だ。じゃあ木か何かか。」


 そう考えた今村は電動リール付きの銛をサメの頭目掛けて発射して確実に殺して引き上げると本日の漁は終了とばかりに海岸に向けて舵を切った。


「……ん~にしても、どの部分が蒲鉾なんだろう……フカヒレは……味付けしないとあんまり感想のしようもなかったしな……乾燥した方がいいんかな……?」


 泳いでいる生き物は毒がない限り大抵煮て食べられると思っているし、基本的にそうして食べているがあまり美味しくないのであれば百葉箱のようなものにリクエストして美味しい物を送ってもらった方がいいかな……などと考えながら上陸し、1メートル前後の良く分からないサメを引き摺り上げるとこちらに先程の何かが漂着して来ているのが目に入る。


「……速くないか?」


 今村は首を傾げる。今村が乗っている船は小型とはいえ、モーターが付いているモーターボートのため、それなりの速さは出ているはずなのにあの漂着物は陸に着いて間もない今村の後を追いかけて来るかのようにそこにある。


「……じゃ、泳いでる?ん~……でも反応なかったし……」


 もう一回撃つかな?そう思っていると微かにモーター音が聞こえてきた。先程は距離もありサメと格闘していた上、リールの音や自分の乗っている船の音がして聞こえていなかったし、何より自分が喋っている時以外は全力で歌っていたので気付かなかったのだがどうやらあれは船らしい。


「……あれ、船か?目が悪いと何か見えねぇんだよなぁ……」


 サメを船の中に降ろすと今村はその船を見る。もしかしたら実験が中止になってしまったのかもしれないと思いつつその船を待つ。


(……荷物が乗ってるのかな?……もし仮に人が乗ってたとしても俺の方から会いに行かなければいいはず。もし、向こうから来て実験失敗だとか言われたら……まぁちょっとお話合いがいるな。)


 事と次第によっては全て告発する予定だ。そう思いつつ近付いてくる船を見続けていると船は浜に乗り上げる前に岩礁か何かに乗り上げ、それでも愚直に進まされたためバランスを崩してひっくり返り、動きを停止した。


「……これどうしよっか?」


 小型船舶ほどの大きさもないモーターだけを積み込んであるボートは見渡す限りの大海原を旅できるような代物では到底ないはずだが事実としてここに流れて来た。

 ついでに何か放り出されたのでそれを遠巻きにして眺める。どうやらそれは人間のようだ。


「……これは……実験の利を取りますか?それとも人の命を取りますか?ってところかね……?にしては金掛け過ぎだが……」


 取り敢えず波に流されているのでその方に行ってみる。背中に2振りのナイフと両袖に1つずつ暗器、そして両太腿に2本ずつナイフを持ち、銃を持った今村はその流れている人を見て思わず息をのんだ。


「……不釣り合いだろ……」


 幼い顔立ちでどこからどう見ても10と少しと言った風貌をしている童女がそこに居た。だが、問題はその容姿だ。目を閉じた状態でもわかるそのあどけない中に美しさを秘めた顔。そして大きな胸。


「……腫瘍か?……船に乗っていた状態で何かしらのトラブルが起き、持病の悪化で流され……いや、それなら何らかの病原体持ちの線が強いか?今まで太陽の下に晒されたことないみたいな白い肌してるし……後考えられるのは気胸……ではなさそうだよな……呼吸で苦しくはしてなさそうだし。……見たことないレベルで幼少期に胸が膨らむ……ホルモンバランスの異常なんだろうか……?」


 取り敢えず、海で浮いている状態でも目立つそれ。今村はそれが偽物かどうかは良く分からないが薄い生地の服を着ているその子の浮き方を見るに体に繋がっていることは間違いなさそうだ。


「……ホルモンバランスの異常だと考えるのであれば原因は胸じゃないかもしれないな……まぁその辺の考察は置いといて一先ず海からは上げておこう。体温が低下するし……サメ居るし。」


 ということで病気だったら嫌だし、訴えられるのも嫌なので接触はあんまりしない方向で行き、オールで突いてその子どもを陸へと運んでみる。その最初の一手でその子どもが目を覚ました。


「……あー取り敢えず、生きてたかっ!?」


 今村が気まずげにそう口を開いた時にはその子どもは今村に飛びついていた。反射的に攻撃態勢に入ろうとしていた自分自身に苦笑しつつ、それでも一応武器は構えて子どもに何の用か尋ねようとして子どもが慟哭し始めたのにギョッとする。


「おにぃぢゃぁあぁあぁぁああぁん!ありがとぉおぉぉぉっ!」

「へぁ?……人違いだと思いますが。」


 何だか知らない人がいきなり泣きながら自分のことをお兄ちゃんと呼んで感謝して飛びついて来たので変な声を漏らしつつ否定する。

 だが、この童女は聞く耳を持っていないようだ。服がずぶ濡れになって張り付いてイラッと来ているのを我慢しつつその子どもに尋ねる。


呉羽くれは……じゃないよな?アレはもう少し成長してたはずだし、つーか俺自体の年齢を鑑みるにもう成人してるはず……第一アレは可愛くない。」


 微妙に覚えていない妹のことを思い出しつつ今村は呟く。その間クロノは泣きながら今村にしがみ付いていた。

 個人的に鼻水は出ないんだこいつ。とか思いつつ今村は何を言っているのか理解してみようと聞くことに努めてみる。


「うぇ……しゅきぃ……も、行かないで……クロノ、がんばって、なおすから……お兄ちゃんの言う通りにするから……」


 今村は落ち着いて欲しいが離れるつもりがなさそうな童女を見て溜息をつく。人違いと理解してくれないらしいのでこの童女を持ったままサメを蒲鉾にしないといけないようだ。


 今村はサメを蒲鉾にするのに固執していた。重いが、頑張ってサメを掴んで童女を背負って家に戻る。


「えへへ……またおんぶしてもらった……夢じゃな……ふぇ……」

「……あんまり泣かないでくれるか?うるさい。」


 また泣き出す前兆の様な物を見せていたので今村は先に釘を刺しておく。クロノは慌てて止めた。


「お兄ちゃん……お兄ちゃん……」

「…………人違いなんだよなぁ……」


 後ろではしゃぎ始めた童女を見て降りろと言って行動で示したが、降りたらそのまま立てなくなるという事態が発生したのでしかたなく背負い続ける今村は道中何度もその言葉を呟くのだった。




 ここまでのお付き合いありがとうございます。

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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