10.お外に出ましょう
「さぁじゃんじゃんばりばり続けて行こう!328階!今回は~ひゅ~っ!メ・ガ・ネだぁ~!競輪選手がホレボレし、ボディビルダーですら見惚れるその逞しき脚を何故か少し眼鏡本体から離れた謎空間に生やした彼!「お楽しみの所悪いんですけどさぁ……」……ん?」
今村はダンジョンを造って遊び続けていた。そして今回は眼鏡の何かよく分からない純白の翼を生やし、トラウマになりそうな筋肉質の腕4本と脚を生やしたモンスターを大量に召喚している所で声をかけられる。
「何?」
「……いや、もうそろそろこの世界から出ますよ?今この世界に来て13年経ってますし……」
「は?いやいや。まだ全然……」
まだダンジョンを始めてすらいないのだが?と返そうとして今村はあることに気付いた。
「……しくった。273階の逆玉手箱式空間のせいか。」
273階。そこはある一定区域内でのみ発動する罠が設置されている。その区域にモンスターを入れるとモンスターの動きがとても遅くなるが、その中に人が入ると大変なことになる、簡単に言えばブラックホールの淵のような場所だ。
要するに今村は極々短期の間だけだが特殊相対性理論的なことをやってしまい、周囲と時間が合っていない状態になってしまっていた。
「……どうするか。まぁ仕方ないしこの回を最終階にして『おめでとう!真のお宝はここまで来られた君の仲間たちだ(笑)!』って書いて出よう。」
「……鬼なんですか?いや、まぁ知ってましたけど……」
「そこまで言うなら仕方がない。167階に放った地球産【古より存在する漆黒の流星】Gを改造したこの世界なら最強の召喚蟲の飼い主に認めるという……」
「やめてくれる!?切実に!アレを外に出さないで!もう最終階は『お宝は仲間です(笑)』の紙切れだけで良いからさぁ!ってか、キモいからわざわざ生物セットから取り除いたのに何でこの世界に入れてんですよ!?」
「まぁそんなことよりだ。」
「聞けよ!」
今村はそんな事より、と繰り返してから続ける。
「この後、リアルタイムでダンジョンの罠やら何やらに引っ掛かって狼狽える小僧どもを見て楽しむためにダンジョン創ってたのに出来ないとなると俺何すればいいんだろう?」
「さぁ?何か滅ぼしたらどうです?」
「滅ぼすねぇ……今そんな気分じゃない。……青春してぇ!よし!学校に行こう!甘酸っぱい恋愛を見ておっさん横でわくわくするよ!」
今村がそう言うと眼鏡モンスターが今村とこの世界の神を囲んで逞しい筋肉に連なる分厚い手で拍手してくれた。
「……ま、まぁ、いいんじゃない?えっと、一応俺の方で書類は書いておきますね編入テストは……まぁ心配無用でしょうけど。」
「まぁその辺はどうでもいいや。テストの日取りが決まったら教えて。あ、後最近人間領で変わったことってある?」
今村の問いにこの世界の神は首を傾げて少し考えた。
「……まぁ特に文明も滅んでませんよ。多少この世界に入れた異世界の人間の中に変革に成功した人が数%いるくらいで。あ、後魔王が倒されました。」
「ふーん。ま、どうでもいいな。あ、学校についてちょっと言っておくことがあるんだが、国の何か怠いのがあるのは却下な。中立もしくは独立組織にして。」
「はいよ。」
この世界の神が去った後、今村は【古の黒魔蟲】の件はどうしようかな?と考えながらそう言えば彼はキモい蟲が居たという理由で星一つ消し飛ばしたしあんまり迷惑かけない方がいいかと量産は止めておくことにした。
今村が【古の黒魔蟲】さん(改悪)をこの世界にはダンジョンの16万7千匹で止めておこうと決めていた時、人類国家では歴史的な功績を治めた人物が表彰されていた。
「ソフィア・フェンデ・ガダルナンド。汝は魔人との争いを治め、人類の地位向上へ多大なる貢献をしたことによりここに名誉伯爵に封ずる。ついては恩賞として他の権利を有するが……」
厳かな口調で宣誓した後、色素の薄い金髪の美少女を前に人類国家の盟主であるイスカディアル王が彼女が連れたパーティメンバーの中にいる彼の息子を見ながら次の文を口ごもる。
それに対して一歩も引く様子を見せない堂々とした様子で彼女は答えた。
