16.気怠いのでご機嫌斜め
編入生召集日になった。この日は一通りの学校説明が行われ、筆記試験では図らなかった能力等についてのチェックを行ったりする。
「……行くの怠いなぁ……蛮食植物くんや。俺の代わりに説明受けといてくれないかな?」
「きしゃぁ……」
何か考えていた時よりも気怠さがどんどん増してきている。一応楽しみにしておいた学校も合格通知と同時に教員として推挙する話が上がり、授業が既に免除されているのでもうソフィたちをくっ付かせることと授業をする方になるぐらいしかやることがない。
「まぁ……行くけどね。怠いなぁ。自由時間が多ければまぁ煽りに行けるから愉しみようもあるんだが……」
「マスター。そろそろ時間ですよ?後1分もないです。」
「いいじゃん別に……は~……眠い。」
「きしゃ、きしゃ、キシャァアア!」
「お前何様だこの野郎。表出ろやこのボケ。……まぁお前が何て言ってるのかわかんねぇから適当に言ったけど。取り敢えず生意気っぽいからお仕置き。」
何か五月蠅かった蛮食植物を燃やして今村は学校に転移した。
「……それではそろそろ時間ですので……! あ、はい。全員揃ったところで説明を開始したいと思います。」
「全員……?うおっ!」
「何だ君は失敬な。人の顔を見たくらいでそこまで驚くか?」
指定されたところが思っていたより見晴らしのいい場所だったのでいきなり現れたことに驚かれたが、適当にあしらって資料に目を通して閉じる。
(校則が結構少ないし、かなり裁量に任されている緩い物だからあんまり覚えることもないな。後こいつら全員俺の事見過ぎだろ。生徒指導部長みたいな人の話聞いてやれよ。)
だが、かく言う今村も暇なので自分の前にいる人物の背中にスクリーンを投射して自社製品のゲームを始めた。すると今村の後ろの子どもが急に手を挙げて発言した。
「先生!」
「はい?質問は後から受け付けますが……」
「前の席の方がゲームをしているんですが、これは問題ではありませんか?」
その言葉を受けて今村は面倒臭そうにゲームを一時停止して発言する。
「学則にその規定はない。授業中で問題となるのは他の学生に対して悪影響を及ぼすこと、授業の進行に差し障りがある場合、そして授業内容を理解していない場合だ。……それと、この世界にゲームという概念は試合以外に存在してないから注意しな転生者。」
最後の一言でこの場にいた者の中で2人が凍りついた。しかし、そんな空気など関係なく反感を持ったらしいソフィの逆ハーメンバーから抗議が来る。
「ほう、最後の内容は正直よく分からんが……その言い方であれば君は既にこの授業の内容を理解しているということでいいのかな?」
「……怠いな……まぁいいけど。それより授業聞いてないだろお前ら。ほら、さっき授業聞いてたなら分かること訊くぞ?この学校の目指す理想の生徒像は課題を自ら模索できる力とそれに対して計画的に行動できる能力、後は何?」
今村の問いかけに全員が黙った。それはそうだろう。そんなこと適当に聞き流すのが普通な上、彼らは学校という空間の中で与えられたことをこなしながらソフィと深い中になることしか考えていないのだから。
「そ……私、分かるよ!」
そんな中ソフィが手を挙げて答えようとしてくる。生徒指導部長と思われる彼は彼女の突然の奇行にぎょっとしたが人類最強の美少女である彼女には何も言うことが出来ない。
が、今村はそんな彼女を無視して今まさにその話をしていたにもかかわらず誰も聞いていないという事実を目の当たりにしている生徒指導部長と思われる教員の方を向いて言った。
「……ルルッコイ先生。答えは行動後にもそれで終わらずに更に踏み出して深い探求へと進むことで良いですね?」
「はい、その通りです。……えぇと、そのゲームというのが何かわかりませんが皆さん方はもう少しこの学園に対して真面目に……」
生徒指導部長らしいルルッコイ先生が小言を開始する時には今村は既にゲームの機能を再開させていた。
(……にしてもこれ凝視しないと見えないように認識を曖昧にする設定してるのによく見えたなこの色ガキどもは……そんなに見てたんかね?)
