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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十二章~時の流れ~
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2.怠けるのです

「……まぁ何もする気はないが遊び心を忘れちゃいかんよな。うん。」


 今村は仕事を終えた後、そう言って投げやりに空間にモニターを出現させるとそれにbot的に何かあればすべてに「へんじがない。ただのばけもののしかばねのようだ……」と返すように設定し、首を捻った。


「語感が悪いな……やっぱシンプルイズベストか。」


 そして基本定型文にすると満足気に頷いて自分の中の怠惰の封印だけを解き、キングサイズのベッドに入った。


(……あ~毒日とはまた違った趣があっていいね。思考も止めるか。いや思考はして……まぁいつもみたいに色々考えるんじゃなくて下らんことを適当に……どうでもいっか。)


 今村は完全休暇モードになった。











「お早うございます。……し、失礼しても、いいですか?」


(……来て早々何するつもりだこのタコ。俺は基本的に他者から触られるのが嫌いなんだが……)


 完全休暇モードになってしばらくして、今村は時の流れの感覚も非常に曖昧になっているので何時かはよくわからないが祓が部屋に入って来て至近距離にやって来た。

 取り敢えずこれだけ気を緩めた状態で何か喋るとふとした時に『呪言』が発動しかねないので黙ってぼけっとしていると顔の付近に良い香りが漂って頬に何か触れる感覚があった。


「んっ……あ、ありがとうございます。えっと、朝食です。」


 祓はそう言って今村を丁重に術で運ぼうとして抵抗を受け、すぐに謝る。


「朝食は要りませんか?どっちでもいいんですか……」


(……何で分かったんだこいつ。俺何にも言ってないんだけど。)


 何か少々不気味なやつだなと思ったがそれ以上考えるのは面倒だったので少し体勢を入れ替える。


(寝てるのも飽きたな……座るか。)


「……座る……食べたいとは思ってなさそうですけど……何かを食べるには楽になりましたね……食介はしてもいいですかね……?」


(介護扱いかよ。特に要らんって。気が向いたら空気でも食むわ。)


「ですが、味が付いていた方がいいのでは?空気も美味しくないとは言いませんが……」


(何でこいつ俺の心と直接喋ってんだろ……精神ハック受けてんのかな?まぁ調べるの怠いからどうでもいいけど。)


 今村はそんなことを考えながらベッドから椅子に飛び移ってそのまま机に伏した。その直後に机が柔らかい素材に変わり今村の上体が少し沈む。


「……そうですね。食事は空気を少しアレンジしたものにしますか……」


 祓はその様子を見てどちらかというと今村は食事する気ではない方向に寄り気味だと判断して簡単に食べられる方に変えた。


(アレは何だろうな。何したいんだろ。)


 今村はそんな祓を見送りながら特に意味もなく欠伸をしてそして目を閉じた。










(……?寝てたか。まぁいいや。)


 少しばかり微睡んでいたらしい今村は目を覚まし、周囲を窺って顔を引き攣らせた。それに気付いた周囲の人間たちが声を揃えて挨拶をしてくる。


「「「「「おはようございます。」」」」」


(……何でこんなに居るんだ?部屋狭っ!満員電車かよ……)


 寝起きに五月蠅すぎず、かといって小さくはない耳触りのいい声で揃ってあいさつされた今村は特に表面上何の変りもなくそう思いつつ佇んだ。

 その様子などをじっと見ていたクロノがおもむろに立ち上がって今村の服を引いて尋ねる。


「んっ!……ね~おはようのチューしていい?」


(……した後に訊くのかよ……どうせ限界まで小さくしておいた表面結界に阻まれてるから別にいいけど?あれ?何か結界が変な気が……)


 今村の頬に結界が弾力を以てくっつくが今回はその様子がおかしいことに気付いた。そしてその方を見ると銀髪の美幼女さんが何やら勤しんでいる様子が窺える。


「んしょ、んしょ……あ、大丈夫だよ!ちょっと邪魔なの退けてちゅうしたらすぐ直すから!」

「お兄ちゃんいいの?」


(クロノは結界に阻まれたの分かってたんだな~あ~そうか~……何でもいいや。放置しかしないっての。)


 今村は光の全く差していない目を更に死なせて暗くした状態で放っておいた。それを見た両者は弾かれないのだから大丈夫と判断して結界の一部の特性を少しだけ変えた。


(……これ、害意がある奴本気で死ぬじゃん……改悪されてる。)