「恩賞はサラスティア・フェンデ・ガダルナンド男爵夫人へ、我が母上が望まれるものをお願いします。」
王宮がほんの僅かにざわめいた。欲すれば何でも望めるこの場において彼女がそれを放棄したということが彼らには信じられなかったのだ。しかし、彼らは表情を崩すことはなく。式は正しく終えることが出来た。
「ではこれより!祝賀会へと移る!皆の者、大いに歓談せよ!」
王がよく通る声でそう宣言すると会場が移動になる。そこでようやく息をついた彼女たちのパーティメンバーがソフィに話しかける。
「は~つっかれた~。にしてもソフィねぇ。アレで良いの?」
「何がか分からないけど……別に今回困ったことはないと思うよ?」
「はぁ……ソフィアさんは謙虚過ぎるよ。まぁそこがいいところだけど。」
「む……あにぃ……浮気はダメ……」
彼女の組んでいたパーティは彼女の弟、エリックと幼馴染のトーイ、それにトーイの妹のターニャ、それにこの国の王子ジオと若き天才騎士キッシェ、それと宰相の息子であり優秀な魔導師であるソウシだ。
「……それでソフィはこれからどうするんです?伯爵と言えども名誉なので領地は貰えてませんし……いっそウチに来ますか?」
「王子、お戯れはおやめください。……ですが、行き場所が決まっていないのでしたら是非、この国の為にも騎士団に……」
「あー、でもこの国の為って……ソフィだって疲れてるんだからさ、もう少し休ませてあげた方がいいと思うよ?だから休暇代わりにさ、ウチに来たら?ウチはマナが多いパワースポットあるし、観光業にも……」
「あはは……い、行くところは決まってるから気にしないで良いよ?」
国に仕える人々が己の欲を交えた発言をする中、ソフィは苦笑いをしながらそれでもはっきりと断って言った。
「……どこに行くんだ?」
ソフィの言葉を聞き、代表するかのように王子、ジオが尋ねるとソフィは少し翳りのある笑みで答える。
「この世界でまだ行ったことがない、独立国家のデオコルト学業国家。そこの学校に臨時講師として、行くことに……」
「あ、僕そこに行ってみたかったんだ~丁度良かった!」
ソフィの言葉が終わる前にエリックがそう言うと彼女の周りも学校か……と呟いて色々考え始めた。
「え?ちょ、ちょっと……皆来るつもり?」
周囲の反応を見てソフィが少し慌てるがその周囲の面々はソフィのことよりこの後どうするかについて考えていた。
「……あそこは年齢制限はないが……勉学が難しいんだよな……」
「しかも、今の時期って言ったら編入だよね……無茶苦茶難しいって。」
「今から始めれば、まぁ何とかなるかな……」
各々が話し合う中、ソフィは内心で溜息をついていた。
(おにぃに見られて……勘違いでもされたらどうしよう……嫌だって言っても聞かないし……皆落ちないかなぁ……)
「ありましたよ!デオコ……何してんですか?」
この世界の神が再び今村の下に来た時、329階が宝箱で道が出来るほどに宝箱によって埋め尽くされていた。その中から今村がひょっこり出て来て質問に答える。
「宝箱設置。一つは当たりで『ここまで来られた君の仲間たちこそ最高のお宝さ!独りで来ちゃった君には……まぁ、ドンマイ(笑)いいことあるよ!』って書いた紙が入ってる。他はカラフルな黴とか埃の詰め合わせとかが入ってる。」
「……当たりが見当たらないんですけど……」
この世界の神が呆れ混じりの声で言うと今村は宝箱を飛び越えて彼の近くに降り立つ。
「当たり?……あぁ、あそこにある奴は開けると内部に仕掛けてある即効性の睡眠魔術と遅効性の回復魔術が掛けられている矢が飛んでくる。んで『大当たり』と結構耳障りな口調のスピーカーを内蔵してるぞ?一見すると死んだかのように見えるが目覚めると体の調子が良くなってるという匠の……で?」
「……デオコルト学園が君の望む条件満たしてる学園だよって言いに来たんですけど……」
「お、そう。んじゃ行こうか。」
こうして各階を視聴できる今村以外の誰もが何も得られないカオスダンジョンから今村は出て行った。
ここまでありがとうございました!




