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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十一章〜気分転換で〜
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11.編入試験?

「……ガダルナンドさん。着任して早速で悪いんだけどこれを持って明日の編入試験の試験監督お願いしていいかしら?」

「これは?」


 ソフィは就任式を終えた翌日に試験監督を依頼された。彼女を担当している年配の教師はソフィにタグを渡すがソフィはそれを受け取りながら困惑する。


「え、きゅ、急に外部の人間である私に任せてもらって大丈夫ですか?」

「そのタグを付けていれば安心よ。壊したりすればあなたの婚約者さんたちの入学は認められませんから、よろしくお願いしますね?」


 有無を言わせない口調でそう言うとソフィを担当しているその教師はその話はここまでだと暗に示すかのように次の業務を放し始めた。











 そして、翌日。


「……!なにか、良い予感がする……」


 ソフィは寝起きにいきなりそう言って起き上がった。薄手のネグリジェを脱ぎ捨てると身だしなみを整えてこの国での正装である濃い紺色のローブを身に纏い彼女は出勤した。


(……編入試験を受けるのは全部で10人……いきなりの割には多いらしいけ、ど?え?……今の、絶対……え?…えぇ?)


 考え事をしながら学内に入り、そして問題用紙と答案用紙を受け取ると彼女は微かに感じたことのある気配がして、振り向いて固まった。


「……ガダルナンドさん?」

「あ、す、すみません……」


 ソフィの指導教員が何を見たのかと後ろを見ると入場許可時間になって入って来ていた受験生たちがいるのに気付き、そしてその整った顔立ちの彼らを見て呆れと疲れが混じったかのように言った。


「ガダルナンドさん。今は仕事中よ?いくら勇者だ何だと褒めたたえられていてもここでは一教員なんですから公私の分別は付けてもらえないと困ります。」

「あ、はい……」


 ソフィは話半分しか聞いておらず表面上だけ怒られて時間もないのですぐに植えのテストのための教室へと移動した。


(!や、やっぱり!)


 ソフィは彼の姿を認めると涙を抑え込み、嗚咽を漏らさないように全神経を使ってこの場の迷惑にならない様に集中した。


(あ、頭の中が真っ白になっちゃった……色々言わないと、でも、テストしないとでもぉ……おにぃ……あ、子どもっぽいって、でも兄さんって言わないと……分かるかな?ソフィだって気付いてくれるかな?見てくれてない……気付いてないんだよね?わ、忘れられちゃったりしてないよね……)


 今村を除くこの場の面々はソフィに注目しており、ソフィの動向を気にかけている。今村はその様子に気付いたのか試験監督の方を見る。


(目、目が合った!おにぃの目がこっち見た!)


「ゎひゃぅ……」


 変な声を漏らし、真っ赤になる彼女を見て周囲が訝しみ、今村も首を傾げて時計を見た。それにつられてソフィも時計を見て仕事を思い出して取り掛かる。


 テストは魔術史、数理学、歴史学、そして基本問題となっている。これら全てを各2時間で解くというモノだ。


 まず基本問題についての用紙を配布し終えると時間が来て始めとなった。そしてソフィは今村を見る。


 彼は30秒間だけペンと思われる筆記具を動かした後、伏せた。


(……具合、悪いのかな?大丈夫かな?声掛けた方がいいかな?)


 ソフィは周囲の他の試験官に視線を配る。彼らは何故かこちらを見ていたが視線の意味を把握したらしく今村の方へと行った。そして今村と2、3語会話して答案を見て絶句し、1人が彼を他の部屋に連れて行った。


「……スミマセン、ガダルナンド先生。不正の疑いがある人が出ましたので少し人手不足になりますがお待ちください……」


 そう言っていなくなる試験官。ソフィは不安げな様子で今村を見送った。


(おにぃが不正なんてするわけない……)


 そう思いつつソフィは薄い彼の気配に代わって連れて行った試験官の気配を探りながら今村が連れて行かれた部屋を知る。するとそこにどんどん人が集められるのが分かった。


 ソフィは加速する不安を胸に、どんどんと集まり、最終的に今日来ており、授業等が入っていない教授たちが全員集まったことで不安を隠しきれずに魔力を波立たせた。

 しかし、幸いなことにこの科目終了時には人が解散され、今村も戻ってきたことで話は終わる……


 ……かに思われたが、次の時間も、そしてその次の時間も毎回今村が連れて行かれることにソフィは焦りを覚える。

 そんな中、今村がいなくなってから少しして試験監督の一人がソフィに声をかけて来た。


「……すみません。ガダルナンド先生。大変申し訳がないのですが……」

「……何ですか?」


 焦りによる魔力の流れが集中力でも妨げてしまい受験生に悪影響を与えるから試験監督を代わって欲しいとでも言われるのか?と少しイライラした頭でソフィが考えていると彼は言い辛そうに言った。


「……あの、ガダルナンド先生には大変申し訳ないのですが、お茶を、持って行ってくれませんか?」

「は?」


 ソフィは訳の分からない彼の言葉に思考を停止させた。仮にも男爵令嬢、そして名誉伯爵であり、人類最強である彼女にお茶くみをさせる。


「えぇと、あの、その……そこにおられた受験生の方が……」

「……あの人に持って行けと?」

「あ、え、も、申し訳ないんですが……その通りです……」


 今にも消えそうになりながら言う彼に対してソフィは笑顔で答えた。


「いいですよ?すぐに持って行きましょう?どこにありますか?」

「あ、た!助かります!部屋を出てすぐに準備されていると思いますのでお願いします!試験官は代わりますので!」


 男が生き返ったかのようにそう言ってソフィと代わってソフィはお茶を貰って今村がいると思われる部屋へと進んで行き、そして中に入った。


「……つまり、この世界に置いて魔力圧縮度37から固体化し、それを越えた凝縮エネルギーを加えることで魔力の粉は魔石へとなりうる可能性を発現……そこ、どうかしましたか?」

「えー……講義の最中ですが、発言スミマセン。自然界においては魔石はどのような状況下で発生するのですか?魔力圧縮が自然と起こる可能性は非常に低いと思われるのですが……」

「ん~……まぁ、簡単に言えば濃度の問題ですね。今、この場で俺が生成した時の圧縮度は確かに37ですが魔力が強い者は常に魔力を体内に持っています。そこにおける魔力はこの大気中より何十倍もの密度で秘めており、従って外部からの比較的弱い力でも結びつくのです。」

「……因みに具体的に言えば……」

「具体的に言うには少し時間が足りないので講義の方を進めさせてもらいたいと思います。あ、すみませんね。そこ置いといてください。」

「え、あ、はい。」


 ソフィはこの場の状況がいまいち掴めずにただ指示に従って教壇の上にいる彼の為にお茶を置いた。彼は続けて授業を行う。


「はい。魔力圧縮についてのエネルギー使用法について………………発言が聞き取れなかった場合は手を挙げてください。……はい、分かりました。降ろしてください。この世界には少し早いようですね。では別の薬学の話にしますか。えー魔力の結晶は非常に……」


 この後もしばらく講義が続いたが、ソフィは何か色々と考えすぎてよく分からない頭を働かせることが出来ずにただ佇んでいた。


「……ん。テスト時間が終わりましたね。じゃあこの講義はここまで。何か質問がある人は休み時間に、次のテストに間に合うように個別にお願いします。」


(……何でおにぃが講義してるの?)


 部屋から今村が立ち去る前に殺到する教師陣たちを前にソフィはやっとそれだけ考えて色々言いたかったことを全てどこかにおいて来てしまった。




 ここまでありがとうございます。

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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