 花の蜜に集まる蝶の様に今村の頬にキスしていく彼女たちのことなどガン無視を決め込んで今村は結界を何となく見る。そしてその性能に引いた。


(でもまぁいっか……)


 だが、これで片付ける。それを見て銀髪の美幼女と黒髪の美童女はもう少し接近しても大丈夫なのではないかと軽く重力を操作して今村の傍に寄り添ってみて顔を見上げた。


「……おぉ~……えへへ……」

「パパ何にも考えてないね。……も、もう一歩、行けるかな……?」

「ん~何かね、クロノそれはダメな気がする。これまでなら大丈夫だけどこれ以上はダメだと思う。」

「みゅ……クロノちゃんの勘は当たるからなぁ……ここまでにしとこ……」


 二人は仲良く今村の両側を占有してにこにこしていたが今村的にこれ以上の内容が少しだけ気になった。それと、周囲の女性たちがじっとこちらを見ているのにも気が付いて僅かに顔を顰めた。


「……も、もうちょっと……」

「先生が迷惑そうな顔をしたのでもう駄目です。それに順番は守ってください。マキアさんの時間はもう終わったんです。」

「ご奉仕したかったぁ~!」

「黙りなさい。」


 今村の顔色を窺っていた祓によってマキアが連れて行かれ、それのサポートにミーシャも付随していく。


(……ミーシャはこっちに戻って来てたのか?いや、まだあっちでの仕事があるはず……あ~仕事のこととか考えたら休暇にならん。止めた止めた。)


「そろそろ、私の時間だよ?二人とも、退こう?」


 今村がすぐに休むことに思考を切り替えていると今村のことを見ながらしきりに時計を気にしていたアリスがそう言って立ち上がった。


「……まだ後12秒あるもん。」

「移動時間とか。ほら。もうなった!」


 アリスはそう言って時計を指す。それを見て渋々童女と幼女は今村から離れて引き下がった。それとほぼ同時にアリスは中腰になって今村の腕を取る。


「えへへ……えへへへへへへへ~」


(何だこいつ。)


 手を取ってぴったりくっついて何が楽しいか分からないが笑い出すアリスに今村は直で普通に引いた。こいつは何をするんだ?そう思って見ると目が合い彼女が頬を赤く染めた。


(何だこいつ。)


 今村は再びそんなことを思った。そしてそれは兎も角と椅子で寝ていたので体がちょっとアレだなと思ったので今度はベッドに引き返す。


「え……も、もしかして……いいの?」


 ベッドに戻った今村を見てアリスは慌てながら今村に尋ねる。何か絶対碌でもないことを考えていると判断した今村は何とかしようと思ったが動くのが怠いので放置した。


「う、で……しゃ、シャワー浴びる時間、くれませんか?すぐにしたいんですけどそういうの、ちょっと気になるので……」

「……【入室禁止】……」


 喋るのも怠かったが正直不味いことになりそうだったのでそう呟き、アリスを強制的に部屋から追い出した後、今村は大きく息を吸った。


(あ、空気が美味しい。ラッシュカルギリスの……あ~また何か余計なことをしてんな~休めよ俺。)


 今村は寝返りを打った。そしてすぐにベッドの端に来てしまったのでつい呟いてしまった。


「【もっと広く成ればいいのに】……あ。」


 部屋がベッドに押しつぶされた。序でに隣の部屋でずっと働いていたらしい白崎のうめき声が聞こえる。


「な、何するの……?」


 今村は少しだけ頭を下げた。


 「悪い」などと謝罪すれば相手が罪悪感を覚えて自殺するし、「申し訳ない」と言えば相手が物申すことが出来なくなり、「すまない」と言えばこの規模では済まない事態が発生するし「ごめん」などと言ったら強制的に許しを得ることになり、他の言葉を探すのは面倒だったからだ。


「……何か理由がありそうだからいいわよ。」


 白崎はあんまり気が進む様子ではないがドリルを使って脱出した。


「……それにしても、時間ごとに区切ってよかったわ。あの人たち果てしないから本当に全員いたら大変なことになってたわよ……」


 今村は軽く頷いた。動くのが怠くてもそれには同意したかったのだ。


「……苦労してるのね……まぁ、その中に私も入ってるんだけど……そろそろ休む日も終わりだし、また寝たら?折角ベッドを広げたんだし。」


 言われなくてもそうするとばかりの視線を向けて今村は眠った。


(……得たがっていたものを得たら満足して飽きるかと思ったが……この分じゃ無理だな。今度からは大人しく自世界に引き籠って休もう……)


 そう思いながら。




 ここまでありがとうございました!

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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