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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第十九章~段落の間~
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8.到着と

 半球の平らな面を上にして中心から途方もなく澄んでいる綺麗な水を噴き出す泉。そしてそこから四方に流れる水路。


 1つはそのまま綺麗なまま何の汚れもなく水路の両脇に様々な種類の花を伴い雄大な白亜の宮殿へと流れて行き、1つは多くの生物が住むことが可能なように少々の濁りを流れの途中で得て滋味を程よく含み、半球の淵で蓮などの花が浮いている湖沼を形作っている。


 また、もう一つの流れでは魔力、神氣、仙氣、霊氣など様々な正とそれに属することが可能なエネルギーが豊富に含まれた大河を形成。最後の一本は禍々しさ、そして自然に対する畏怖を与えるかのような負のエネルギーを伴った多数の支流からなる黒く透き通った川になっていた。


 それだけではない。水路により4つの区切りで分けられたそれは清らかな水と滋味に富んだ水の間で春の様相と様々な樹木が春爛漫といった風景を醸しだし、滋味に飛んだ水と正のエネルギーを蓄えた水路の間では夏の様相を照らし出す生き生きとした景色が。

 正のエネルギーと負のエネルギーの水路に挟まれた空間では正から豊かな自然が実りを告げる中負の方へ移動するにつれて枯れて行く侘しい情景が。そして負の水路と清らかな水路の間では厳しい自然とその中にどことなく郷愁を感じさせる光景が広がっていた。


 そしてそんな一見、雑然さを感じさせるとも思えるような叙景が何故かここではひどく整えられ見事に合っているように感じられたのだ。


「すっごい……凄いね。お兄ちゃん……!?」


 クロノが呆然として外の景色を眺めて、ようやく我に返って今村の方を見ると、戦闘機の外側にフリルのあまりついていない実用的なメイド服を着ている顔を直視できないアリスレベルの絶世の美女が流麗な動作でこちらにやって来るところから深々と礼を取るまで目を離すことが出来ず息を吞んで目撃した。


 クロノが今村がそのことをどう受け止めているのか気になって今村の方を見ると今村はそれをまるで認識していないかのように自らの作業に余念なく何らかの紙を見ていた。


「お、お兄ちゃん……何かいるよ……?」


 クロノが指さす今村は見もせずにクロノに返答した。


「あ?何かいるの?へぇ。でも俺には関係ないな。」


 90度の礼からピクリとも動かなかったメイド服の女性の肩が一瞬だけ震えたのが分かったが今村は何も言わない。無視したまま上空を旋回し何かを探す。


「ねぇ……付いて来てる……」

「ウザいな。」


 その一言でクロノだけに見えている者ではないと分かったがアレが何なのかクロノは今村に訊いてみることにした。


「アレ……何なのかな……?」

「知らん。多分電子精霊の一種でこの宮殿を任されてたのに創り手の意見も聞かずに勝手なことをした何かだと思うけどね。鬱陶しいよなぁ?死ねばいいのに。」


 後ろにいる存在は元々無表情で感情の起伏に乏しそうであるが酷く悲しげな顔をして止まった。


「……ねぇ、もしかして……ここってお兄ちゃんの……」


 クロノがそこまで言ったところで今村は眉一つ変えずに答えた。


「多分合ってる。これは昔俺が創った本宅の失敗作。機能的に言ったら上々の出来で、今の俺じゃ逆立ちしても作れないが……まぁいかんせん勝手な行動をとるというね……壊したいが俺の能力の性質上敵意がない奴に対してテンションもなしに本気出せないから壊せないし。」

「あの人、口噛んで血を出してるよ……?」

「あー出て行ってみる?多分殺されるが。」


 今村がそう言ってクロノの代わりに傀儡を外に召喚するとそれは何か来たとクロノが認識する一瞬の間で蒸発して消えてなくなった。


「……え?お兄ちゃん今何したの…?」

「お前と同じ感じの傀儡を外に召喚した。それ以外は何もしてない。」

「あのメイドさんの仕業……?」

「まぁ、厳密には城の防御システムなんだが……まぁその辺はどうでもいいよ。取るもの取ったら二度と来ないし。……ん?何か来たな……」


 今村の戦闘機が春のゾーンの辺りをぐるぐるして探し物をしていると冬のエリアに穴が空いて誰かが侵入してきた気配を感じた。


「……もしかして、入居者か……?」


 外では痛恨のミスを犯したかのような苦い顔をしているメイドの女性がいた。そして次の瞬間にはその隣にメイド服を着た女性と並び立つレベルの美男子が微笑みを浮かべてメイド服の女性にレーザーを撃ちこまれて立っていた。


「香澄。珍しいねお客様なんて……」


 メイド服を着た女性は険しい顔をしてレーザーの威力を上げ相手を滅多打ちにして戦闘機の方を見て何かを訴えかける。


「何言ってるんだろうね……?」

「さぁ?ってかアレ香澄って名前なんだ。「……ぁ」……あ゛?」


 玲瓏な声が響いた瞬間今村の目が鋭くなり外にいるメイド服の女性を睨みつけたがすぐに気を取り直すと意識を切り替えた。


「……まぁそれはともかくとしてだよ。ここに長居するのはあんまり気分が良い物じゃないしさっさと「君。」あ゛ぁ゛?」


 クロノに話し掛けているのに外のレーザーで撃たれまくっている絶世の美男子が間に入って台詞を割ったので今村は相手を射殺さんばかりの視線を向けた。


「君が、彼女の声を奪っている悪魔か?」


 今村の射殺さんばかりの視線にもまったく動じることなく男は戦闘機越しに今村を見据える。今村は溜息交じりに答えた。


「はぁ……一応、本来であれば俺はそれと関係ない。ただ、多分俺がここを放棄した際に『五月蠅い黙れ』っつったのを言うことを聞く筋もないのにアホみたいに守ってる可能性は否めない。」

「……そうなのかい?」


 メイド服の女性、香澄は男に対する攻撃を止めないまま首を振った。


「じゃあ本当に知らんな。新しい持ち主はあんたじゃないのか?」

「彼女には待ち続けている人がいるらしい。何度か撃退されながら話して、ぼくがここを治めると提案したら激昂して苛烈に襲い掛かって来たよ。」

「喋んねぇことには始まんねぇしなぁ……何か言ってくんないかなぁ?俺あんまり暇じゃないんだよな…」


 クロノは来る前に20分自分のほっぺたを何も言わずに突っついてた暇はあったのになぁ……と思ったが口には出さずに大人しくしておいた。そんな中、メイド服の女性が口を開く。


「お帰り下さいませ、ご主人様……」


 それは泣きそうで、震える声だったが気品を感じさせるのには十分な物だった。男は満足気に喜び、今村は声を上げた。


「あ、見っけ。」


 完全にこの場に興味なしで目的の物その1を見つけた今村は戦闘機を速攻移動してその場所につけ、近付くと術で中に取り込んだ。それに女性は付いて来る。


「お願いします。もう、二度と失態は犯しません。ですから、何卒お願いいたします。お帰り下さいませ……」

「はいはい用件が済んだらさっさと帰って二度と来ないから安心してくださいよ。」

「……多分違うよお兄ちゃん…」


 クロノが呟き、メイド服の女性が後ろにいる男を縛り付けて負のエネルギーの川の支流の1つに捻じ込みながら謝り続ける中、今村はガン無視して自らの作業を続行した。




 ここまでの読了ありがとうございました。

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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