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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二章~最初の一年後半戦~
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5.許嫁

「ん…ぅん…あれ…?」


 祓はすぐに目が覚めた。それと同時に自身の体調を確認する。


「嘘…治ってる…口の中も…」


(やっぱり先生は凄い…私をいつも助けてくれる…)


 先ほどのおっそろしい味の薬のことはどこか別の記憶にやった祓は今村に感謝の念を捧げる。


「で、どうする?」


 結界で祓が起きたことを知った今村が部屋に帰ってきた。祓は当然と言った風に初詣への誘いを行い、今村は罪滅ぼしの気持ちも込めてそれに付き合うことにした。


「でもまずは『呪具招来』:ウェアーアップフレーム」


 着物の着付けが怪しくなっていた祓に枠を通し綺麗に直して二人は話し合いを行った。


「…で、初詣ってどこに行くんだ?」

「マジックアーケードの近くにある神社です。」

「ほう!それはちょっと興味がある。」


 今村は二つ返事で祓の提案を受けると「幻夜げんやの館」を後にした。












「…スゲェ。出店の数めっちゃ多い…」

「はい。百軒はあると聞いています。」


 来てテンションを上げている今村を見ながら祓はどこか自慢げに答えた。


「こりゃ今日中には帰れんな…『呪具招来』:式神符…」


 今村は式神を家に飛ばし、自身は延々と祭りで楽しむことに決めた。その様子を見て今日はずっと一緒にいられるんだな…と思う祓。そんな二人の下に何者かが現れた。


「コロル!コロルじゃないか!奇遇だな~これから会いに行こうと思ってたんだよ!」

「び…毘舎利さん…ここはアフトクラトリアですので…」

「あぁごめん。テンション上がっちゃって…祓だったね!」


 褐色の肌に真っ白い歯が印象的な黒髪のイケメンが現れた。それを見て祓の顔が引き攣る。毘舎利はそんな祓の様子を見て驚いた。


「うわ~君が表情に何か出すなんて珍しいね!…で?そこの君は誰だい?」


 突如視線は我関せずの心持ちで焼きそばを詰めてもらっている今村に向いた。今村は焼きそばを受け取るときっぱりと言い放った。


「通りすがりの一般人ですが何か?」

「え…あ?今君祓と…」

「何か?いただきます。」


 あまりにもきっぱりと告げられ呆然としたところにもう一度同じ言葉を返され、更に目の前で焼きそばを食べ始める男を前にして毘舎利は何も言えなかった。そんな微妙な沈黙の中今村は焼きそばを食べ終えた。


「…微妙。まぁいいか。じゃ、用がないならこれでさよならだ。あ、焼き鳥全種類。」


 隣の店に入る今村。祓はそんな今村のローブの袖を引く。


「何?…焼き過ぎ…あ、ケバブ一つ。」


 焼き鳥があまり美味しくなかったのかすぐに隣の店に入る今村。祓は未だ再起動していない毘舎利に今村を紹介する。


「私の先生です…あの!待ってください!」

「やだ。そいつと遊んでろ…これは!溢れる肉汁とタレが絶妙なハーモニーを繰り広げて…うん。屋台ごと買ってもいい。」


 ケバブにご満悦の今村。毘舎利は祓に尋ねる。


「…こんな頭悪そうな奴に何を習うんだ…?」


 その言葉に祓は少しムッと来たが相手が相手なので抑えて説明を続ける。


「『力』の扱い方や色々なことです。…今日は病気も直してくれました。」

「!そうか!思ったよりも凄いんだな!いや~病気のことがあったからマジックアーケードで何か買っていこうと思ったら会ってしまったんでな!」


 たこ焼きを買っている今村に毘舎利は自己紹介を行う。


「初めましてだな!俺は…毘舎利だ。この度は俺のフィアンセの病を治してくれたことに感謝する。」

「あぁ初めまして。今村です。仕事なので気にせずに。で、もう放っておいていいですよ?」


 中が半液状だった上、蛸が小さかったことに憤りを覚える今村は毘舎利を邪険に扱い、隣の店の林檎飴は飛ばしてハッシュドポテトを頼んだ。


「いえ。先生も一緒です。」

「…薬なら三年はもつから安心しろ。爺に気ぃ遣うな勝手に全部の店回って勝手に帰るから。」

「爺?お前幾つだ?」

「数えてねぇが…少なくともお前よりはるかに年上だな。」


(生誕前含めればだが…う~ん普通。)


