11.思ってたのと違う
結局、今村が待っていた原神は来なかった。
(……折角、今ならミニアンをあるべきところに戻せたのに……なんかこういう時に本当に来ないよなあの屑……こういうことするからあいつの思い通りに物事を進めたくなくなるんだよ……あーマジムカつく。)
今村は理不尽に【勇敢なる者】に対して怒りを覚えつつ下界から目を離してこの世界から出ることを決め、世界間に穴を開ける。
「お?」
すると、ここしばらく会っていない知り合いの姿を認めた。向こうも今村を見た後訝しげな顔をした後に大きな声を上げたので気付いたようだ。
「てめぇぇえええぇぇっ!見つけたぞこの野郎が!いい加減てめぇんところの変な活動を辞めさせろ!」
「なんだ?リア充撲滅委員会のことか?」
「知らねぇけど!最近そんな名前になってたなぁ!クソッタレが!おかげで俺は彼女も出来ねぇで……」
「それは活動無くても出来ないだろ。」
今村は笑いながら彼に近付いてく。世界間での立ち話も何なので今村は手近な世界に飛び込むように言って彼を促した。
「ちっ……大体、何でテメェだけそのリア充?って奴じゃねぇんだ……お前の方が絶対にモテて世界の男の敵だろ……」
「安心しろ。俺は世界の敵だ。そして、お前もな。」
グチグチいいながら今村の出したテーブルセットの椅子に腰かけるとほぼノータイムで現れて紅茶を淹れる呪具の概念と化した元悪魔の黒髪美女、月美を見て叫んだ。
「ほら見ろ!また増えてる!ちょっと目を離すとすぐ増える!」
「……別に俺は嬉しくないんだけどな。俺が個人こそ至高だと思ってるの知ってるだろうに……」
「それなのに増えてるんですか!へ~嫌味ですか?ん?」
大分ムカつく顔でそう言われても今村は鼻で笑って言った。この時点で自分の仕事は終わったとばかりに月美は消えている。
「どうせ一過性だし。お前ん所みたいに消滅しかけてでも想う奴とかいないぞ?そう、マリアンさんみたいな!」
「……あれは、ダメだろ。」
今村の反撃に男は一転して苦い顔で呻くように言った。今村は笑みを深めながら続ける。
「何言ってるんだ?あれだけお前のことを好きな奴とかいないぞ?俺らもあの人とならお前の恋愛活動を邪魔したりなんかしない。いや、むしろ超応援するに決まってる。」
「いや……ダメだろ……」
「酷いな君は!あれだけ想ってくれてる相手に何て言い草だ!鬼か!?」
「……愛さえあれば大丈夫って問題じゃねぇんだよ……俺にはやっぱ見た目も大事なんだよ……つーか、せめて人型になれ……あぁ、アレだったか……」
「お前グロいの好きだったのか?流石に人型のマリアンさんは……いや、お前の愛があれば大丈夫!」
今村のいい笑顔に対して噂をして現れたりしないよな……と危惧した男はこの場所に強固な結界を張る。それでもまだ安心できなかったので更に5重の結界を張った後に最後に追加して彼の魔力を8割まで削る大技の結界を張った。
「……これで、大丈夫だよ、な?」
「……まぁでも、相手マリアンさんだし……」
今村がそう言ったその瞬間、空間に何かが侵入してくる気配がして今村は一瞬で臨戦態勢に入り、男は一瞬で逃亡体勢に入った。
「ふ、ふぉぉぉぉおぉおおおおぉおぉっ!メッチャいい匂いがする!何だ!?これは一体なんだ!?この匂いがもし、もしもマリアンさんなら……お、俺は……」
鼻腔に漂ってきた匂いに男は興奮して叫び声を上げる。だが、現実がどうなのか分からず、確かめるのが怖いと言った様子で恐る恐ると言った態で逃走しようとした発生源の方を見て彼は気絶した。
「仁!会いたかった!」
「……俺は割と最悪なタイミングで来られて超不機嫌。」
臨戦態勢を止めて遣る瀬無い気分で椅子の上に腰かけた今村は飛び込んできた神物を見て苦い顔をした後に受け止めて椅子ごと倒れた男を見る。
「でも今日は呼ぶかもしれないって言ってたじゃないか。だからボクは待っていたんだよ?そしたら、強力な結界が発生した気配がしたんだ。これだと思うじゃないか!」
今村の本来の目的では【勇敢なる者】の前で呼ぶ予定だったのだが、来なかったので今日は呼ぶつもりはなかった。
