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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十一章〜気分転換で〜
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18.彼は独り

「終わった。……にしてもアイツ空気読めっての。なぁ?」


 今村はエルフォードとしての生を終えて彼の世界の白い空間に移動してその主に向かって不満そうにそう言った。


「……ふぅ……まぁ、色々言いたいことはあるでしょうけど、ちょっとだけ質問いいですか?」

「どーぞ?」

「今さ、あの世界の時を止めてるんですけど……戻って、ソフィちゃん拾ってあげるとか、そういうことってしてあげたりしないですかね?」

「ないね。折角ハッピーエンドなんだし放っておくべきだろ。」


 彼の質問を今村は軽く笑いながら受け流した。それに対して彼が少々難しい顔をする。


「ハッピーエンドって……どこが?彼女、あんなに泣いてたしどう見たって君のことが好きだったじゃないですか。僕はあなたも知っての通りハッピーエンドしか趣味じゃないんですが?」

「ハッピーもハッピーだろ。人類の英雄様で王子と婚約。常識外れの力で下手をすれば正神たちに異端認定されかねなかったところを兄一人の犠牲で免れ、しかもその兄と来れば恨みも一切なしにソフィが幸せに生きるのが贖罪と言わんばかりの遺言を残した。心置きなくこれから幸せになれるだろうに。」


 今村はニヤニヤしながらこの世界の神にそう返しつつ自分の体を確認して体に異常がなかったので一つ頷いた。


「なに、こっからはアレだ。エピローグって奴だ。俺の死を糧にして落ち込んだところを王子に慰められて傾倒し、より深い愛情とやらを生み出すんだろ。そしてあいつらが衰えた時にでも子どもたちに話す程度だ。」

「……そんな簡単に切り替えられるものじゃないだろうに……」

「大丈夫大丈夫。切り替わる切り替わる。」


 今村が軽くそう言うのにこの神は溜息をついた。


「誰もがあなたみたいに強いと思わないでくれますか?」

「はっ!俺は普通だ。」


 鼻で笑って口の端を吊り上げる今村を前に神は少し目を細める。


「……大体、彼女にとってあなたがどれだけ大切な存在かあれだけ尽くされて分からないんですか?まだ乳飲み子だった彼女は、その原体験で君が親だと刷り込まれてるんですよ?」

「親は子に未来を託して死ぬもんだろ。んで、俺がやったことは別段そこから外れてねぇ。それにあの時は俺以外何とかする奴が来なかったから俺がやったが今は周囲にいっぱい選択肢がいるんだ。俺である必要はねぇよな。」

「必要なくても、大事なことってあるじゃないですか……」


 尚も何か言い募ろうとする彼の口を一睨みで止めて今村は言った。


「それに、俺は独りであるべきだ。そうだろ?」

「………………ですけど。でも!」

「はいはい怠い怠い。一瞬分かったって顔したんだからもう黙れ。元も子もないことを言うなら俺は元々一人大好きだ。集団行動は嫌いだ。」

「……はぁ……そうですよね。僕は……うん。そうですね……神として自覚がまだ足りてませんでした。」


 謝罪してくる彼に今村は良い事を考えたとばかりに手を打った。


「んじゃさ、悪いと思ってんなら俺が陣描くからそれに魔力込めて。俺が世界に入るのと忍び込んでた奴の排除と俺の周囲の観察で相殺だろ?じゃ、お前は俺に一つ余計に貸し作ってることになる。早目に返した方が楽だぞ?」

「……何の陣ですか?……召喚陣?下の世界の、人型っぽいから危なくはなさそうですけど……」

「んじゃ、俺がいなくなってから少しして開けて。じゃ、また。」


 陣をひょいひょいっと描き終えた今村はこの世界から出て行った。残された神は溜息をつきながら止めていた世界の流れを元に戻す。

 すると天まで伝わるかのような慟哭の声と絶望した魔力が吹き上がるのがここまで届いた。


「……はぁ。やっぱり、これはなぁ……なまじあの子はあの方の魔合成物質飲んで育ってるから僕らに近しい身になっちゃってるし、こういうのの始末は下級神から成り上がった身としては堪えるよなぁ……って怖っ!」


 下界の彼女はどうやらどれだけ祈っても、どれだけ信じても彼女と兄をともには救ってくれない神のことを深く恨み、その存在を大きく歪めたらしい。


「……信心度Maxの弊害か……うわぁ……嫌なんだよなぁ……こういう状態のあの方の知り合いになった女性って碌なのいないし……」


 彼は後始末が嫌な物になりそうだと思ったのでその仕事は後回しにすることにして今村から言われていた陣の方を見た。


(……何だろ?人、かな?まぁ開けてウザそうな奴だったら殺せばいいか。)


