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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第二十章~回収~
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10.呆気ない

 パン。パパン。


 乾いた銃声が鳴り、ヴァルゴの体に幾つもの銃弾が付着する。しかし、彼女の前でそれは意味をなさない。銃弾の元を辿って攻撃の材料とするだけの話だ。


 だが、先読みしてもその攻撃が相手に当たった気配がない。


「……埒が、明きませんね~」


 ヴァルゴは今村とクロノに結界を張ってそれの近くに陣取りつつ溜息をついてなるべく平静に戦おうと勤めている。今村に習った技術であり、冷静になるのは戦闘時の基本だ。


 しかし、今回それは出来そうになかった。どうあっても煮えたぎるような怒りは抑えられそうにない。その所為で攻撃が逸れているのは頭では分かっているが心がそれを打ち消してしまう。


「絶対に、絶対に殺す……」


 座った目で辺りを睥睨して何とか怨敵を見つけ出して滅ぼそうとしていると突然結界が壊れた。


「!」

「ひと…?何コレ。」


 ヴァルゴが不味いと思ってその場を見るとそこにいたのは絶世の美少女。彼女は目の前を何かが横ぎったのを感知してそれを無造作に掴んだ。


「……?っ!これ……何でひとくんの血が!?」


 それを見ただけで今村の血だと分かったのにヴァルゴの冷静な部分は変に苦笑するがそんな感情は僅かで仇敵が見つかった以上彼女の頭が下す命令は破壊だった。


「『天龍』!」

「うわ、なに……は?」


 いきなりヴァルゴの弓による攻撃に巻き込まれかけたアリス。その程度の攻撃であれば彼女にとって少しの驚きにしかならないが攻撃源を―――いや、正確にはその少し先を見た瞬間に状況を全て忘れ去る程の衝撃を受ける。


「え?じょ……冗談、だよね?笑えない、よ?」


 アリスはヴァルゴが放った攻撃が自分に音よりもはるかに速いスピードで向かって来ているのを気にも留めずにふらふらとヴァルゴの近くに向かう。当然、二人の間に在った攻撃に命中するが彼女は意に介さない。


「ひ、と、くん……?」


 力無く今村の近くに座るとヴァルゴの結界を力づくで壊して今村を調べる。その間に機械兵が逃げようとするがヴァルゴがそれを許さない。


「死、死んでる……な、何で……?いや……いやだよ…何で…?」


 泣きながら尋ねるが返事はない。それが、目の前のことが現実だとわかるとアリスは絶叫した。












 パン、パパン。


 クラッカーの音が鳴り、今村の精神体にカラフルな紐や紙が付着する。しかしそんなものでは彼のテンションを上げるのには至らない。何ともなく彼の曖昧で微妙な笑みの材料になるだけだ。


「おめでとうございます!」

「あー目出度いな糞マスター。やぁっとくたばった!」

「仁くんおめでとー」


 9人に口々に祝いの言葉をかけられるのは今村だ。今村はこの場所に来てようやく何が起きたのか思い出した・・・・・


「…いや、やっぱ俺っておかしいんだな。」

「まぁ。普通の人間として生まれたのに一回も死なずに後天的に能力を無理矢理起こして冥界に行きましたからね。余りの規格外さにびっくりです。」


 今村の前には『大罪』のメンバー。それと咲夜がいて豪華なパーティーの準備が整っていた。


「あーなんか恥ずいな……でも凄いな俺…」


 そんなことを呟いていると突如、彼らだけの空間に皹が入りその場に滅世の美幼女と美少女が舞い降りた。


「仁!あぁよかった…まだ大丈夫みたいだね……ボクの家でもうじっとして休憩しよう?」

「……流石。」


 彼女たちが現れることで硬直して気を失った「大罪」たちを見て今村は二人の規格外さを再認識するが「大罪」たちも何とか自力で元に戻った。


「お兄様。ペナルティ反応が微妙に起きましたけど…急に消えたので心配したんですよ?何があったのですか?」

「自殺じゃないからセーフ。何があったかは……まぁ簡単に言えば死なないといけないのに生きてたから死んだ。」

「……どうやら相当に疲れてるんだね?じゃないとボク達の前でそんなこと言えないはずだ。骨の髄まで甘やかすから帰ろうか?」


 滅世の美少女ことミニアンが全ての理性を蕩かして意のままに動かそうと蠱惑的な顔で今村を誘うのでそれを見た周囲が完全にノックアウトされる。だが、今村にはあんまり意味がない。取り敢えず現状の説明をするために面倒ながら口を開く。


「……はぁ。説明面倒だなぁ…えーと?俺は今世は休暇代わりに一般人として生きる予定で、ヒトとしての生を終えたら元の能力を得てまた頑張るつもりだったんだよ。」

「それは転生前にも聞いたけど……」

「で、俺はヒトとしての生を終わらずに能力を創りまくって冥界に行って体だけ手に入れて滅茶苦茶して能力を今の状態まで持って来てたわけ。」


 ミニアンとセイランは鳩がRPG-7を正面から喰らったかのような顔をした。


「え、どう……え?」

「……に恐ろしきは厨二病かな…」


 今村は15の成人の時に記憶を思い出したのだが、それは別に狙ってやったことではなく思春期特有の病に罹ってそれと併発して記憶を戻してしまったのだ。それを知ったため今村は曖昧な顔しかできなかったのだ。

 それはともかく、記憶を戻した程度ではそう言う病気で片付けられるのではないかと思ったミニアンは納得いかない顔をして呟く。


「いや……でも普通は……君、ボクの目の前でユーシアを撃退したよね……?あれでも、ニンゲンって?」

「幼少期からネグレクトにDVに色々受けて下地はばっちりだったし。」


 今村は笑顔だが当然それを聞いているミニアンとセイランは嫌な顔をする。想い恋焦がれる相手が子どもの頃から酷い目にあったと聞いて喜ぶ正のモノはいないだろう。


「んで、前世と今世の間の死んでた期間の実験成果は一応死んでから手に入れる物と設定してたから死んだ。」


 その話をしながら今村は「大罪」たちの話を思い出す。彼らは今村が死んでないのに色々しているのを中で見ていてなるべく楽に死んでもらおうと画策して前に鬼ごっこをしていた時など行動を起こしていたが、一歩間違えば消滅する敵と戦い始めて最近まで自重していたらしい。


 それで、今回やっと弱いが一応殺せはしそうな相手が今村と敵対している者たちが手を回せない状態で来たということで決行したということらしい。


「……では、これが悪いんですね?」


 セイランが「大罪」たちを敵視するが今村がそれを制止する。


「まぁ落ち着け。俺が死んでも別に……じゃない。まぁ、アレだ。うん。そうだ。俺の研究成果によって封印されてた【白魔法】まで使えるようになったぞ。」

「誤魔化せてませんよ?」

「やっぱり疲れてるんだろうね。一回ボクたちの家に戻ろうか?指一本たりとも動かなくていい生活を保証するよ。」


 ミニアンが今村の思考でさえ蕩かすような甘い匂いを醸しだしながら今村の腕を取り、連れて行こうとする。それに対して今村はマズイと察知して何か脱出できる口実を探した。


「!何か凄い美味しそうな絶望感があるからそこに行って……」

「から帰って来るんだね?わかった。それじゃあ……」


 ミニアンは今村に口付けを交わした。


「……ふふっ♪分かるよね?」

「…………あいよ。」


 『口吸いの誓』という魔法の気配を感じた今村は来た時よりも疲れた気分で元の世界に帰って行った。




 ここまでありがとうございました。

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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