表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十一章〜気分転換で〜
383/644

3.思い通りにいかないらしい

(……さて、始めますか。)


 全身が暖かい水の中にいるのを確認した今村はまず体液を変換してドルミールという独自の強力な麻酔薬を生み出した。


 すると母体の呼吸が安定し、今村を押し出す力が弱まる。それを確認した今村は母体の魔力を変換して壁を切り裂き、瞬時に魔力の流れに乗って外に出る。


「ごぼっ!げほっ!ぉえっ!がはっ!はぁ……はぁ…あーしゅかへぁ。」


 周囲の目が点になっている中、今世の今村が初めて喋った言葉は「あー疲れた」で、最初に取った行動は魔力による戻し切りと自分でへその緒を斬り、魔力で捜査して結ぶことだった。

 彼はぼやけてほぼ何も映さない自分の目の代わりに魔眼を使用して母親の傷跡がないのを確認し、ついでにこのままでは少し母体の栄養バランスがよろしくないと見えたので「素氣」を流して他が問題はないことを確認すると麻酔を解除して周囲の記憶を改竄し、用意されている湯船に入ってさも今生まれましたよ感を出す。


 が、母体が再び苦しみ始めたことで無事に出産を終えたという意識になっていたこの場に緊張が戻る。今村も自分のスペックを確認してある事実に行き当たる。


(双子か。俺が宿った9割死んでた体と周りの様子を見た感じもう一人は未熟児で周囲は魔術で生命判断して生命力の大きさ的に大き目の一人の子どもだと思ってたんだろ。悪いけど俺今日はもう動けないから出産頑張れ。)


 精神が今村でも体は赤子。魔力で周囲の様子を探ることでしか周囲の様子を知ることが出来ず、その体は既に相当なエネルギーを使っているので非常に眠い。


(……まぁ、肉体が精神に汚染されるまで3ヶ月かな。流石に身体能力に関しては無理だが魔術系統は慣れるだろ。母親さん、苦しそうだが頑張れ。)


 聴覚も鈍く何を言っているのか分からないが苦しそうだと言う感情は伝わってくるので真面目に応援はしておく。そして今村が微睡んでいると赤子が生まれたことを示す鳴き声が響き渡り、今村の意識は途絶えた。



















 次に今村が意識を取り戻したときには眼前に男が2人おり、何やら喚いているのを知覚した。そして内容を把握すると今村は内心で口の端を吊り上げる。


(いや……凄いなぁ流石俺と言うべきか……素晴らしいね。この時点で親に殺されかけられますか。いいねぇ……)


 どうやらこの世界のこの国、この時点の風習では双子の子どもはどちらかが悪魔の介入により生み出された子であり常ならざる生まれをした不吉な物として扱われるらしく、処分される予定らしい。

 因みにこの際、神より遣わされた我が子を手に掛ける罪は悪魔を打払う功によって相殺されるのが慣習らしい。


「あぁ神よ!何故私にそのような辛い仕打ちを……我が子を手に掛けろと言うのですか!」


(言ってない言ってない。)


 どうやら父親らしい男が己の不幸を叫んでおり、更にその親が諭している図らしいが今村はそれを心中で笑いながら同時にどうするか考える。因みに今村の後に生まれたのはどうやら妹らしい。


(ん~このままじゃ両方処分の流れだが精神介入でもするかな~それともあいつのことだしテンプレ入れて俺を逃がすのだろうか?今回は何のパターンかね?後何気に良い剣持ってんじゃねぇか。)


 父親は祖父に促されて剣に手をかけ、今村と妹さんの方に近付いて来る。そしてその後の一歩が踏み出せずに泣いているようだ。


(いや~泣きたいのは普通こっちの方じゃね?許してくれとか言われても殺されたなら誰でも一応恨むと思うよ?てか誰も介入してこないな……自力でどうにかするイベントかな?流石に肉体変化は出来ないから表皮1ミリ時点でリフレクトしますんで。)


「お待ちください旦那様。その剣はティベリウス家の秘宝。幼子を斬られたとありましては剣に宿られるご先祖様方に申し訳がないでしょう。この子らは私めにお任せ下されば……」


 父親が剣を抜き、目を伏せた時点で年配の助産師から介入が入った。それを受けて今村は幻覚の魔術式を閉じる。


 父親の様子を見た祖父が小さく目の届かないところでな。と呟くと助産師による処分の許可が下り、今村を乗せた台は移動した。


(お~……どういう流れになるかな?あいつの好きなパターンじゃ多分俺は若い女に育てられると思うんだが……まぁ俺らから見ればこの助産師も若いっつーカテゴリと言えばそうなんだが…うん。つーか、これなら別に出産要らなくね?ただ不幸な人間増やしただけじゃん。)


 運ばれる台の上で今村はそんなことを思った。










「あ~何で、かね?何で彼はこう僕の斜め上しか行かないのかなぁ?精神力がおかしいって。肉体に精神引っ張られようよそこは、素直に!何が全盛期の10分の1だからって油断せずにもう少し待てばよかった……」


 天の上では今村を送り出した神が地上の様子を見て頭をガシガシしていた。彼の筋書きでは双子を出産した令嬢が一人で頑張って子育てをしている姿を見せるつもりだった。


 彼女の、神の介入なしの人生では双子を出産し、助産師の介入までは同じとなっている。

 しかしそこから子どもを隠れて引き取り、家を出てからはおそらく現在と違うストーリーになる予定だった。元々は一人暮らしを始めた所で今村が宿った方の子どもは母親が働いている間に夭逝し、そこから子どもの面倒はずっと看なければならないと身を以て知り、常に娘と一緒に行動をする中で娘が貴族の娘と仲良くなって地元貴族の後宮入りという流れになるはずだった。


「……苦労して、彼女なりに無償の愛を注いでるのを実感すれば少しは変わるかと思って……あぁもう……彼ならあの状況を見て母親の第一印象を見殺し犯とでも見做すだろうね……ってか、出産、してもらえよ。何で自力で出てアフターケアまでしてんのさ……あーあーあー……もう何でだろうね。色々なんでだろうね?もうわけわかんない。上手く行かないなぁ……」


 今村の意識にはある程度母親の育児が軌道に乗ったところで戻って欲しかった。それで後から周囲の話を聞いて自分の状況を読み取る能力を行使してもらい愛の存在を感じてほしかったのだ。


「あーこの時点で起きられたらもう打つ手ないし。子育てとかさせないだろうねこりゃ。あーもう僕的に意味ない。早く中で15年経って出て来ないかなぁ~凄いタイミングで珍しい程の美少女ママがいたのに本当に意味ない。」


 神はもう見るのを止め、別の世界から適当な人間を捕まえて遊ぶことに決めた。





 ここまでありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
よろしければお願いします
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