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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十一章〜気分転換で〜
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8.家出しましょう

 弟が生まれてガダルナンド家は賑やかになりました。妹様も弟君に付きっきりでお世話をしており、家族みんなの目は弟さんに向いています。


 ということで。


「家出しますっと。……ん~これじゃ文面が足りんな~短い文で十分だが何かインパクトに欠ける……」


 今村は置手紙をしたためていた。旅に出るとだけ書いたのだが文面が足りない気もするしかといって畏まる文でもないので少し考える。


「『探さないでください。』だと相手が何も言わなければ探すの前提の書き方だし気に入らないな……んじゃぁ……『探す気はないでしょうがもし探したとしても無駄だ。』これにしよう。」


 それでも文末が寂しいので文末にあばよグッピーと付け足したところで満足して頷き、養育費代わりにこの世界の価値がある鉱物、【マリュスタン】を多めにおいて立ち上がった。


「……寂しい熱帯魚はこの世界じゃ誰にもわからんか。いや、カレー強請りの子は分かるかもしれんが……まぁいいや。」


 荷物は特になし。この世界は何気に様々な材料に恵まれている実験材料の宝庫なので多少心を躍らせながら部屋の外に出ると何故か父、母、妹がすでにそこにいて囲まれていた。


「?どうしたんですかね?」

「……今度は何をするつもりだ?ヒトシ。」

「人の迷惑になるようなことはしませんよ。」


 名前すら覚えていない好青年の父親さんの厳しい目をひらひら手を振りながら軽く躱すと母親さんの方が困った顔をして口を出した。


「……ソフィちゃんがね~?とても不安って言ってたの~……」

「基本的にいつも不安がってるでしょうに。……それで、何でここに揃ってるんですか?エリックが独りじゃ可哀想ですよ?早く戻ってあげたらどうですか?」

「おにぃも行く?行くならソフィも行く。」

「俺は嫌われてるっぽいし、行かない。」


 会話の最中にも今村とソフィの無意識が戦っている。こうなるのであれば侵入者避けの封印術式を面倒ながらも一時的に解除して部屋の中で瞬間移動すればよかったと思いながらも移動方陣を瞬間的に書き上げようと試みる。


「エリーちゃんはひとちゃんのこと嫌いじゃないのよ~?人見知りなだけだから大丈夫よ~?」

「……いや~……」


 今村は何かだんだん面倒になって来てこの体でも何か『ドレインキューブ』的なことは出来ないか考えて、ソフィが何かに勘付いた。


「おにぃ……」

「おっと。」


 ソフィが今村に少し近づくとその分今村が下がって部屋の中に戻る。ソフィが非常に傷ついた顔をするが今村はその隙にとばかりに部屋の中に勢いよく入って扉の上に張り付いた。


「消えた!?」

「!?ひとちゃん!?どこ!?」

「お……おにぃ!?いた!」

「見つけんの早すぎだろ畜生が。」


 ソフィの発見の声で全員が今村を発見する。その中で好青年さんが【マリュスタン】の山と置手紙を見て険しい顔を向ける。


「ヒトシ?お前、この家から出るつもりか。」

「そうですよ~?正当なガダルナンド家の嫡男様がお生まれになったんだから外部の血は出てけと。」

「!?誰がそんなことを言ったんだ!?」


 誰も言ってはいない。好青年さんの父親が思っただけだ。それを今村が適度に解釈を変えて発言した。


「あと、色々派閥が生まれるからいない方がいい子だって。別に家督争いとかする気はないですけど。不要な争い事はアレなので。」


 今村の言葉に好青年さんの方は沈痛な顔をした。それに対して母親さんの方は自分を責めながら何とか言葉を紡ぐ。


「いらない子じゃないわ。私の、大事な息子よ……?変なことは止めて、降りていらっしゃい?」

「変なことじゃないんだけど?ガダルナンドのお家にとってはとっても大事だよ?僕がいなくならないと年功主義と血統主義が対立するんだって。」

「………………でも、それはまだ……」

「悪い芽は早い内に摘んでないと。家の中に派閥が出来てからだと遅いよ?」


 母親さんの方も今村が言っていることは理解できるので泣きそうになりながらそれでもと口を出そうとして好青年さんの方が口を開いた。


「……家を出るなら、少なくとも俺より強くなってからにしろ。貴族街は治安がいいが、成人していないお前が家から出るなら貴族街から出ることになる。そこだと子どもは生きていられない。」


 今村は言質を取ったとばかりに好青年に向かってにっこり笑って言った。


「わかった。」

「あ、だ……ダメ……パパ……おにぃ……待って……」


 ずっと陣を発動するのを止めていたソフィが今村の展開スピードに息切れを起こしながら父親さんを止めるが、今村は止まらない。黒扇子を持ち直すと悠然と構えた。


「……今からやるつもりなのか?確かにお前はその歳にしちゃ恐ろしい才能を持っているが流石に……」

「……まぁ、今の強さを知っておかないとね。」


 無論、嘘である。この一回で勝つ気満々で臨んでいる。だがこの嘘に騙された父親さんは怪我をさせるかもしれないということを危惧しながら精霊武器と呼ばれるものを召喚して個人用結界を張った。


「じゃあ、行くぞ?」

「うん。」


 二人が言葉を瞬間、今村の口の端が吊り上ると同時にソフィが契約精霊ごと父親を沈めた。


「な……?」

「はぁ?ソフィ、何でお前邪魔して……」


 母親さんが何が起きたか分からないと声を漏らす中で今村はソフィに抗議を入れる。しかし、ソフィは声すら出せずに蹲っている父親に向かって言い放った。


「パパ、おにぃはソフィより強いよ……?だから、それじゃ、ダメ……」

「……な、……に?」


 今村は更に抗議を入れようと思ったところでソフィの気が逸れていることに気付いて即行で陣を組んだ。発動までのその瞬間に気付いたソフィが思いっきり振り向いて今村の方に急いで迫り、陣のキャンセルに尽力し始める。


「じゃ、わっぷ。」

「行かないで!ママ何でもして上げるから!ひとちゃんのこと何にも知らないで大丈夫と思ってたママ失格なママだけど……」


 そこで色々思い出したのであろう母親、ティアが泣きながらどこにも行かせないと強く抱きしめながら謝る。


「ごめんねぇ……何もしてあげられない、駄目なママで、何もわかってあげられないママで……もっと、頑張るから……ひとちゃんが安心できるママになれるよう頑張るから……だから……」

「行かな……ひぐっ……やだよぉ……何でソフィがぁ……神様のバカァ……いつもお祈りしてるのにぃ……」


 二人に止められている今村だが彼は人の話を聞く余裕がない。このままの状態で陣が発動すれば目の前の二人は陣から出ている分だけ残して転移して大惨事を引き起こす。その為色々調節しているのだ。


 無言の今村に二人が泣きながら縋るが、陣の調整が終わると今村が透け始めて触れている場所に感覚がなくなり、抱き締めていた手がすり抜ける。


 空ぶった手を見てティアはもう手遅れだと悟り堪えきれずに号泣し始め、ソフィも耐えかねてわんわん泣く。


 今村は『居なくなるってなったら必死ですね~』とか冗談でも言える雰囲気じゃないなぁ……とかそんなことを考えながら人口密度の低い魔人領地に向けて大き目のダンジョンを創るために消えて行った。





 ここまでありがとうございました。

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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