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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十一章〜気分転換で〜
392/644

12.ズレ

「……ですから、この座標というものは非常に使い勝手の良い物として使用することが可能です。まずは独立変数と従属変数から考えることで二つの関係性をグラフというモノを通して表し、理解を簡単にすることが出来ます……そろそろテスト時間も終わりですね。えー何か質問がある方はコメントシートにお願いします。それに後日お答えする形でこの講義を締めさせていただきたいと思いますので、それでは皆さんお疲れ様でした。」


 今村はデオコルト学園の数理学のテスト時間終了と共に講義を終えた。教授たちが今村の下に来て多数の質問を書いたカードを残して立ち去る中、今村はお茶くみをしていた子がじっとこちらを見ていることに気付く。


「……何か質問が?口答で済む範囲で良いならお答えしますが。」

「ぁ、……ぅ、ちゃ……ご、」

「?アーベルク交換式魔導力学ですか?」

「ち、ちがぁ……」


 何だこいつ面倒臭い。今村はすぐにそう思ったが今村の様子を見て今村が研究一筋で世間のことに疎いのだろうと思った一人の教員が今村に耳打ちする。


「ソフィア・フェンデ・ガダルナンド様です。魔王を力で下し、人間族の地位向上をした英雄様ですよ。」

「ソフィア……フェンデ・ガダルナンド……ねぇ。何か聞いたことある気がするけど……まぁ、いっか。え?ダメ?」


 思いっきりショックを受けた顔をしている目の前の可愛らしい美少女に今村はどう反応したものかと首を傾げる。


「お、おにぃさまぁ……ソフィです……お、思い出して、くれませんか?」

「あ、ソフィね。元気だった?」

「!は、はいっ!え、えぇと、そぅ……お、兄様は、大丈夫ですか?げ、ぅぅあのえっと……元気でしたか?」

「…………まぁ、うん。」


 元気の定義がちょっと行方不明だが一応今村的には元気だったので頷いておく。その後、会話が途切れる。


「じゃ。頑張れ。」

「えっ!?あ、あの、まだ……」

「何?」


 用がないのであればとそのまま去ってしまおうとしている今村をソフィはほぼ反射的に止めて何とか会話をしようとパニックになっている頭を回転させる。


「そ、その……あ、そ、ソフィは、頑張りました!本読みました!」

「そう。頑張ったね。おめでとう。じゃ、」

「ま、魔王とか、倒しました!えっと、えっと……あの、あ……な、兄様は何してましたか?」

「色々。」


 会話を終わらせたくないソフィのことなどあまり気にせずに今村はちょっとダンジョンのことを思い出して笑った。


(トラウマ量産階はいいよなぁ……アレ誰か入ってくれないかなぁ……)


 動物、もしくは魚や虫、はたまた無機物などを人間の顔に当たる部分に据えて、やたらとスタイルのいい人間の体をくっつけてみた階層となっており、ラスボスは炎に包まれるガチムチ系のシュークリームが顔の男、そして二足歩行する設定上は女性のたくあんが待ち受けている。


(いかんいかん。今はそんなことどうでもいいや。夕飯作らないと。)


「あ、あの……兄様は、どこにおられるのですか?」

「大分前に死んでたよ。魂が入ってなかったからどこ、とも言えないところとしか言えないな。」

「あ、え、その……おに、えっと、あぁぁぅぅぅううっ!」


 何だこいつ壊れてんのか?そう思った今村がもう無視することにして踵を返して宿に行こうかとするとその腕をソフィに取られた。


「ま、待って……行かないで……」

「……そろそろ認識をずらす結界でも処理しきれなくなるから止めて欲しいんだけどねぇ?何?何なの?」

「ひぅ……ご、ごめんなしゃぁ……」

「……何なの?」


 少しイラつきを見せただけで目の前の少女は叱られる直前の子どものように怯えるので今村は止まった。


「要件があるなら手短に。」

「も、もっとお喋りしたいです!」

「……内容は?何か適当な与太話なら後でにして。重要な話の場合だけ今会話しようか。」

「あ、あと、は、いつですか?」


 ソフィは今の状態ではまともに話が出来ないと自己判断して今村に質問するが今村は溜息をついた。


「……わかった。んじゃあ今日の夜にでもしようか。」

「ソフィはどこに行けばいいですか?」

「……怠いし、はい。」


 今村は転移陣を書いた札を渡した。ソフィはそれをなくさないように大事な宝物のように扱って懐に仕舞う。


「じゃ。」

「…………うん……」


 それでもまだ不安気なソフィだったが今村は会話を終わりと断じて結界を解く。すると活気が蘇って来た。


「いや、エルフォード様は素晴らしい!その歳で良くここまで研究をなされましたなぁ!いっそ講師としてデオコルト学園に赴任してくれませんか?」

「あー……あんまり長期滞在は出来ないんで……半年でここを出ますし。」


 今村の言葉を聞いてソフィはまず姓が変わっているのに敏感に反応し、次いで半年でここから出て行くという言葉に胸がキュゥっと締め付けられ泣きそうになる。


「……そうですか。非っ常に残念ですが、まぁここに滞在されている間に吸収できる分は吸収させていただきますよ!」

「はは。まぁ一応、一部講義拝聴の臨時生徒という形での編入ですからお手柔らかにお願いしときますよ。」


 今村はそう言ってこの部屋を後にし、それに続くように多数の教授たちも部屋から出る。ソフィも交代した人の所に戻るため少し気をどこかに飛ばしながらこの部屋から外に出た。





 すると、当然ながら一応筆記具などを持って来ており、それら全てを受験室に残したまま講義をしていた今村と再び会うことになった。

 しかも、上の空だったソフィは受験室の外の気配を感じて避けた今村に何となくこっちに良いモノがあるとだけ認識してずれて移動し、今村のことにぶつかってからようやく気付く。


「ぅひゃっ。」

「……はぁ。邪魔なんだけど?」

「ご、あ、も……す、みま……むぎゅぅ…………ぅへ…」


 今村はかなり近くにあるソフィの表情を見てこれは何となくマズイ顔をしているとすぐに察知して少しだけ下がる。その様子を察知してソフィは我に返り顔を真っ赤にして引いた。


「~~っ!ご、ごめなしゃぁあああ!」

「……幼児退行してる……やっぱ幼少期に俺が関わるとあんまり碌なことにならんなぁ……ん?いや、ちょくちょく俺がいなくなった場合か。今回は俺が親じゃないから別にいっかと思ってたんだが……」


 今村がぼやき、ソフィが比較的大きな声を出していると受験室から出てこようとしていたソフィのパーティメンバーたちが今村を剣呑な目で見てきた。


「おいアンタ。ソフィねぇに何をした?」

「何もしてねぇ、よ?……なるほど、君らは……」


 今村はソフィと自分を見比べている彼らを見て口の端を吊り上げる。彼らの青春が目の前に迫って、押し寄せているようだとそこにいるだけですぐさま感じることが出来た。


「楽しくなって来たな。半年とか長い。これ終わったらさっさと行くか。」


 ソフィは何が何だかよく分からないが取り敢えずよくないことが進んだ気がして夜までに今まで溜めておいた話すべきことノートを全部持って行かないといけないと思い、何としてでも彼女の兄を繋ぎ止めることを決めた。




 ここまでありがとうございました。

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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