6.謁見後
「……は?」
メアリーは目の前の黒いローブの男が言っている言葉の意味が分からず、間抜けな声を漏らしていた。今村と名乗る男はこちらを怯えさせるさせる笑顔で繰り返して言ってきた。
「モナルキーアから正当報酬の他に援護、及び条約締結協力費の追加としてダニアンを貰っていくよって言ってる。」
「そ、そんなこと言って……」
メアリーが反論しようとするが、今村はメアリーではなくダニアンの方を見ていた。メアリーもつられてダニアンを見るとダニアンがゆっくりと口を開いた。
「……この件は、私の独断でそこのヴァルゴ様の方と決めて、そして私の合意の下結ばれた契約です。」
メアリーは援護の言葉を、彼が彼女の下から離れないという言葉を言うと思っていたのを見事に覆されて言葉に詰まる。
「だ、ダニアン?」
「おいおい……お前何勝手なこと決めてんだ?」
「君は国に仕える近衛ですよ?国の意向も聞かずに一存で……」
ダニアンの言葉にメアリーだけでなくお供の大柄の女性と小柄の女性も反論するが、ダニアンは首を振った。
「もう決まったことですし、国の方にも確認はとってあります。国の意向ではこれ以上の支出はさけたいとのことで……」
「実験人形にもモルモットにでもなんでもしろってさ~」
メアリーは一瞬だけ見せた今村の歪んだ笑みを見て顔を強張らせた。ダニアンが酷い目に遭う情景が脳裏に浮かび上がり彼女は思考を巡らせる。
「オイオイ……国際条例的にマズイだろう?そんな人をモノみたいに扱って許されると…」
「君らが来た『幻夜の館』は完全なる自治性が認められている。あそこで何が起きようとも問題にはならんよ。安心しな。」
大柄な女性の言葉も苦笑しながらあしらって今村はダニアンを見た。
「んじゃ、お別れの挨拶をどうぞ。あ、この時点でお前はモナルキーア所属じゃないからお好きなように言葉を掛けると良いよ。薄給の癖に扱き使い過ぎだ。とも無知を地で行く阿呆がウザかったとでも好きに言え。」
「……そうですね。」
今村の言葉を受けてダニアンはまずメアリーの方に近付いて、お供ではない親しさの距離に入ってから柔らかい笑顔で口を開いた。
「王女……いや、メアリー?これはお前の幼馴染としての言葉だ。国の政略婚だから色々と困難もあると思う―――」
彼の言葉が続いて行く。周囲から音が消え、言葉を受け取る彼女は国に売られた彼の優しく、気遣う言葉に涙を浮かべる。
「―――それでも、俺はお前には笑っていてほしい。優しいメアリーのことだからどこにいても受け入れられると思う。ただ、自然体で愛されるからって王女としての振る舞いは心がけてくれよ?」
「私、は…」
「はい、長いのでそこまで!」
音が帰ってくる。二人の間に割って入った今村は全ての感情を欠落させたかのような無表情でダニアンを引くと何かを言おうとするメアリーを軽く見て黙らせた。
「ほれ、そっちの二人にも簡潔に挨拶。」
「カリギュア団長。ナルコトアさん。後は、お願いします。」
「ダニアン……いや、そうだな。……メアリー嬢のことは任せろ。」
「……わかりました。ダニーさん。お気を付けて……」
メアリーに比べるとあっさりしているが二人とも心苦しい顔をしている。ダニアンはそれを見ながら笑った。
「はは……大丈夫ですよ。死ぬわけじゃないんですし…」
「いや、死ぬかも。」
慰めの言葉を今村が斬り捨てる。あまりにも軽い今村の一言に声を失ったモナルキーアの面々に今村は続ける。
「色々試すからね~まぁ運が悪かったら1時間もせずに死ぬんじゃね?」
「な、ぁ?何を言って……」
「事実だ。運が悪ければすぐ死ぬ。」
今村の顔からは何も窺い知ることが出来ない。思わず掴みかかりそうになるモナルキーアの女性陣たちだがダニアンがその前に割って入って止める。
「覚悟はしてます。せっかくここまで譲歩してくださったのですから、悪戯に関係を悪化させることはしないでください。」
「だが!」
「団長。今、俺はお願いしたばかりですよ?」
ダニアンの言葉にそれ以上何も言えなくなる大柄の女性。メアリーが涙声になりながらダニアンの服を掴んで口を開く。
「ダニー…私は、本当は、ずっと……ずっとあなたのことが……」
「だから長いっての。『ワープホール』。行くぞ。」
メアリーが見えない動きで今村はメアリーからダニアンを剥ぎ取ると瞬時に自身の隣に「ワープホール」を形成してダニアンを投げ捨てる。