恋愛RPGであるのにもかかわらず、地雷がキャラの半分を占めているという炎上ゲームで地雷キャラを調教して従順にする作業をしながら今村はこの時間が終わるのを待った。
そして昼、学園でも昼休みを迎える時間で明日から授業だが今日はこれで解散となったところで今村はソフィの弟のエリックに絡まれた。
「オイお前、」
ゴギャッ!
「……?何か今……まぁいい。お前、」
グゴッ!
「……ん?また何か……?どうした皆……何に怯えてるんだ?」
「お、お前……何ともないのか……?首が……」
「首?首がどうかしたか?」
今村はサービスでもう一度首をへし折って変な方向に曲げてあげようかなと思ったがそれは止めて彼らの話を一応聞いてあげることにした。
「……変な奴ら。まぁいいか。あんたソフィねぇとどんな関係だよ?」
「知らん。」
「そ、そんなぁ……」
ばっさりと斬り捨てられたのに悲しげな声を上げたのは今村の分のお弁当を持って来ていたソフィだ。そんな彼女を見てエリックは怒り混じりに今村を追求する。
「知らないではいわかりマシた……?で、納得すると思ってんのか!?」
「くふっ……う、まぁ、そうだな。えぇと、何の話だっけ?」
何かいい死に方するなぁこいつと思いつつつい笑いをもらしてしまった今村がそう尋ねると彼は激昂した。
「あんたにぃ、そそそそそそそそソフィねぇぇぇ~はぁっ!つつりあわぁっないっのだがばっ!」
「ぅぐふっ……そ、そうだな。全く以てその通りだな。げふっ……」
何か楽しくなってきた今村。スプラッターなラッパーを見て笑いを堪えられずに笑ってしまい誤魔化す。
それに対して周囲はドン引きして、魔王と闘った際に屍山血河の真っただ中にいた猛者たちであっても吐き気を催すような生命を冒涜しているとしか思えない光景を前にただ呆然としていた。
そんな中、ソフィは普通に今村の横で待機していつになったらこれが終わって、そしてお弁当が開けられるのかについて悩んでいた。
「わかったならいい。もうソフィねぇに金輪際関わるなよ!」
「テメェに命令される筋合いはないが……まぁ見てて面白かったしいいよ。本来の目的は仕方ないか……うん。将来の不確定な面白さより現在の確実な面白さ。「ダメだよ!?何言ってるのエリー!ソフィからおにぃ取り上げるとか絶対に許さないから!」」
死ぬ際が面白い彼をダンジョンに誘致すれば毎回入り口で蘇るし、各階でかなり面白い物が見れるのではないかと思った今村が学校をもうやめようかと思っていたところにお弁当どころじゃないと気付いたソフィが乱入して来た。
「……は?いや、ソフィねぇ……言葉遣いが?」
「っ!ぁぅ……こほん。えっと、おに……エルフォードさんの何が気に入らないのか言えるの?」
「……胡散臭い。こんな奴が……」
「エルフォードさんが胡散臭い!?こんなに凄……じゃない。えっと、じゃあもうエリックがどっか行けばいいよ。バイバイ。」
「なっ!ソフィねぇはずっと一緒にいた俺よりぽっと出のそんな奴を信じるって言うのかよ!」
「うん。」
短く、しかしきっぱりとした宣言にエリックは絶句し、辛うじて次の言葉を絞り出す。
「ぜ、絶対騙されてる……」
「騙されたっていいよ?だって、私は……」
対峙する二人や周囲がシリアスな空気に包まれる中、今村は暇だったので2の乗数を頭の中で延々と計算して時間つぶしをしていた。
ここまでありがとうございました。




