2.気分転換に転生
丁度1年です。ありがとうございます。
今村がまともな状態で起きたのは翌日の昼時だった。眼前にはクロノの可愛らしい寝顔があり今村はそんなクロノを見て何があったのか思い出すのにしばし時間を要する。
そして全部思い出した時点で周囲を感知し、状況を把握して幸せそうな彼女たちを見てやってしまった感などが綯い交ぜになり感情の制御をし損なって口の端が吊り上るのを自覚して押し留める。
(…………殺……いや、それは流石にアレだな……それにこれ回収されたら原神様方の力がおイカレになりやがるし……ほとぼりが冷めるまで逃げるかね……)
昨日、夕暮れ時に起きた今村は毒日の状態で思考能力が下がっており彼女たちが望むように甘やかしまくったのだ。それも自らが知る限りの相手が心地よく感じる技術を駆使して。
あの時は喜ぶし、別に手間と言うわけではないからいいよ~位の感覚だが素面に返って「恋愛視」を使うのが恐ろしいことになっていた。
というより、「恋愛視」など使わなくても変な氣が漂っているのを感知して今村は背筋がぞわっとした。
(……愛氣……ひっさし振りに見たな……最後に見たのは……美神どもの中の女神様のお供たち以来か……?いや、そんなことよりアレだな……真面目にしばらく離れてないとこいつらが全員揃って俺に対する恋愛特化の女神に進格したりでもすれば……うわぁ……)
今の状態であればまだここにいる面々は弱いので原神が感知できるレベルの存在ではなく、彼女たちが真っ当に進格しても最短で100年以上はかかるだろう。不死性を能力値に変換している今村はその間におそらく死んでいるので問題ない。
しかし、自分に対しての特化性を持った恋愛神となれば少し話が変わってくる。
原神の目に留まる最低ラインに入る。全力で包囲される。愛氣が一緒にいる間は増え、原神はそれを糧にして強化される。強化されて逃げられなくなる。しばらくして今村の死の予兆が見られる。契約違反と見做される。飼い殺し。
「……嫌だな。普通に嫌だ。俺は自由に生きて死にたい。俺に嫌がらせしたいならもっと明確に敵対してくれればいいのに……」
今村には他の神々と同様な漫然とした生を歩むという思考があまりない。彼は目標達成のためだけに生きており、それが終わると同時に消滅する所までが彼の生となっている。
そして、目下の目標は―――
「逃げるか。うん。ちょっとこの世界に機材の搬入し過ぎたし既に研究始まってるから研究拠点は移せないけど……まぁある程度離れても大丈夫だろ。うん。」
―――逃げることだった。そして追いかけられると面倒なので書置きを残しておくことにする。
(……騙すか。ちゃんとお留守番出来たらご褒美あげますと書いておいて帰ってきたら忘れてたことにしよう。もしくはゴミでもあげるか。昨日のを勝手に想像してご褒美とか思うんだろうし。……さて、次は動機だな。まぁ……最近何か殺されたり幼児化したり毒日だったり良い事ないし何か気晴らししたいとか言えば適当に騙されるかな。)
そう決めたとなると次に決めるのは行く場所だ。
「な~んか面白いところないかなぁ……久し振りに第1世界にでも行くかぁ?ん、そうだな……」
脳裏に甘く、理性が蕩けるような声が聞えた気がするが気のせいと言うことにして行く場所を考える。
(リア充撲滅委員会かなぁ……ん~でもそんな気分じゃないよな……一回死んだし転生ごっこでもするか?よし、それに決めた。んじゃ【魔神皇帝】の所にでも行こう。)
今村は適当に札を出してこの場全員が目を覚ますとその眼前に飛び、読了後爆発する仕掛けを作るとお出掛けを決定し、『ワープホール』を形成した。
「ふざけんな!生き返らせろこのダメ神!」
魂が何か叫んでいるのが聞える場所に今村は飛んだ。そこには怠そうな顔をした男が空中でモノを生み出して食べながら何か操作していた。
「よぉ。」
