表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十二章~時の流れ~
424/644

21.奇妙な空間

【精神防護壁が壊滅状態です。至急精神の安定を図って下さい。感情は負。甚大なダメージが想定される世界干渉が起きることになります。精神防護壁が壊滅状態――――――】


 滅世の美を持つ女神の心内に危険水域を示す声が聞こえてくる。だが彼女にはそんなことなど、どうでもよかった。


「……要らないよ。こんな世界……」


 ぽつりと呟いたその言葉により結界内の全ての―――今村が持っていた物、もしくは創った物以外の全てが形のあるなしに関わらず崩壊し始める。


 崩壊が始まったその瞬間、彼女の探知エリアの一部が消失しする謎の空間が存在を現したことに気付き、彼女は顔を跳ね上げた。


「!開界!」


 全ての術がそこに向かうと不明瞭になり消える。まるでブラックホールのような空間に滅世の美を持つ女神は間髪入れずに術式を入れる。だが、世界間を繋ぎ安全な航路を創るための術すら消え去った。


「……どうせ、仁がいない世界なんてどうなってもいいんだ……行くぞっ!」


 彼女は中を確かめることを諦めてすぐにその中へと飛び込んだ。だが、その前に彼女の襟を掴む女性が現れる。


「……っ!放してくれ!」

「【可憐なる美】様。落ち着いてください。その中は危険です。」


 現れたのは彼女の元側女。今はある世界の狂った宿屋のおっさんに追いかけられて、最近観念して結婚した女性だ。その彼女が【可憐なる美】を諭そうとして睨みつけられる。


「……君にはわからないんだろうね。君は、好きな人が君のことを最初から見てくれてたんだから。ボクは……やっと、やっとの思いで少し甘えることを許してもらえたのに、こんなの、絶対、嫌だ。」


 元側女の女性は未だかつてない程に情緒が不安定になっている【可憐なる美】を見て少し頭を痛ませる。


「落ち着いてください。あの方が居なくなられたり急に消えることなんて日常茶飯事ですよ?」

「じゃあこれを見なよ!」


 【可憐なる美】はそこに封印されたままの「呪刀」と「カースローブ」を指して八つ当たり気味に感情を発露する。


「これを外すなんて……」

「転生初期、あの方は人間として生活をするためにそれらを手放していたと聞きますが?」

「……でも!手紙があるんだ!」


 一瞬考える素振りを見せた【可憐なる美】に押せば何とかなりそうだと少しだけ心に余裕を持った元側女は優しく諭す。


「よくあることですよ?あの方は、個で完結されている方ですからよく【可憐なる美】様もあの方にとっての世界には要らない。とあの手この手で弾かれて来たじゃないですか。」


 【可憐なる美】は黙った。もうひと押しとばかりに元側女は続けようと、そうして【可憐なる美】がその名前に相応しい美しい花唇を開いた。


「でも、顕現した時に情報が入って来たんだ。……あの、屑男と戦ってすぐに消滅を解除したって。情報源の女性型機械は直接仁から話を聞いてたし、強制終了した後の何をしたのかも世界に訊いて……そしたら、爆発したって……嘘だと思って、薄い手掛かりを探ったら、ここに来て……」

「っぐ……」


 【可憐なる美】のいじらしい可愛らしさに中てられてよろめく元側女。だがここで彼女は何故【可憐なる美】が不明な空間へと入るのに反対なのかと内部の話をする。


「あそこには、少なくとも私より強いと思われる存在が居ると思われます。この術式を創ったのは……おそらく【魔神大帝】様の可能性が高いですが……!お、お待ちくださいまだ話が……」

「それで十分!」


 【可憐なる美】は最後まで話を聞かずに空間の中へと飛び込んだ。いつの間にか精神に侵入されて反応を遅れさせられたことに気付いてダイアモンドを噛み砕く程の噛む力で歯噛みする。


「話を聞いてくださいよ……その術式と、中の気配はおそらく違うのですよ……すぐに行きますから、お待ちください!」


 そして彼女も飛び込み……すぐにその中での光景に目を奪われる。


「……普通に居ましたね。」


 今村は普通に遊んでいた。ただ、少し様子はおかしい。自分は兎も角歓喜している【可憐なる美】の姿すら認めていないようなのだ。


 彼女たちが来たことに気付いているであろう存在は、空間の中にある大海原の只中の島の、今村にモフられている猫たちだけだろう。


 ただ、その猫たちの存在も奇妙なものだった。【可憐なる美】を見ても自我を保っており、何と言ってもその存在値が第1世界でもかなり上位に近い存在ばかりなのだ。


「……触れない?」


 そして、元側女の疑念は続く。【可憐なる美】は今村に涙を浮かべながら飛びつこうとして飛んで行ったのだが、【可憐なる美】は今村の体を何事もないかのように通過し、すり抜けたのだ。


「どういうことですか……?」


 この世界は歪みと思われるもの、不可解な点はあるもののきちんとそこに存在はしている。また、今村もあるように思われる。猫たちも同様だ。


 ただ、外部から来た彼女たちは島の砂、海の水、そして島の植物たちや動物たちには触れられるものの、それを動かすことは叶わず、更に今村にだけは触れることすらできない。


 【可憐なる美】は何とか自分の存在を今村に知らせようとしていたがしばらくしてから苦笑して戻って来た。


「……この世界、変ですが……」

「うん。とっても古い術……いや、法式を使ってるね……ボクでも思い出すのに結構時間がかかったよ。」


 この法術のことを思い出したらしい【可憐なる美】は帰ることを元側女に提案した。元側女は驚いた顔をするが、それを見て【可憐なる美】は少し不満気な顔をする。


「なんだい?」

「いえ……いいのですか?」


 元側女は今村の方と【可憐なる美】の方を交互に見ながら尋ねるが、【可憐なる美】の方は言い切った。


「生きていてくれたのは分かったからね……それに、この法術を使ったということは仁は本当に休みたいようだから……これ、破り方を知ってれば結構簡単に破れるんだけどね……」


 内心ではもの凄く破って今村を自宅に連れて行きたいと思っているが、今村のことを考えてそれは止めておいた。


「……でも、お休み位はいいけど。ボクは諦めないから。うん。……今の所全ての記憶と全ての能力を代償にして消滅を回避したみたいだけど……まぁ、仁だし大丈夫だよね?それに、もし全部忘れても、ボクは忘れないから。」


 【可憐なる美】は聞こえていないのを承知で今村にそう言うと触れられないが形だけキスをして「またね?」と告げると元側女を伴ってこの世界から出て行った。




 ここまでありがとうございました。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
よろしければお願いします
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