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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十一章〜気分転換で〜
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5.天才

 俺は今走っている。やばい、超楽しい。何の意味もないけど意味わかんないけど楽しい。子どもって楽しいなぁ……


「アハハハハハハハ~」

「ま、待ってぇ~……」

「ハハハハハハハハハハ!『ヴォイスボム』!」


 今村の文字通りの暴走により土が抉れ、高笑いに伴う炸裂音で鳥が死んで落下して来た。


「にぃに、にぃに!」

「にゃん?……ちぃそぅ……」


 あ゛ぁん?と言うことすらままならなく、畜生とも言えない幼児の体だが意味もないことで楽しめるので相殺とする。


 それはともかく今村は呼ばれた方を振り向く。そこにはようやく追いつけた母親さんと妹さんがいた。


 因みに母親さんはもの凄い美少女だった。簡単に言えば祓級だ。金髪に女神張りのスタイルとフェイスを誇っている美少女様は現在、呼吸を整えるのに忙しそうにしているがそれすら周囲の注目を集める。


 妹さんの方は愛らしい幼女になっている。何度か誘拐されかかったほどの愛くるしさを誇るソフィさんだが、どれも安眠妨害で機嫌を悪くした今村によって救われた。


「……にぃに、いた~!ぅぁう!」


 呼び止められて地面の修復を行っている間にソフィさんは今村に追いついて押し倒そうとしてくる。今村は幼女様の身体能力に内心舌を巻きながらそれを受け止めた。


(現在、身体能力で言えばまぁ3歳児前後。立っておくのは不安定で逆に進んだ方が安定する時期だが……いや、俺魔力使って走ってるがこいつスゲェな。)


 ソフィさんは母親さんがいない間に今村が育てたのだがその間の今村の動きを見ていたのだろう。別に教えたわけでもないのに神業レベルの魔力操作ができるようになっていた。


「はぁ…はぁ……おかしいわね~……?私もそれなりに動けるのだけど……」

「きゃーっ♡」

「やめ、おぷ……」


 妹さんは今村を押し倒そうと攻防をしている間に興奮して来たのかわからないが何故か口をくっつかせにかかる。涎まみれの口がくっつき真面目に嫌で逃げるが少し遅く口に涎が付いた。


「にゃろー……『ぃしゅありゅ……ちぃしょ!」


 詠唱が出来ない我が身が恨めしい。しかもこの恐るべき幼女様は思念魔術レベルであれば見てすぐに覚えるのだ。体術でいなすしかない。


「うふふ~仲良しさんね~」

「うん!」


 その母娘のやり取りをはた目から見てイライラしたので今村は今晩家出を決行することに決めた。





「……なじぇだ?」

「?きょーは、いっしょ。」


 だが、何故かその日に限って妹様がくっついて離れない。寝入ったなと完全に判断できるラインでの睡眠でも何故か離れると起きる。


『お前は誰だ?』


 今村が術をかけてもソフィに別段異常は見られない。いや、少し見られると言えば見られるとも言えるが、憑依の類ではない。


「ソフィは、にぃにのいもーとです。1ヶ月です。がんばるのです。」


(……ダメだ。何だこいつ。)


 この歳の子どもであればまぁ自分が何者かなど分かっておらず、これだけ癒えた辺りソフィは凄い子だと言える。ただ、異常なまでにブラコンだ。


「なんれ?」


 今村は最近座ったばかりの首を傾げる。少し前までその頭の重さでひっくり返りそうになるが気合で座っていたのを思い出すがそれは置いといて目の前の子をじっと見る。


「……?…♡」


 今村の視線を真っ向から受け止めた妹様はにっこり笑って今村を見返す。この笑顔で家の周辺住民の何十人かをロリコン道へと落とし込み、そしてその中の何人かを牢獄へと繋いだものだ。


(……能力面に関しては純粋に天才なんかもなぁ……まぁだからって俺への感情が行き過ぎな点はおかしいんだが……いや、天才ってのはおかしいやつばっかりだからそう言う意味では正しいのかもしれんが……)


