21.言葉でも認めないわけ
「さて、シャルル。」
「はい!何でありますか!?」
「いい加減変装止めたら?お前シャルデじゃなくてシャルロットだろ。」
「……えへ?」
「バレバレだから。」
異世界に進攻した後ゲネシス・ムンドゥスとの境の世界で、今村はそう言って自分に密着しているシャルルにそう言った。
このまま放置しておいてもよかったのだが後でバレなかったとムカつく顔をされるのも気に入らなかったので今村は自分に擦り寄っている彼女について言及することにしたのだ。
「あるぇ~?バレた?何で?結構上手くできてたと思うんだけど。」
「簡単だ。……まぁ言いたくないけど。」
キスの動作と味で分かった。そんなことは言いたくない。そう思っていると目の前のシャルルからもう一人別のシャルルが出て来て、そして元のシャルルは姿を変えた。
「提督閣下!こ、このアバズレが……」
「あらら、シャルルちゃんいらっしゃ~い。君がいない間に君の愛しの提督閣下からチューして貰っちゃった。キャハッ♡」
シャルデを小馬鹿にするかのような動作でシャルロッテがそう言うといとも簡単にシャルデは激昂した。
「ゆ、許さん!八つ裂きにするであります!提督閣下!ご許可を!」
「狭いからダメ。」
顔やらなんやらに柔らかいものや色々当たったり当たるどころじゃ済まない状態になっている1人用のコックピット。ここで暴れられると後処理などで結構困るので今村は二人を止めた。
「はっ!申し訳ありませんでした!」
その命令にすぐに従うシャルデ。今村は敬礼されても手などが壁にびしっと当たるので顔を顰めるが、それにお構いなくシャルロッテの方は今村の下半身に手を伸ばしてきた。
「ねぇ、舐めて良い?さっきからずっと密着して……もう我慢できないの。」
「貴様ぁっ!いい加減にしろ!」
シャルデはすぐに激昂する。それに対して今村は溜息を一つつくとわざとニヤニヤした表情を作って言った。
「いいよ、出来るもんならやってみろ。」
「……え、本当に?」
「出来るもんならな。ほら、何なら手伝ってやろうか?」
今村に後頭部を掴まれて顔の自由を奪われるシャルロッテ。シャルデは顔を赤くしながらその成り行きを見守った。そしてシャルロッテが覚悟を決めて目を閉じた―――瞬間、光が炸裂した。
「え、あ、っ~馬鹿っ!何撮ってるんだよぉっ!」
「テメェのマヌケ面だよ馬鹿。はっ!俺に会うまでは自称全世界一のトリックスターとか言ってたのにね~?すぐにテンパって引っ込むとか……単なる残念な子になっちゃってまぁ。可哀想!」
「だ、誰の所為だっ!このぉ……大体自称じゃねーし!」
悔しそうな顔をして涙目になっているシャルロッテ。シャルデは少し残念そうな顔を一度通した後に冷静な顔に戻った。
「い、いつか絶対参りましたって言わせてやるんだから。」
「はいはい参りました参りました。」
「ぅぎゅぅ……い、いいか、ボクは世界一の「芸人だ。」いい加減にしろぉっ!」
「まぁいい塩梅にからかっとくよ。この辺かね?」
シャルロッテは黙らされた。それを見て満足気に頷いた後に今村は現在を顧みて溜息をつく。
「……はぁ。こういうやり取りも迂闊には出来なくなってるしなぁ……そう言う意味じゃお前は希少だよ。」
「全然褒められた気がしない。」
「そりゃ褒めてねぇからな。」
「あぁあぁぁぁああっ!こんなのボクの信徒たちが見たらボクの!イメージが!完全崩壊するんだけど!?責任とれるのかい!?」
「無理。」
更に大声を上げるシャルロッテを見てシャルデはこれだけやられているのだからと勝手に溜飲を下げて肩の力を抜いて今村に身を委ねた。
「……お、シャルデも堕としたのかい?この色情狂がっ!」
「ち、ちちち、違います!提督閣下は何もなされてありませんであります!シャルロッテとは違うであります!」
シャルロッテは今村の表情が若干固まったのを見てこれは攻め入る隙がありと判断し、この話題の拡充を行うことに決めた。
「ふっふ~この反応、完全に図星、間違いなしだね~?うりうり、君も隅に置けないねぇ?こんな可愛い子を!そうだ、ボクのこともきちんと責任とってくれるかな?……この分じゃ多分もっといっぱいいるから全員集めてハーレムだ!」
「や、止めろ!提督閣下はそのようなことを望まれていない!提督閣下はだな。束縛を大層嫌われる方だ。その、勝手に帰る場所など決めても。」
「じゃあ時々でもいいから帰ってくる場所って決めるとか、どうかな~?ボクとか多分彼の知り合い全員集めて頑張って戦えば原神とかぶっ殺せるし行けると思うよ?」
「て、提督閣下はだな。そう言うことは望まれないのだ。」
シャルデは口ではそのようなことを言ってシャルロッテを止めていながらどこか期待した眼差しで今村を見ている。それらに対して今村は少し思案した後に口を開いた。
「……お前らもか……そうか。」
「どしたの?」
様子がおかしい今村のことを心配してシャルロッテとシャルデは今村の顔を覗き込むが今村は二人のことを全く意識せずに溜息をついて独り言を紡ぐ。
「……やっぱり巫蠱術対策必要かなぁ……真面目に勘弁してほしいんだが……」
「何で蠱毒の話になってるの?」
「……蠱毒のやり方は知ってるだろうが。有名だし。」
二人は頷いた。
蠱毒は至極簡単。狭い場所に毒を持った虫、またはそれに準ずるような虫や小動物を入れて周囲を殺して生き残るという指向性の暗示をかけて後は怨念が集まった一匹になるまで放置。
出来上がったモノを巫蠱。魔として使い対象を呪殺するという術だ。
「……んじゃ、それを後宮に置き換えろ。特定空間の中に俺という相手に対して臆さない、または盲信している変態を集めてあらゆる集団を全て排除してでも自分が最も愛されようという指向性を持って行動する。するとあら不思議だな。後を託されたということでどんどん強化された変態が出来上がってそれが【神】としての俺の巫女となる。」
若干、手遅れな気がしないでもないが、まだ何とかなるはず。巫蠱術に関してもその中にいない術者がそれを術として宣言しなければそれは術として成立していないので起動しない。
なので、「幻夜の館」や他の特定世界で集まっていても今村がその空間に対して定義付けを行わない限りそれは術式となさないので大丈夫なはず。
それに、最悪の場合でもいざとなれば尊厳を守るための戦いに正当化して自殺ではないと「契制約書」に判断されるようなことをして戦って死ねばいいのでまだ、大丈夫だと思っているが今村的に何かそれでは払えない不安があるような気もしている。
「お。上手いこといってるね?おめでとう!」
「最悪だろうが。何で分かんねぇんだ死なねぇと馬鹿は治んねぇのか?なら死ね馬鹿。」
今村の罵声に対してにんまり三日月のような笑みを浮かべたシャルロッテは何も言い返さずにシャルデを伴って消えて行った。
「……何だったんだ?まぁアレに出現の理由を聞いても無駄か。」
今村は二人がいなくなることでやっとスペースに余裕の出てきた車内で適当に「酒氣円分化」を行って酔いを醒ますとまだテンションがある内にある術式を行うためにゲネシス・ムンドゥスへと帰って行った。
ここまでありがとうございました。




