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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十二章~時の流れ~
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19.この世界に光臨

「……あれ……?何で……?」


 クロノは意識を取り戻した。それと同時に首を傾げ、周囲を見て体を跳ね上げさせた。


「み、皆……どーしたの?」


 クロノの目の前は目は開いているものの放心状態で倒れたままの人や、ぶつぶつと何か言い続ける人。泣き喚く人や理解不能な動きをする人たちがいた。


「……んにゃ?手紙……お兄ちゃんからだ……!えっと?この魔法陣に手を触れてれば文字が浮かび上がるのかな?」


 クロノは取り敢えず深く考えずに手紙を開いた。




『モナルカ・クロノ様へ


 この度は私事に巻き込んでしまい誠に申し訳なく思っております。つきましては全快するように私の方で術式を編ませていただいたのでご寛恕、ご理解の程、よろしくお願いします。

 また、この手紙を読まれておられる頃には全快しているように術式を編ませていただきましたが、精神の方までは手が回っていない可能性があります。その場合にはお手数ですが記憶を変容させる機械の方を創って設置させていただいておりますのでご自分の魔力でご使用いただけることをお願い申し上げます。私の方で実行したかったのですが、生憎すでに限界が来ておりますのでそれは叶いません…………』




 この時点でクロノは首を傾げ、内心がざわめいて嫌な予感がし始める。この様な変な文体を今村が使っているのを見たことがなかったのだ。


「何……?何か変だよ……?」


 理解できない不安に過呼吸気味になりながらクロノは先を読み進める。




 『さて、体の件に関しましては以上で大まかな説明を終えますが、おそらく次に気になっておられることは何故私がこのような文を書いたのかということだと思われます。この件に関しては、おそらく少しショックなことに……いえ、あなた方にとってはおそらく非常に驚くことになると思いますが、私はあなたがこの手紙を読んでいる頃には既にあなたとお話しできるような状態ではなくなっており先ほど述べたことを伝えられる状態ではないのです。』




 クロノはその時点で頭の中がぐちゃぐちゃになって何も考えられず手紙を手から落とした。その瞬間、大声で泣いた。


「っ……これも、私のせいで……っ!何で、何で私は……っ!」


 白崎は手紙を持ったまま血の涙を流さんばかりの表情で立っている。彼女は衝動的に何度も死のうと思ったが、プログラムに却下されるということを繰り返しており、自分だけ今も生きていることに恐ろしい位の怒りを感じている。


「何で、死ねない……私が、最悪で、醜い心の……誰からも必要とされてない私が何で……」

「うるさい……!死ねば楽になれると思うな……一人で悲劇のヒロイン気取ってるんじゃない……!」


 ミーシャが白崎を睨みつける。お前が引き起こした事態で、お前には悲しむ権利すらないと射殺すような視線で暗に伝えているのだ。


 できれば八つ裂きにしたいがミーシャの体は動くことを拒否している。怒りは感じられるが虚脱感が体を支配していて何もできないのだ。


「う……ん?アレ……生きて……?」


 そしてまた一人誰かが起きて手紙が降る。そしてその誰かもそれを読んで絶望するのだ。白崎が読んだ手紙の一文が思い起こされる。


『あなたがやったことの意図は分かりますが、普通、自分を助けるためにこれだけの人が動き、苦しんでいることを見せるのは常人であれば自殺したくなるものですから仮に次があるのでしたら次はお気を付けて。』


 フラッシュバックのようにその一文だけが頭の中を鮮明に駆け巡る。白崎は嘔吐感を覚えその場に蹲る。


(勝手に決めつけて、何で、誰が……あぁもう……ダメ……誰か私を殺して……私だけが何もしていないのに全員の心を踏み躙った上に全部台無しにした……私が生きてていいはずがない……)


 出来るのであれば全員の怨念を受けて殺されたい。自分がしてしまったことに対して贖罪になるとは少しも思えないが、自分に残された出来そうなことはそれだけしかないのだ。


「………………皆さん。ちょっと、退いてください。」


 絶望の声しか上がっていない大広間で誰かの声が響く。声の主に虚ろな視線が集まる。そこにいたのはマキアだった。


「今から、起きている人だけでいいので手を借ります。答えは聞きません。借ります。」


 据わった目で辺りを睥睨するマキア。そして勝手にその手の中からこの場の誰も認識できないナニカを取り出すとそこに全員の何らかのエネルギーを集め始めた。


 それは未だ眠っているアリスやサラ、ヴァルゴ、みゅう、祓、また起きているクロノなどの面々から勢いよく奔流する。


 誰も抵抗を示さず、誰も何も言わない空間で膨大なエネルギーを集中させたそのナニカは透明感のある桃色になると弾けた。


「……成功、ですね。後は何か分かりませんが、この存在をまともに現象として私が言うことが出来たら……皆さん。無理矢理失礼します。」


 マキアは有無を言わさずにこの場の面々全員の頭に何かの線を放ち、そして結ぶことで周囲が今村と話していた中で理解できなかった文言を片っ端から唱えて行く。


 彼女は自分たちではどうしようもない消滅と言う事態に対して自分たちでは理解できない高位の存在を呼ぶことで解決策を見つけようとしているのだ。


「gpqrks!ЙБФЁЯ!vgpnsqn!」


 マキアが意味も、発音も、これが何なのかさえ分からない言葉を適当に、かつ今村が言ったと思われる発音と同じ発音で羅列していくとその中の一つに反応して目の前の弾けた本が形を成し、そして彼女たちが見たこともないような滅世の美少女が顕現した。


「……私を呼んだのは、誰……?全員、石化してるけど……」


 降り立ったまさに女神と言える声音とあらゆるものを魅了するその美貌を湛えた彼女は周囲を見て、次にその匂いの中に微かに彼女が恋焦がれている相手の気配を感じ取った。


「……仁?この世界にさっきまで、……いや、結構長居してたのかな?」


 空気、いやその世界ごと全て彼女に魅了され、誰も動けない状態で彼女だけが動く。そして、ふと目に入った手紙を取り……それを握り潰した。


「……こんなの、許されるわけない……何で……何でこの世はこんなに生き辛いんだ!何でこんなに仁ばっかり虐めるんだよ!運命神……許さないからな……」


 ただ仕事をしているだけの彼女の友神を次に会ったら殺す気で怒ろう。現在であればこの子たちから良質な『愛氣』を大量に頂いているのでその程度であれば出来るはず。


 そんなことを思う彼女は大きく息を吐いた。その部分だけ空気が変質するのを気にも留めず彼女は自分を落ち着かせる。


「仁は、運命の輪から外れてるんだった……運命神を怒っても仕方ない……万が一のことがあったら、絶対に許さないけど……」


 彼女は落ち着いて、そして全力でこの辺りの今村の気配を全部探知する。瞬時に行ったそれの結果に彼女は今までの怒りの顔を緩めた。


「何だ……ちゃんとした反応があるじゃないか。かなり巧妙に隠蔽されてるけど。これならボクでも……待っててね?」


 彼女はそう言ってこの世界の中を滑空して目的地へと向かった。




 ……何か毎回同じような終わり方をしてますね。


 ここまでありがとうございました。もうすぐ終盤が始まります。

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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