「……ん?……お!おぉ~!【魔神大帝】様じゃぁありませんか!」
「何してんの?」
男がいきなり目を輝かせて姿勢よく立つと今村は何をしていたのか尋ねた。すると男は操作していた何かの先を指さす。
「ん~まぁ、暇つぶしに世界転生をしてたんですけど……まぁあなた来たしアレはどうでもいいですね。」
彼がそう呟くとその魂は跡形もなく消え去った。
「そんなことより!どうしたんです!?また転生します!?いや、してくださいお願いします!」
男はそう言って見事な土下座を決め込んだ。
「いいよ。ただし、もう姉がいる家庭はマジで嫌だ。」
「え~アリスちゃんでしたっけ?可愛いじゃないですか~精一杯お姉さんぶって頑張ってた姿とか萌えないですか~?あ、ごめんなさい。えーと転生ですね?」
今村が攻撃のモーションを見せると男はすぐに検索を始めた。それを見ながら今村は先程の消えた魂について尋ねる。
「お前ダメ神とか言われてたけど?」
「ん~……あ、さっきのアレですか?ブラック企業をリストラされた直後にグアーギーに撥ねられて死んだおっさんですよ?何か自分の生きてた間の運がなかったのを自分の所為でも会社の所為でもなく俺の所為にしてたんで会話スキップしてた所です。虫けらの言葉なんて聞く価値無いんで。あ、ここいいかも。」
「どれ?……ん~俺なのに母親がいるとかあんまり考えられんな……」
「……確か今世のあなた様は……」
「あの時は俺の記憶がない単なる人間だったからいいんだよ。それにどっちにしろ物心つくころにはネグレクト受けてたし。」
今村は楽しそうだが男の方は何でこの人こんなに大事な所で極端に愛情を貰えないんだろうと思った。
(……よし、ちょっと黙ってこの人は母性愛溢れる人の所に行ってもらおう。子ども時に無条件の愛情を注がれたら流石に多少心に信じるという選択肢が生まれるはず。いい加減この人結婚させないと。マジで方々からの圧迫感が凄いし。)
彼はそう決めて今村の旅のコンセプトを信じる心を芽生えさせると決定。その為にはまず経済面で問題のない世界。本人が退屈を嫌うのである程度危険な世界で魔力などが豊富。その他色々な条件を配慮して該当家庭を2つ決めた。
「お前がすることは神を恨むとかそんな大それた真似じゃねぇだろゴミ虫?しかるべき手続きを行って会社に対しての反逆だろうが?あ゛ぁん?何で会社を神より怖がってんだこのボンクラ。心ぐらい読めるに決まってんだろ禿。あ?何反抗心持ってんだこの虫けらにも劣る存在の癖に。だからビビんなっつってんだろ腐れ。威圧しないでくれだぁ?した覚えねぇし、お前何様だ?いつから俺に命令できる立場になったと錯覚してんだ?魂喰蟲もっと欲しいのか?泣くくらいなら反抗するな。」
「……おーい。決まりましたよ~?」
探している間暇だったらしい今村はさっきの人を復活させて遊んでいた。声をかけると了承の意を示して締めに入る。
「……こんだけ言っとけば、帰ってからも戦えるだろ。何か威圧的なやつがいたら俺と対比してみろ。何もしないでおめおめと死んだら今度は意識的に威圧してやるからな?既に免職になってんだから会社にどう思われようとお前には関係ない。金ぶんどったら違う場所に行け。お前が思っている以上にお前の世界は広いし世界はお前が思っている以上にお前に無関心だ。「ごめん、ちょっと切らせてもらいますね?」」
先程のブラックリストラ男は現世に返された。今村はあともう少しで話が終わるのに切られて若干不機嫌になる。
「あ、本当にすみませんって!でももうすぐ生まれるんですよ!陣痛始まってるんですって!」
「そうか。じゃあ仕方ない。出産って痛いしキツいからな~マジで。産む方もアホみたいに痛いのに生まれる方も頭やべぇ位にねじらないといけないしな。準備あるしさっさと行くか。」
そう言って今村はこの世界を後にして地上へと精神体だけを降ろして行った。
ここまで本当にありがとうございました。




