1.お仕事してます
陸続きのアフトクラトリアから少し海路で進んだ先の元アフトクラトリアの東部自治区。そして現在は世界の覇者となったその場所。
そこが覇者となり、一時危ぶまれていた財政を立て直した世界を支配したと言える状態にした上、少子高齢化問題、行政問題、現実と乖離した制度の改善。社会保障、その他諸々を全て立て直した理由。その場所に男1人と女3人の一行はいた。
「ここが『レジェンドクエスターズ』本部……」
重厚な門構え。それにパッと見て分かる銃火器での大量の武装処理が施されており、術式処理も万全に思える恐ろしい場所。
彼女たちはそれに全く怯えることもなく入って行こうとしていた。
「行くぞ。モナルキーアの者が来たと伝えれば誰か来るだろう。」
「え、姫様アポイントは……」
「アポイント?」
男の質問に女性の一人が何を言っているのか分からないと言った風に返して男は愕然とした。
「……最悪今日は入れないかもしれませんね…」
「あっはっはっは!まぁ~メアリ嬢が自信満々で行ってたから大丈夫かと思ってたけど無理に決まってるよな!」
お供の2人の女性が呆れと笑いで以てその会話を聞く。瞬間、その後ろには20人の黒服の男たちが現れた。彼らが南のモナルキーアから東のアフトクラトリアを経由して彼女たちをここまで連れて来たのだ。
「第1王女様。我々の契約は今日までになっています。明日以降は通常業務に戻るのですが……」
「大丈夫よ。」
何の根拠もない自信を見せる彼女に護衛部隊は何とも言えない顔をしてインターフォンらしきものを押す。
「……はい。こちらレジェンドクエスターズ本部です。」
「モナルキーア第1王女のメアリー・カル・モナルキーアです。依頼があるから開けてください。」
「本日のご予約にありませんが……」
「緊急事態です。何としてでも開けて頂けないと困ります。」
インターフォンを受け取った側は困ったように少しだけ黙ったが、すぐに切り返してきた。
「空いている者を送ります。少々お待ちください。」
「わかりました。よろしくお願いします。」
通話は切れた。そしてメアリーはドヤ顔で彼女の部下たちの方を振り返る。
「どう?こんなものよ?」
褒められたことじゃない気がするお供の中で唯一の男は残る2人の女性陣の中で小柄な方に袖を引かれ、携帯を見せて来ていたのでそれを見た。
(……なるほど。細かいことにも対応してるらしいな…)
「お待たせしました。それではこれを持って中へどうぞ。」
メアリーが通話を終えてからほんの10秒もしない内に門が開き、可憐な美少女が出迎えてくれた。
「えぇとこれは……」
「防衛システムの攻撃対象外装置を付けているものです。無くされますと殺されるのでご注意ください。」
一行は黙って移動した。
「それではご用件のほどを。」
一室に入ると案内役の可憐な美少女が席についてそう切り出してきたのでメアリーは少々ムッとした顔でそれに応じた。
「国家機密ですよ?ある程度責任がある人にお願いしたいのですけど……」
「ご心配なく。私でも対応できることですので。」
少女は表情を崩さずに歓迎した時から同じ微笑を続けてそう返した。
「……あの、結構厳しい問題でして…」
お供の3人の内の男がそう追随するが少女は自分で大丈夫だと繰り返し、そして時計を見て少しだけ表情を崩したがすぐに立て直した。
「えぇと、私としてもあまり時間は取れませんのでお早めにしていただきたいのですが……もし私の方で不安と言うことでしたら後日改めて…」
「…今日、他の誰かはいないんですか?急ぎの要件なんですが…」
メアリーが食い下がる。それだけ切羽詰っているのだろうが、少女の方としては急に来られてこちらの能力が信用できない。もっと上の物を出せとごねられているだけなので不快なだけだ。
それでも業務なのでなるべく愛想よく徹そうとしていたところで廊下の外が妙に騒がしくなって来た。
「……俺忙しいんだが…」
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!あれ見て!」
「仕事終わったらな~」
「パパ仕事終わったらみゅうに構ってくれるって言ってたのに!」
「今日は来客がいないからって五月蠅くするな。静かにしろっての。……ん?何か来てるっぽいな。」
幼い子どもの声、そして聞き覚えもないのに何故か聞いたことがあるような気がする声。それらが真面目な話をしているのに聞こえてきたのでメアリーがイラついて怒った。
「五月蠅いですね……少し注意をしていただけ…」
瞬間、目の前の少女の顔から表情が抜け落ちるとメアリーは天地が逆転した風景を見せつけられた。
「な、何を!」
驚いたお供の男が抗議しようと腰を浮かせたが立ち上がる前に腰を砕かれて椅子から立ち上がれなくなる。その数瞬後にも満たない時間でこの部屋にいる少女以外の面々は地面に突っ伏すことになった。
「……ご主人様に注意?何様のつもりですか?」
「ぐ……ぁ…」
「あぁ…モナルキーア第1王女でしたね。王女様とでも言うつもりですか?王女ごときが行ったご主人様に対する不敬罪を皆に広めてモナルキーアをレジェンドクエスターズによる単独経済制裁に処しましょうか。」
その辺の石ころを見るかのような目で少しだけ荒れている場に転がっている面々を見た後にそう決めて少女が部屋の外に出ると騒がしくしていた幼女とその主が目の前にいた。
「よぉ。セレス。誰が来てんの?」
「え、あ、そ……その、あと…」
話しかけられて少女は顔を真っ赤にして口ごもり始めた。もじもじして頭の中はパニック状態らしい。
「わ、私はぁぁぁあぁっ!が、頑張ってます!」
「…いや、知ってるけど。」
黒ローブの目の前の男は苦笑して彼女の言葉に同意した。その瞬間セレスは土下座した。
「ももももももももも勿体ないお言葉ですぅうぅぅぅぅ!」
「…落ち着こうぜ。」
今村とセレスが変な会話をしている内に中の様子が気になった幼女と童女が扉を開けて中を見る。
「おー、パパー皆倒れてるよー」
「あ、あの、その……ふ、不敬罪です!ご主人様に静かにしろとあまつことか注意しろとまで言ってたのでぇぇえ!」
「よし、殺そ。」
パニック状態でも言いたいことは何とか伝えたセレス。その言葉を受けて童女が殺気を持って入室し、それと同時に幼女も入って行った。
「……いや、まぁ…取り敢えず話聞こうか。」
黒ローブの男。今村は何だか疲れながらこの場の全員を止めて中にいる面々をどうにかするように指示を出した。
ここまでありがとうございました。




