25.無駄で無為
(……いけない。今、揺らいでしまった……)
もうどれくらいの時間が経ったのだろうか。祓は「ディザイア」の言うがままに常に瞑想をしていた。
この場所はゲネシス・ムンドゥスに比べて非常に時の流れが早い世界だ。ゲネシス・ムンドゥスの時を1とするとここでは1億程度の流れの早さになっている。
『……揺らぎにより、時間が伸びる……心を殺せ、汝に感情など不要。』
「ディザイア」から声とも言えない音が聞こえてくる。祓はその声が言うがままに無の状態を作り出す。
「ディザイア」の目的は能力の行使のない状態でも質のいい恒久の魔力の流れを手にすること。
つまり、今村の下へと戻ることらしい。「ディザイア」にとって今村の下に帰ることは全ての物質が持つ存在欲を満たすことに繋がるため利害が一致したということで祓に協力をしたらしい。
祓は外に出現した巨大な力がゲネシス・ムンドゥスへと向かっていることに内心焦燥感を感じつつもこの中から外に出る際には少し前でも問題ないと判断して瞑想に戻った。
「……あえ?皆死んじゃった……」
クロノとカオスたちの戦いは終盤において戦いと呼べるようなものではなかった。クロノが一方的に蹂躪するだけして何度か殺しては時を戻すということを繰り返し、飽きて終わったというだけのこと。
「死んじゃった……死んじゃったよ?クロノ何してたんだっけ?うっ……」
首を傾げると胸の辺りから圧迫感がせり上がって来て何かがクロノの口に上がってくる。それをクロノが出すと、真っ黒な何かだった。
「……あれ?……魔力……ねむ、い……」
真っ黒な何かが自分の魔力だと分かったクロノだが、不意に目を開けていられなくなるほどの眠気を感じてその場に崩れ落ちる。
瓦礫の散乱する街角で凄惨な形で殺された面々と、体から魔力を抑えることなく気を失ったクロノ。
そんな場所に一人の男が降りてきた。
「……手を貸すと兄ぃに怪しまれるから本当は出したくないんだけど……」
金髪で癖のある髪をそのままにしている美少年。彼は光の鱗粉の様な物をばら撒きながらクロノに近付きそのあどけない顔を見て一瞬妙な考えを過らせるがそれをすぐさま打ち消して術を掛け、クロノを浮かせて立ち上がる。
その瞬間、後ろから飛来物が少年を掠め、宙に浮いたクロノの細い腕に絡みつく。
「っと。……おっさん。まだ生きてたんだ?」
浮いたクロノに背後から黒帯が結び付けられたことだけを見てその少年は振り返りすらせずに背後の存在に声をかける。
背後の存在は割れかかった声で少年に答えた。
「我と、我と、その強き子、交配せし、我が世界を、復古させ、復興、我より強き子を作……」
「そんなのどうだっていいんだけど?……取り敢えず、俺の世界で好き勝手した罰だね。『カーレリッヒ』。」
少年が振り向き様に言った言葉でその存在はすり潰されていく。だが、少年は止まらない。
「次、兄ぃのモノに手を出そうとしたこと。」
すり潰した存在がどう集まって元に戻ろうとするのか数多の戦闘体験から見抜いて少年は追い打ちをかける。
「最後、勝手に入って来たから俺の仕事がまた増えた。償え。」
「世を……我が世界をぉぉおぉおぉぉっ!」
小さな果実が弾けるような音と共に彼の存在は魂ごと潰されて死んだ。少年はクロノに付けられた黒い帯を切断して自分の背に乗せた。
「……俺だって少しくらい役得があったって……わかったよ……」
柔らかい双丘の感触と、直に触れてから始まった魘されるような声で葛藤したりもしたが少年はクロノを術で持ち運びすることにしてその惨状を一瞬で治した後にこの場から立ち去った。
(……さて、どうしよっか。……今のこの子の状態なら兄ぃの所に送っても見えるし触れるんだよね……「幻夜の館」に送るべきか、それとも……)
そんなことを思いつつ。
「……また死んだ。初めてやったがギャルゲーって思ったより難しいんだな。主人公もヒロインもこれで何回死んだことやら……もう飽きた。クリアとかどうでもいいや。」
今村はゲームをしていた。リズム系、ロールプレイング、アクション、推理、競馬、シュミレーション、シューティング、スポーツチーム、ホラー……色々やったが今村はギャルゲーでの死亡回数が圧倒的に多かった。
初めて聞いたリズム系ですらノーミスクリアをやってのけたがギャルゲーだと初手で主人公が車に撥ねられて死んだ。
尤も、そんな選択肢が「遅刻確定だが走って登校」「遅刻確定なので歩いて登校」で歩くと轢かれて死ぬということがおかしいのだが。
その上、映像の8割4分がバイオレンスなD指定のギャルゲーだ。果たしてそれをギャルゲーと呼んでいいのかどうかは発売者すら分かっていない。
それは兎も角、このジャンルのゲームに対する評価は今やったゲームで固定されたのでこういう系統はもうしないことにしてまだやってないジャンルに手を出す。
「……仕方ない。エロゲに移行するか……これ面白いんかな?」
裏面のストーリーを先に読む。そして呟く。
「……少子化対策で、んな適当なことやったら子どもの家庭どうするんだよ……国で育てるのか?財政大丈夫なのかそれ?それに、子どもの情操教育とかはどうするのか……?人権問題はどうなんだろうか……諸国に対して自国だけが少子化の状態でそんなもの受け入れられるはずがない。……つーか、人間の体ってそんな心と体が異なる状態になるほど感じるってことはあんまりないと思うんだが……まぁやるけど。」
やってみた。一応20分やって飽きた。
何か毎回のストーリーにおいて色々と破綻していたのでテキストは全部飛ばしてことが起きてる最中も長いと言う理由でほぼスキップ。
くだらないことに時間を費やしたと猫を探してモフろうと思ったが猫もいなくなっていたので今村は溜息をついて他のゲームを探る。
「麻雀はあんまり好きじゃないし囲碁将棋もなぁ……銃火器が身近にあるからこれもいいや……仕方ない……俺は建国シュミレーションかロールプレイング、もしくは無双系くらいしか合わないんだな……後時々リズムゲームか。じゃあ新武将作りまくって……あ、時間か。」
そろそろトレーニングの時間になっていたので今村はゲームの山を放っておいて外に出てまずはサメで蒲鉾を作ろうと銃と高出力のスタンガンを持った。
ここまでの読了お疲れ様です。