 そして彼はその陣を起動させた。その瞬間、陣は光り輝いて抹消され、それと同時に世にも美しい美女、美少女、美童女、そして美幼女がこの彼しかいない空間に現れ、彼は息をのんだ。


「……?っ!何で!?」

「あ、やばっ!……あぁぁあぁぁああぁぁぁっ!何でこのタイミングに!?」

「…………ふざけてますね~……ねぇ、そこの方?」


 彼女たちはこの場にいる彼を見て恐ろしい表情を浮かべていた。彼はその彼女たちを見て、確信する。


「……あっはっは……なるほど、いや、そりゃ……ああなっても……はぁ……この人たち話聞かなさそうだよなぁ……つーか、最近の第3世界ってどうなってんだ?意味分からんことばっかり。あの植物にしても……」

「……ねぇ、みゅうたちに、何か用でしょ?なに、独り言、言ってるの?」


 彼が考え事をしているとこの場に現れた美女たちの中で銀髪の非常に長いツインテールをした美幼女が底冷えのしそうな声音で彼に声をかけ、術を掛けて無理矢理彼女たちの方を向かせた。


(……他には勝てる。でも、これの相手しながらとか無理だろ……つーかこいつらのあの人に向けての愛情度がおかしい。表面上は何とか隠せるようになってるみたいだけど、君らのそれ、神々の世界でも鼻で笑われるほど存在を疑われてる愛氣だよね?何でみんな揃って持ってんの?ここに引き籠ってる間に外ってそんなに変わってるのかな?)


「聞いて、る?」


 空間が拉げた。彼は慌て気味に空間の制御権を取り戻そうとしたがそれは黒髪の巨乳というアンバランスな物を備えたゴスロリ美童女と先の銀髪のツインテール美幼女によって掻き消される。


「うっそだろ……空間系と、時の神かよ……うわ……俺との相性最悪……」

「……今、クロノは怒ってるよ。お兄ちゃんからご褒美もらえなくなっちゃったもん。だから、怒ってる。……あと、クロノはお兄ちゃん以外の相性とか本っ当にどうでもいい。」


 クロノの怒気を受けて彼は引き攣った笑みを浮かべる。


(はは……兄も嫌がってた理由がこれか……確かにあの人やたらと年下から異性として見られつつも兄って呼ばれること多かったしなぁ……知っててやったんだけど現在進行形だったか……)


 もうどうにでもなれと笑うしかない。だが、彼の顔を見て現れた女性たちの中でも異才を誇っている金髪の美少女が声を上げた。


「……カタクリュフェス様。ですね……お久し振りです。」

「お、おぉ!アリスちゃん!」


 知り合いの声に救いの手が入ったとばかりに明るい声を上げた彼に飛んできたのは光を固めて形成されているらしい槍だった。


「……そして、さようなら。」

「話聞いてよ!あ~もう、俺はあの方に言われたから陣を起動させたんだ。僕は悪くない!」


 神が声を荒げると彼女たちの中でもひときわ大きな胸をしたワインレッドの編み込みをして流している髪をした女性が目を細めて頷いた後言った。


「まぁ、証拠もない上、そちを信用できるか分からんが、なくはなさそうな話じゃのう。……じゃが、起動させたのはそちじゃろ。操られたわけでもなく、自らの意思で、やった。そうじゃろ?」

「……サラさん。もういいです。……今私たちがやるべきことは一つじゃないですか……」


 責めるようにしていたワインレッドの髪の美女を下がらせて白髪の美少女が前に出てくる。収められたことに少し期待しつつもどう考えてもなぁと軽い絶望を覚えつつ彼にやって来たのは。


「八つ当たりです!本当にごめんなさーい!ですが、先生がいない3ヶ月の間度重なる第2世界の異世界からの侵略への対抗とか頑張ったのにこれは流石にあんまりです!なので~」


 白髪の少女の更に前に出てきた紫色の髪をした妖艶な美女の言葉とほぼ同時に彼女たちは武器を持った。唯一白髪の美少女だけ何も取らない。


「……いや、早く帰って先生のお出迎え……」

「祓先輩どうやっても間に合いませんって。だって先生もう帰って来てるんですから。考えてもみてください。≪自主規制≫とかして貰えたかもしれないんですよ?それ、ぜ~んぶなしです。その上、生体に反応する陣でしたから……あなたのお姉様だけは、残って私たちの頑張りの分まで……」


 彼は攻撃意思の少なさそうな白髪の美少女を応援する。何とかこの場が丸く収まるように神に祈った。だが、ここでは彼が神だということを忘れている。


「……そうですね。幸い、何となく先生が帰って来そうだからと準備しておいたものは置いてありますし……」


(翻意早っ!ってか、未だだれも予想できないあの人の行動を何となく察してたとかこの人何者だよ!?)


 彼はそんなことを口にするよりも前に乱戦の中に……いや、一方的な虐めの中に放り込まれた。




 此処までの御閲覧忝い……

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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