「きゃぁ~っ!」

「ぐぅっ!ちありゃつよい、ばきゃあ!」

「ぁぅ……ごめんなしゃぁ……」


 己の体の一部にでもしようかと思っているかのような力の込めようで今村を抱き締める幼女様。因みにこの時点で母親の力は越しているように思われる。すぐさま反省はするのだが今村的には罵声すら浴びせられない滑舌の方がショックだ。

 その様子を見ていたソフィは心配そうに今村に確認する。


「にぃに……だいじょう?」

「じぇんじぇん!」


 普通の子どもであれば首が折れて死んでいる。流石の今村でもこの体は自分の体ではないのでソフィさんの攻撃は致死しかねない一撃だ。

 尤も、回復させているので死にはしないがそれでも気分がいい物ではないので不機嫌になる。そんな不機嫌な様子を見てソフィはいつもと違って不味いことをしたことに気付いたらしく一気に悪いことをしたという顔になって謝って来た。


「ごめんぇ……?」

「いや!」


 謝って死人が生き返るなら許すが、そんな世界はかなりごく少数だ。この世界は普通に死ぬ。そしてそんなことをしたのに謝るだけで済んでしまっては警察は要らない。今村は謝罪を突っぱねた。それを見てソフィはまず一番気になることを尋ねる。


「そふぃ、きらいになった……?」

「だいっきらい!」


 既に涙目のソフィに対してお望みの言葉を吐いてやるとソフィは息をしゃくり始めてそれでも健気にも泣くのを堪えて謝る。


「ふぇ……ごめなしゃ……ごめなしゃ……ごめなしゃぃ……」

「いや!」

「ごめなしゃいぃぃぃいい!」


(だから掴むなやこの!俺がガキに甘いからってあんまふざけた真似してっとぼてくりこかすぞタコが!)


「行かないれぇ!やらぁあぁぁ!」

「どうしたの!?」


 今村がソフィにがくがくされ過ぎてこの体からおさらばして元の体に戻る前に騒ぎを聞きつけた母親さんが扉を破りかねない勢いで入って来る。

 そして泣き叫んでいるソフィさんを抱きかかえようとしてソフィさんが放さない今村まで吊り上げた。


「ソフィは怖い夢見たの?」

「にぃにがおこりゅ~!にぃにそふぃきらいって!にぃにが~!」

「あらあら……そんなことないわよ~?にぃにはソフィのこと嫌いじゃないわよ~大丈夫よ~?」

「……にぃに…」

「だいっきらいだが、にゃにか?ちぃしょう!」


 滑舌の悪さに絶望する今村。いっそ魔力で全部弄ってやろうかと思うレベルの出来事だが自然な発達には妨げになるので今だけだと落ち着かせる。隣では母親の言葉を信じかけて見事に打ち砕かれた幼女様がわんわん泣いていた。


「うぅるしゃぁあぁっ!」

「どうしましょ……えぇと、何があったのかしら~?」

「しらない!ソフィうるさい!」


 最初の絶叫の後は割と普通に言えたので少し満足気な今村。ソフィは今村の様子が少し和やかになったのを肌で感じてこれ以上嫌がることしたらいけないとばかりに頑張って泣き止んだ。


「ひくっ……ぇぅ……ごめぇなしゃぁ……」

「これ、れきたあ(出来たら)ゆう()してやう。」


 自分の顔をビンタしたい衝動に駆られるがそれは置いといて、ソフィの目の前に魔法術式の模写を出して母親をぎょっとさせる。


「ひ、ひとちゃんはどこでそれを……?」


(お手製だよ。まぁ起動できない様に設定してあるからどうやっても……ってうっそ!マジか!?)


「れきたよ!」


 今村の目の前でソフィは空間に直に文様を描き、そしてわざと狂わせておいた部分を綺麗に書き換えて本来想定してあった術式を創り上げた。


(……やべぇ、マジ天才見つけたわ。唯意味もなく楽しめば良かったとも言えたんだが……ちょっと面白くなって来たじゃねぇか。)


「にぃに?」


 今村はこれだから突発的な行動は止められないと思いながら家出の予定を中止することにした。




 ここまでありがとうございます!

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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