5.相談者と初対面の話
「おぉ、今村さん来ましたか!いや~相変わらず×を付けずにいるには惜しい魔力の質ですよね~一回結婚して離婚しないんですか?」
「効率厨なんでな。無駄なことはしないつもりだ。」
今村たちは【独身貴族連盟】の既婚者相談室の場所に来ていた。そこで白崎がまず感じ取ったことはゲネシス・ムンドゥスの自治区、つまり今村が治めている所の役所の様なところだという風景だ。
ただ、時折聞こえてくる言葉は普通の市役所と違って全て離婚に向けての話になっている。
そんな光景を見てクロノは柔らかそうな頬を膨らませて今村の腕を引き呟く。
「む~お兄ちゃんはクロノと一生一緒だもん……」
その言葉が消えて行く途中で今村の目の前に白崎が気付かない内に男が現れて笑っていた。
「ハハハハハハハ。今村さん。こちらの黒髪で心の中がとても青く未発達な美少女はどちら様ですか?かなり魅力的なお方ですね。どうですか?一度結婚してみては?」
「しないっての……」
今村はその目の前の男の言葉に多少うんざりした声音を乗せて否定する。すると男は心底残念そうに言った。
「勿体ないですね~折角これだけの愛情をほんの一時の物とはいえ、向けてくれているのに……これが冷めてこの少女が結婚を悔いるようになる姿を見れば独身の本当の良さがわかりますよ……?」
クロノは一瞬で目の前の男が嫌いになった。だが、何を言っても無駄そうだったので黙って反論代わりに今村にぴったりとくっついて拒絶の意を示す。
「……ま、まだ子どもみたいですし……そちらの美しい方は?何ですか?」
「雇用関係だ。俺が雇い主でこれが雇われ。ついでにこのメカニックは俺が全部している。……ってかそんなことよりさっさと案内して欲しいんだが?」
いまむらのまわりの人物関係について根掘り葉掘り聞いて来る男に軽く威圧をしてさっさと用件の場所まで移動させるように言うと男は肩を竦めて今村を案内し始めた。
その途中で白崎はふと思ったことを今村に尋ねる。
「……今村くんの所に来るのって、神様なのよね……?何で働く必要があるの?というより元も子もない話なんだけど、神様ってなんなの?」
白崎の質問に今村はどう答えた物かと少し考えながら歩を進める。
「……まぁ、説明が面倒だから働く必要についてだけ答えるが……第1世界の神々とか第2世界の神の一部とか以外は基本的に働かないと生活が不便になるな。だから神力っていう金みたいな物のために働くんだよ。」
「ふーん……そうなの。今村くんは色々してるみたいだけどどうやってそれを神力にしてるの?」
「……アレは成り行きでやってるだけだから俺の仕事という訳じゃないし、アレは神力に換算できない。それに俺は例外者だから自力で色々作ってるし売って稼ぐこともあるくらいだ。」
これ以上の説明は白崎にしても理解できないと思われるので例え話で何とか説明しないとな……と思っているとその前に目的地に着いた。
「依頼者はここです。それでは私はこれで。よろしくお願いしますよ【断罪者】様。」
「その痛い名前付けを止めろ。全く……まぁやることはやってやるがな。さてここからは二人とも姿を隠して貰おうか。」
今村はそう両者に通告する。二人は頷き、それを見て今村は続けた。
「分かってると思うが、お前らはこの世界レベルでもかなりトップレベルの水準の女、子どもだ。だから、ここから先は俺になるべくくっ付くな。相手は傷心してる男なんだからバカにされてるとしか思えなくなる。」
「え~……ぅ。わ、わかったよぉ……」
クロノが手を振り払われることに抗議したが一睨みで黙らされて大人しく姿を消した。それに対して白崎の行動は遅れている。
「白崎?」
「……不意打ちは、ずるいわよ……」
今村には何が不意打ちだったのかよく分からなかったが卑怯であることは今村にとって悪い事ではないので甘んじてそれを受け入れると両者が姿を消したことを確認して部屋の中へと入る。
そこには幸薄そうな男と相談を受けている男がいた。
「……!これはこれは!よくお越しくださいました!」
「交代だ。」
相談を受けていた男は今村を見るなり席を立って綺麗なお辞儀をし、今村の言葉を受けると素早い動作で席の座り心地を変えて譲った。
「……?あなたはどちら様ですか?」
幸薄そうな相談者が今村を見て今まで相談していた相手にそう尋ねると相談していた男のテンションが変なことになって今村の紹介を始めた。
「この方は【独身貴族連盟】でもかなり有名な方ですよ!私は一度だけ婚約してモラルハラスメントの本性を現した屑男の叩きのめしプロジェクトに参加したんですが……この時の素晴らしさ!相談者の女性が軽く引くくらいに叩きのめしたのに男は死ぬこともなくギリギリのラインで相談者は後腐れなくその男の前でより高スペックな男性と付き合いました!」
「は、はぁ……」
勢いに圧倒されて変な声を漏らす幸が薄そうな相談者。それに対して今村は余計なことを言うなとばかりの視線を向けて相談を受けていた男を早期に退場させて相談者の前に座る。
「……あの、私は妻が死ぬ寸前とか、そういう酷い目に合ってほしいとは思っていないんですが……」
「まぁ、色々プランはあるから。さて、話を聞こうか。」
今村はそう切り出すと男の話を聞き出しにかかった。
「さて、まず一妻一夫制だね?それで、君の方が全て稼いでいて、神力を二人で分け合って仲睦まじく過ごしていたと。」
「はい……それがおかしくなったのは、大体3億年前なんですよ。私はそれでも努力すればいつかは私の所に帰って来てくれると思って頑張って来ていたんですが友神曰く、もう修復不可能だと。」
そこまで言って本当に落ち込む素振りを見せる男に今村は表層心理を読んで裏がないかどうか確認する。
(本当か。んじゃ、次行こうか。)
「……より、戻す気あるのかい?」
「……向こうにないみたいですから……もう、いいです。ただ、私の妻を取った男には何らかの制裁を与えないと気が済まないんです。小さい男でしょうか?」
「……まぁある意味そうかもな。俺的に仕返しするならもっと大きくした方がいいと思うが……本人が望まないことはする気はない。それじゃ早速実際に会ってみて話をしてみてもいいかい?」
「……はい。」
男が頷いたのを見て今村は同時に転移する陣をこの部屋中に飛ばしてこの部屋の中に隠れているクロノと白崎ごとこの場所から男の住んでいる神域へと転移して行った。
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