「おー……そういやコレも下手すりゃ死ぬんだった。アッハッハ。」
「っ!この……」
メアリーが憎悪の念を込めた目で今村を射抜く。それを今村は笑って受け止めると言った。
「取り返しに来てもいいよ?来れるんなら。手厚い歓迎してやるぞ?まぁ来ないだろうがな~お前ら口では色々の言っても行動には起こさないだろうしね~。んじゃもう2度と会うことがないように祈ってろよ~」
そう言い残して今村が消えると彼の後ろに黙って立っていた「レジェンドクエスターズ」の美女たちも消える。そんな中、一人残った美幼女がいた。
「あの~、一応これを渡しておきますね~?どうやら私の所為で色々起きてるみたいですし~」
残っていたのはダニアンと謁見時に密約を結んでいたヴァルゴ、その人だった。彼女は地名と思わしき物が書かれたメモを怒りに身を焦がしているメアリーに手渡す。
「……何のつもりですか?同情?でしたら止めてくださった方が万倍嬉しかったのですが?」
「いえいえ気紛れですよ~そこにあなたが求める彼は1日はいるでしょうね~その間は『幻夜の館』に戻るより色々と、薄いですよ~?まぁ今のは独りごとですね~ここに、そこまで行ける転移陣の文様陣をつけますけどご自由に~」
ヴァルゴはそれだけ言ってモナルキーアの面々の目の前から消えた。残された彼女たちは空を見上げ、しばらくは動けなかった。
「やって来ましたよ~お芝居でも裏切り役は嫌だったので良い子良い子のなでなでを要求します~」
「おう。さて、来たら面白いんだが…」
ヴァルゴが帰って来るのを今村はある島で待っていた。その周りでは水着姿のアリスたちが今村を悩殺しようと頑張っている。今のところ釣れたのはダニアンだけだ。
「……にしても、この人連れて来るし、私たちに微塵も興味示さないし…やっぱりそっち系なんですか?」
「お前はどうしても俺を同性愛者にしたいらしいな…いい加減埋めるぞ?」
そんなことを言うマキアには既に砂の中に埋めている上、顔の近くに結構大きいヤシガニを放っている。しかしマキアは元気に反論する。
「同性愛者になんてしたいわけないですよ!先生には私を好きになって欲しいんですから!それに埋めるなら私の穴を先生のぼもごぉっ!」
「お望み通り口の穴を『冥浄禍杖』で塞いだが?破裂させたい?」
マキアが大人しくなったので今村は椅子に腰かけ、ダニアンを見る。彼はとても良い物を見て幸せそうな顔をして気絶していた。
「そんなのよりお姉ちゃんを見てよ~ねぇ~ひとくん~」
「そんなことよりオートマータ創んねぇと。中途半端なもの見せられて不完全燃焼だし。……でもまぁ明日からでいいかなぁ…」
今村がアリスを無視して砂浜の砂をブロックにして座っているとみゅうがようやく水着を選び終えたらしく白のドレスタイプの水着姿で今村目掛けて走って来た。
「パパ~大好き!は~1時間も好きって言ってなかったから苦しかった~」
そんなみゅうに今村は溜息をついてローブで飛びつかれる前に受け止める。
「…まぁ一応教えとくと、言い過ぎは言葉の価値を下げるから気を付けろ。さてさて、来たら面白いなぁ……来なかったらダニアンは返却だな。国元に帰った時に死んだと思ってる奴が先にいるってのもまぁそれなりに面白っ……」
みゅうと話している間に独り言に移行しつつあった今村にクロノが顔目掛けて飛びついて今村は顔をクロノのスクール水着姿の胸に埋めることになる。
独り言を中断させられた上、顔が海水まみれになってイラッと来たので今村はクロノをコアラみたいに抱っこして動けないように呪いをかけた。
「さて、深海目指して歩こうか。」
「えへへ…お兄ちゃん…………え?アレ?お、お兄ちゃん?クロノ術が使えないんだけど……」
「そりゃ大変だ。何でだろうな?」
抱っこしてもらって幸せな顔をしていたクロノが顔付近まで海水が来たところで困った顔になるが今村は表情を変えずに進む。
「ん?え?く、苦しいよ?」
「そりゃ大変だ。どうするかな?」
「せんせー!何で私がくっついた時にはコレなのにクロノちゃんは対面座位からの駅弁なんですか!?ズルくないですか!?」
この後島からどこの国も機関も知らない未確認飛行物体が大気圏を突破して飛んで行ったらしい。
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