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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第一章~最初の一年前半戦~
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4.狂人冥界へ

「んで? 天明さんだったよな。」

「……祓って呼んで。」


 理事長室を出てすぐ今村は図書館に行きたいので祓に声をかけた。が、名前で呼ぶのを忘れていたため祓に訂正を受ける。今村は若干鼻白むが続けた。


「何か強制されると反発したくなるんだがねぇ……まぁいいや祓さんや。」

「さんもいらないと言ってるの。」


 呼び捨てで呼ばない今村に無表情で注意する祓。今村は気に入らないが感情より図書館を優先して話を続けた。


「なーんかむかつくがまぁいいや祓さっさと図書館に連れて行け。」

「……わかった。」


 こちらの方が大分横暴で嫌な口調だと思うんだけどなぁ……と思いつつ祓に案内されて数分後、今村はその場所に着いた。


「うっははははははあぁあぁは!」


 狂ったように笑い出す今村。それに対してここに特に用もない祓は無表情のまま手近な椅子に座った。


「……じゃあ好きにして。」

「言われなくてもなぁっ! アハハハハハ!」


 完全に狂人と化した今村は取り敢えず手近にあった本を取ろうとして人間界から消えた。


「……ん? 何だここ今からいいところだったのに」


 今村は目の前にあった本棚が消えてなくなっているのに気付いてすぐさま周囲を警戒し、一瞬で祭壇のようなところの上にいることを認識した。


「はぁ? 今度はトリップもの? ちょっと空気読めやごらぁ。まだ前の展開が一切終わってねぇぞ?」

「ひ……仁なのだな?」


 八つ当たり気味に床を踏み抜く今村。そんな彼の目の前に突如現れた黒いローブを着た深い藍色の髪をした美人。その人物は大きな黒い目に涙を溜めて今村の方を見ていた。今村はその顔を見てすぐに該当者の名前を思い出す。


「ん? チャーンドじゃねぇか。今忙しかったんだが……何の用だ?」


 随分な挨拶に藍色の髪をした美人は苦笑する。


「全く……久しぶりに会ったというのにな。」


 長く艶やかな髪に指を通し後ろに流すとチャーンドは今村に抱き着いた。警戒を強めてすぐに寸勁を捻じ込めるようにしておく今村は僅かに緊張した声で尋ねる。


「……どうした?」

「前世では迷惑をかけたな……」


 そう言って謝罪の言葉を綴り始めるチャーンド。そんな誠意溢れる言葉に対して今村は至極どうでも良さ気に遮った。


「あー? すっげぇどうでもいい。はよ帰せ。今めっちゃいい所。」


 若干泣きそうなチャーンドに対し今村は心底どうでもよさそうに応じる。仕方なさそうにチャーンドは今村から離れて真剣な眼差しで告げる。


「とりあえず今世ではなんでもしよう。」

「まぁじゃあ頼もうか。うん。ここは冥界か?」


 今村の問いかけにチャーンドは頷く。


「あぁ。」

「材料書いとくから後で送ってくれ」


 同意を受けた今村は何の材料かは言わず、すぐにカバンから紙とペンを出し、紙にペンを走らせてチャーンドに渡す。


「任せろ。冥界の長として我が全て揃える!」

「じゃあ帰る。」

「っと! その前に! これを!」


 チャーンドはすぐに帰ろうとする今村に手のひらサイズの紫色の水晶玉を渡した。今村はそれを見て鑑定した。


「んー? 転移球か。」

「いつでもここに来れるからな。いつでも来てくれ」

「あぁうん。」


 次の瞬間今村はチャーンドの魔法で人間界に戻った。


「よし! じゃあいきますか!」


 突然消えた今村の下に祓がやって来て今村に当然の質問をぶつけた。


「……あの? どこに行ってたの?」

「冥界。字面だけだと中二臭いな……でも、悲しいけど事実なんだよねーテンションやべぇな……いかんいかん白蘭冷棄却法びゃくらんれいききゃくほうっと」


 今村はテンション高くそう言うと魔術書を開いて目的のページを捜し、そのページを持ち込んだノートに写し始めた。


「うーんメンドイな……材料多くて写すのも疲れるし……工程も長くて面倒……」


 今村が急にテンションを通常に戻して作業に没頭しながらそう呟くのを見て祓は追及するのを諦めて虚空を眺めて心をどこかに移動させる。


 しばらくの静寂の後、今村は急に声を上げる。


「よっし! 気分転換!」


 今村はノート2冊分を書き埋めたところで疲れ始めたのだ。意味もなくそう宣言するといきなりの発言にこちらを見て来る祓のことを気に留めず作業の手を止めて立ち上がった。


「祓はその辺の本でも読んでてくれる?」

「……わかった。」


 視線に気付いた今村が祓にそう言ってその場を離れると不意に空間が歪んだ。今村はそれを何となく感じとり空間の歪みの大きい方に顔を向けて呟く。


「んー今度は何かな? ってか急にイベント起こり過ぎな気がするなー」


 常人なら慌てる状況だが今村はどこ吹く風で歪みの大きい方にどんどん進んで行く。程なくして行き止まりに着いた今村の目の前―――そこには複雑な文様が施された金色の扉があった。


「こりゃまた厳重な結界で。じゃあ懐かしい技行きますかー! いや、行けますかー? 『ドレインキューブ』」


 今村が歪んだ笑みを浮かべながらそう言うと目の前の空間に一メートル程度の紫色の立方体が現れる。


 それは出現と同時に勢いよく扉から何かを吸収し始めた。


「んー時間かかりそうだねぇ~どうしよっか? 並列して作りまくるか『ドレインキューブ』っと」


 自己完結の言葉を垂れ流しまくりながら今村は単調に作業をして行く。そして数分後、扉は開いた。中にあったのは―――






 その頃理事長こと白水は非常に焦っていた。


「まさか封印の場所に行くとは……」


 彼は会議中に封印の場所に異変を感じてすぐさま会議を中断して人目を気にしながらできるだけ急いで図書館にむかっていた。


「はぁっ……やっと見つけた祓君の監視人が……いや、それよりもイグニス様やトーイ様、タナトス様に何て言われるか……」


 彼はそんなことを言いながらも封印していた物体に過去、触れた人々の凄惨な最期の姿を思い出していた。


 ある人は触れた瞬間肌が爛れ、またそれを身に纏った人は絶命した。


「はぁ……厄介なことを……」


 思考しながら移動していると理事長は封印が解かれたことを感じ取る。もはや猶予はないとばかりに彼は人目も憚らずに能力を開放し、一瞬で図書館へと移動する。


「つっ……間に合ってくださいよ……!」


 封印が解け、圧倒的な力が外部に漏れる図書館に理事長は僅かな疲労を滲ませつつ何とか死者が出たと感知する前に着くことに成功する。


「あ、多分呪われてて誰も使えないだろうしこれ俺が貰いますね。」

「……は?」


 安堵した理事長の目の前には封印された物、黒いローブに触れるどころか身を包んだ今村がいつも通り歪んだ笑みを浮かべていた。




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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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