 ハッシュドポテトを食べ終えるとすぐに隣の店に移る。


「箸巻き全種。…で、もう行っていいぞ?」


 黙って袖を引く祓に告げる今村。そんな様子を見かねて毘舎利が口を挟んだ。


「先生…祓は長い間病気に苦しめられてきたんです。それで、急に大丈夫だと言われても怖いんですよ。付いて来てください。祓の先生ですよね?」


 今村は出来たての箸巻きをもっしゅもっしゅ食べながら少し考えて言った。


「ぅくっ…じゃ、後ろから付いて行くよ。先行ってな。」


 箸巻きを飲み込んでごみを屋台の近くのゴミ箱に捨てながら出した結論に祓は納得いかなかったが毘舎利いいなずけの前では直接言う事も出来ない。一行は進みだした。


「…そう言えばこの神社に三賀日に時間、数量限定で過剰魔力を注ぎ込んだお守りがあるんだが…そろそろ販売時間なんだ。祓、二人で夫婦円満のお守り買いに行かないか?」

「……はい。でも先生も…」

「…全部回る時間が…」

「一緒じゃないと嫌です。」


 渋る今村を連れて一行は最深地まで足を運ぶ。だがそれは途中で阻まれた。


「何て人の多さ…」

「無理そうですね。帰りましょう。」


 祓は毘舎利と結ばれたくないのですぐに判断を下。後ろにいる男は難なく人混みの間をすり抜けていく。その様子を見て唖然とする二人。


「魔力は…使ってない…」

「というより『氣』を一切使ってないぞ?何だあれは…」


 二人は今村の後を進もうとするが全く進めない。そして受け入れ時間が過ぎるまで彼らは入ることができなかった。




 一方今村。フライドポテトを食べながら最深部に到達していた。そこでようやく一人になっていることに気付く。


「…ん?誰も付いて来てねぇ…買う気あんのか?」


 やる気なしで着いたがとりあえずお守りとやらを見ることにした。


「ほうほう。中々…うんうん。買っとくか。じゃあ…ちゃんとしておこう」


 何かに納得してそう言うと人混みの中を滑るように進み、手を清め、口を漱ぎ、参詣を行う。5C程滑り込ませて二礼二拍手一礼を行い口の前で手を合わせえて珍しく真面目に祈った。


(良運、悪運、開運しますようにあとお守り貰ってくよ。)


 今村は参詣を終えるとお守りを全種類二つずつ買った。30G(30万円)かけて揃えると「氣」を探って祓の所に戻ることにする。











「よぉ…何で入口から動いてねぇの?」

「…動けなかったんですよ。」


 帰りも人混みの中を滑るように進んですぐに合流した今村は疲れていた二人にそう声をかけると袋から夫婦良縁のお守りを出して片方ずつ手渡した。


「赤が祓で黄緑が…婚約者。」

「毘舎利です。」


 二人が漫才のような掛け合いをしている隣で祓は胸が張り裂けそうになる。そんなことに全く気が付かない今村はお守りだけ渡してそのまま立ち去って、祓が呼び止めようとした時には今村の姿は雑踏の中に消えていた。


「じゃ、目的も果たしたし、二人きりで見て回ろうか。」

「…はい…」


 二人も雑踏の中に消えて行く。











「…げっ。片付け始まった…もしかして三賀日限定?あー全制覇し損ねたぁっ!」


 日付が変わるころ、今村は屋台が火を落とし始めるのを見てショックを受けた。


「んだよ気合い入れて臨んでたのに…」


 がっかりして家に帰ろうと式神と自分の場所を入れ替える詠唱を行う。そして家に帰ると布団の上には祓がいた。思わず臨戦態勢に入る今村。そんな今村に祓は言った。


「…毘舎利さんとは親が決めたことであの…私は納得してません…」

「いや知らんけど。」

「ですからまだ私はそう言ったことはしていません…」

「…とりあえず何の用?」


 いまいち要領を得ないことばかり言って来る祓に今村は直球で勝負を仕掛けた。


「…それだけ伝えに…では…」

「何だってんだ?」


 祓はそれだけ伝えるとすでに消えていた。今村は祓がここに来てこう言ったことについて考える。


(つまり、あれとは結婚したくないってことだな…で、俺に何とかしろと…新しい先生用意しろとか言ってこの問題も俺に片付けさせる気か…よし、適当に片付けて跡継ぎの奴に頑張らせるか。)


 一部しか正解を出さずに今村は寝ることにした。










ここまでありがとうございます!


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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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