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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十一章〜気分転換で〜
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6.双子

 今村は5歳児レベルになってようやくまともに喋ることが可能になった。妹様は相変わらずべったりでトイレにすらついて来ようとする。それを受けて今村はトイレをしないので入って来られると結構不味いと拒絶するとトイレの前でソフィは待機するのだ。


「……ソフィはもうちょっと大人になろうな?」

「それってどういうこと~?」

「俺から離れて自立しようなってこと。」

「やー」


 今村も今村で面白がって魔術だけでなく魔法まで覚えさせ、流石に刀剣術までは教えなかったが短剣術は教え、その間ずっと付きっきりだったのでソフィはその現状に甘えまくっていた。


「何で?」

「おにぃどっか行っちゃいそうだもん。だからやー」


 そろそろ本格的に家出したいお年頃なんだが……と生後1年の今村は割と真面目に思った。因みにこの世界での一般的な1歳児はようやく走ることを覚えたりするようなお年頃だ。


「つってもなぁ……俺はそろそろ……」

「やー!」


 今村は今村の方で思うところがあるのだ。例えば母親さんが再婚相手候補らしき人物を連れて帰ってきている辺り。非常に居心地が悪い。頭の中はまだ幼いソフィはまだその辺のことを分かってないようだし、この家族の中にいてもいいだろうが今村的に自分は出て行った方がいいと思う。


「何でおにぃはどっか行くの?ソフィずっと一緒がいい!」

「俺は嫌。はいはい泣かない泣かない。」


 目に涙を溜めてしゃくりあげ始める妹様を宥めながら今村は母親さんの再婚が決定すると同時に家出を決行することにして機を窺うことにした。











「ひとちゃん、ソフィちゃん。パパが帰って来てくれましたよ~」


(時は来たれり!後は1週間後の気象を嵐に変えてっと……んじゃまぁ色男さんは頑張ってね~この人たち良い人っぽいから俺がいなくなったら落ち込む可能性が非常に高いけど、まぁ嬉しい事と相殺すれば何とかなると思うから。)


 しばらくして、銀髪の好青年の隣で初々しい反応を示す母親さんからそんな発言があった。その際に彼は何か名乗ったり色々していたが今村は気にせずに決行日時を決定する。

 その際の準備に指先に魔力を微量に集めたのだがその微かな魔力にソフィが反応して訝しげな顔をして今村の方を見た。


「……おにぃ?」

「ん?何だ?良かったなぁソフィ。お父さんが帰って来たんだって。」

「ハハハ。ヒトシ~?他人事みたいにしてるけど俺はお前のお父さんでもあるんだぞ?」

「ハハハ。」


(んなわきゃあるか。俺を殺そうとしたこの世界の父親さんは別人だ。)


 そんな感じで談笑しているとソフィからの視線も逸れて母親さんが今村とソフィを抱き寄せてから優しげに言う。


「お父さんが帰って来たから、ママはずっと、二人と一緒で家に……」


 母親さんは台詞を最後まで言うことが出来ずに泣き始め、好青年さんが複雑な同情や様々な感情が混じった目を向け、ソフィに慰められる。


「ごめんね……ずっと寂しい思いさせてきて……でも、これからは……一緒だからね……」

「ママ……」

「ティア……」


 何か感動的な雰囲気だなぁと思いながら今村は術式を起動させようと頑張るのだがどこからか妨害を受ける。


(……何で邪魔するんだ?ソフィは。)


 今村はすぐに妨害源を特定するが、彼女の意識はこちらに向いていない。つまり無意識でやってのけているということらしい。今村はそれを知って本当に凄い奴だなと思いつつ、術式を完成させ仕込みを終えた。


(まぁその程度じゃまだまだ俺を止めるまで行ってないから残念!いい子に育つと良いと思うよ!使わなけりゃ薄れて普通の人として生きていけるだろうから!それじゃ!)


 愛情あふれる過程で今村は独り蚊帳の外でその光景を見守り、その日は家族全員でベッドに入った。














 その日は朝から雨が降っており、風が強く吹いていた。空模様は暗く、どんよりとした冷たい空気はこれからの天候が悪化していくであろうことを雄弁に語っていた。


「ひとちゃん。ソフィちゃん。今日は嵐が来るからお外に出るのは止めにしましょうね~?」

「ん。」


 今村は短くそう答え、母親さんは続くソフィの言葉を待ったがソフィはそわそわとしており落ち着きがない。


「ソフィちゃん、どうしたのかしら~?」

「何か、や……今日は、いやな日……」


(……まぁこの術式の元はサンダーストームだしな。この世界の最上級儀式都市攻略魔術だし……不安にもなるだろ。)


 今村はソフィの不安な顔を見ながらそう思いつつこの年齢であればこの武器だなと思って腰に挿してある扇子を撫でる。


(さて、楽しみだなぁ。ソフィは結構面白い子だったが……まぁそれより色々見て回った方が面白いだろ。何しよっかなぁ?この世界じゃ人間族が他種族に対して劣等だからその地位の逆転にでも乗り出すか?……いや、それはあんまり面白くないな。最近はダンジョンにおける嫌がらせ及び進化の可能性に対する思いが再燃しつつあるからそっちにしよっかなぁ?)


 どちらも目星は付けている。今村は実行前の一番楽しい時期を過ごしながら笑顔を浮かべていた。


「おにぃ……ソフィのおててぎゅってして……」

「ん?いいよ?」


 風が唸り声を上げる中部屋の中に戻ると母親さんが家の用事のために少し座を外して二人きりになるとソフィは今村にそうお願いした。


「だいじょうぶだよね?」


 不意に、ソフィは今村にそう尋ねた。とても心配そうな顔をして今村を見ているその顔は何かに非常に怯えている。そんなソフィに今村は明るく返した。


「大丈夫だよ。」

「この風、おにぃ連れて行ったりしないよね?ソフィたち離れ離れにならないよね?」


 不意打ちに今村の顔が一瞬強張った。自分の体であればそんな失態は犯さなかっただろうがこの体では素直にそれが出てしまう。

 ソフィが何を考えているのか分からないがわけのわからないことに何かしらのことを感じ取っているようなのだ。驚かないということはできなかった。


 しかも性質が悪いことに今村の顔が一瞬強張ったのを見てソフィの顔も固まって泣き始めた。そして泣き声を聞きつけ母親、それにメイドまで駆けつける。


「ソフィ?嵐が怖いの?」

「ソフィ様。大丈夫ですよ?セレスが付いてます。」

「おにぃが!おにぃがいなくなっちゃう!おにぃがぁぁあ~」

「大丈夫よ~お兄ちゃんはここにいるわよ?」

「あらしがおにぃを連れてくの~!いや~!」


 今村は内心で舌打ちを禁じえなかった。なるべく穏便に事を済ませたかったのだがソフィを安心させるために今村は今日、ソフィと母親の間で寝ることになったのだ。つまり今日の決行は強行でなければ無理となる。


(……まぁいい。まだ、許容範囲内だ。まだ1年少ししか経ってないしそれなりにまだここで楽しめる術は持ってる。機会費用的にぎりぎりだが損ではないし、まだここにいてもいいか。)


 今村が諦めた途端、ソフィはまた何かを感じ取ったのか大人しくなった。しかし約束は約束らしくその晩今村は川の字で寝ることを義務付けられることになった。




 ここまでありがとうございました!

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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