「ふぅ……ん……」
【可憐なる美】ことミニアンは気持ち良さそうに目を細めて今村の腕を自分に回すと顔を擦り付ける。その状況を倒れていた男は見た。
「て、て、てててて、ててて……」
「ててって、ててって、ててってて?」
「てめぇええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええっ!」
男は血走った目で叫んだ。それはもう大叫した。
「そそそそそそ、それ、それぇっ!あがぐがおいふぉぐんふぉい!」
「……?ボクのことかい?ボクはこの、今は今村仁と言っている彼の妻になる予定の【可憐なる美】だ。名前は知ってると思うけど、役職は知らないだろうから一応言っておくよ。」
「し、知ってるに決まってるだろうが!俺らと対をなす存在、正の原神の一柱だろうが!畜生!敵ながら何でこんなに可愛いんだ!」
男の言葉にミニアンは形の良すぎる芸術を超越した眉を顰めて反論する。
「ボクは、仁のお嫁さんだ。ボクの役目を間違えないでくれるかい?」
「お前が間違えてんだよ。馬鹿。」
「む……まだ、予定だけど……いいじゃないか。」
「予定もなにもねぇ。」
目の前のミニアンの可愛らしさに悶絶しながら男が震える声を何とか使って言いたいことを絞り出す。
「何で……何で……何で負の原神の女性陣はあんなんなのに……何で!……いや、違うな……言うべきところはそうじゃない……負の原神に対して正の原神は対の存在がいるのに、何が……?」
「痴話喧嘩中。実家に帰らせていただきますが出来な……」
今村の口をミニアンは自らの花唇で閉じさせる。その様子を見て泣き始めた男にミニアンは今村から口を話した後に言った。
「そこに、感情はないんだよ。……だから今の本当の気持ちがこの人に向いてると言うだけのことだ。嘘偽りない気持ちが。」
「……何言ってんだか。」
今村の呟きによりミニアンは今村を睨んで、その後にもの凄い悲しそうな顔をする。それを見て男は立ち上がって今村を非難した。
「お前、【可憐なる美】さんのこと考えろよ!」
「んじゃお前はマリアンさんの気持ちちょっとは考えろよ?」
「そ、それとこれと……は……さぁ……話違うじゃん?だ、大体、何が気に入らないんだよ?そんなに可愛くて、自分だけに甘えて来て、滅茶苦茶想われてるし、言えば何だってしてくれそうなのに。」
ミニアンもそれは気になるようだ。だが、男の質問に対する今村の答えは端的な物だった。
「俺のことを好きな点。超絶気に入らない。何なら超と絶の間に星入れてもいいくらいだ。」
「はぁぁああぁぁ?喧嘩売ってんの?買うぜ?俺が勝ったら【可憐なる美】は俺が貰ってマリアンさんをお前に!負けたら……好きにしろ!」
「ザケろ。こいつは物じゃないし、大体俺にメリットが一つもない。最低でも、そうだな……俺が勝ったら、お前、マリアンさんと俺が計測する1日で、デート決定な。」
ミニアンが慌て始めた。ここで今村を止めれば自分を信じていないのか?と返されるのは長年の付き合いで分かっていることだが、どう見ても戦力に差があり過ぎる。
その上、彼女には今村がそういうことをするのにトラウマがあるのだ。
嫌われたくないが、戦ってほしくない。今回は身内同士での戦いだが負の神に常識は通じないので殺し合いになる可能性もある。
「いいぜ。」
ミニアンが悩んでいる間に結論は出てしまった。ミニアンの可憐すぎる顔が曖昧に泣きそうな顔になった瞬間、今村の顔が狂喜に染まった。それは完全に狂気にしか見えない笑みだ。
「言ったな?」
「俺が負けるわけな……」
瞬間、今村の放つ様々な氣が入り混じり、爆発した。結界が壊れ、完全に粉々になるのを見て今村は嗤う。
「いかんいかん。逃げられると、約束が、果たせないもんなぁ?」
今村の邪悪な笑顔にミニアンは心配を辞めた。どうやっても負けが想像できない状況になったからだ。
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