7.特異点2つで
「……」
「………………」
「……………………」
「……………………………ねぇ、お兄ちゃん。」
「…………………………………何だ?」
「何でクロノのほっぺたすっごい突いてるの?」
「何となく。」
「ほっぺた破れそうなんだけど……」
「…………そうか……」
「うん…………」
20分。これがクロノが椅子に座って本を読んでいたら今村が来てクロノの方から声をかけるまでに頬を突かれ続けて何も言わずに耐え続けた時間だ。
最初は嬉しそうにしていたがだんだん痛くなって来たところで何してるんだろうという疑念が湧いて来て現在は困り顔になっている。
(……何となくなんだ…じゃあいっか。)
だが、クロノは今村の気が済むまで頬を突かせることにした。それなりに痛いが我慢できないわけではないし近くでじっと見てくれていると考えれば別にいい気がしたのだ。
「……ふむ。嫌じゃないのか?」
「ん~?べちゅに?お兄ちゃんが飽きるまでクロノのほっぺ使っていいよ~?」
「そうか。」
「うん。」
沈黙が訪れる。今村は突き続け、クロノは今村を見続ける。そこに何の生産性もなければ何かが起きる余地もない。
「……クロノは暇じゃないのか?」
「んー?お兄ちゃん見てるし別に~?クロノこれでもずっと牢獄に繋がれてたから何もしないでいること得意なんだよ?」
「何か、悪かった。」
返って来た答えが不憫だったので今村は謝罪をして手を引っ込めた。
「んにゃ?お終い?」
「まぁ、そうだな。んで、ちょっと出掛けるが……クロノ付いて来る?」
「うん。」
どこに行くのかも言われていないのにクロノは今村の問いに即答してクロノは椅子から降り、本を返却用の本棚に置いておく。すぐに本は消えて元の並びに返されるだろう。
「どこ行くの?」
「嫌な所。ちょっと要る物があるから行かないといけなくなったんだが行きたくないなぁ……って思ってる。」
今村はそう言いながら戦闘機の様な飛行機を出して乗り込むとクロノのために色々と置いてある助手席を開けて座らせる。
「どんなとこなの?」
「……史上最悪のダンジョン。あの原神が2柱掛かりで落とせなかった難攻不落の城だ。」
「げんしん?何それ?」
クロノは何度か一方的に遭遇しているが存在格が違い過ぎる上、認識外の事象なので首を傾げて可愛らしく上目遣いで今村に尋ねる。今村は簡潔に答えた。
「まぁ、この世で最上級に位置する神だな。」
「え~?じゃあそのげんしんの中で誰が一番強いの?」
「状況によるが多分長男。次男。末弟って感じだな。」
今村は戦闘機の入り口を術で締めながらクロノの問いに答えると離陸した。その出発時のエネルギーを肌で感じたクロノは声を上げる。
「うわ……これ、凄いんじゃ…」
「まぁ、個人的に創ったメカニックじゃトップ10の出来栄えに入るな。」
反動など一切なしで空に浮き上がるとその戦闘機は空間を切り裂くように先端部からレーザーの様な何かを出して空間の切れ目に向かって突き進み始めた。
「……そう言えば、そんな危ない所に行ってクロノ邪魔にならない?」
「ん~まぁ、目的地はダンジョンだが実際にはダンジョンに潜るわけじゃないから降りる気ねぇし、別に邪魔じゃないな。」
「だったらいいけど…」
ある程度の操縦を終えて後は自動で進むようになってから今村は操縦席を倒して高負荷をかけて深層筋の筋トレをし始める。クロノは今村に構ってほしそうに横でじっと見ていた。
「ねークロノもそれしたい。」
「……いや、これは流石に駄目だ。成長阻害になるし……まぁお前成長できないけど。」
「じゃあいいじゃん。」
「ん~でもちょっと…」
今村は子どもなのに豊かな山脈を誇るクロノの胸、その下を見て曖昧に言葉を濁した。
「クロノのお腹がどうしたの?つっつく?」
「……割れてるのに需要があんまりないからなぁ…引き締まってるのはいいけどばっきばきは何か……」
「…あ、じゃあ見て!クロノのお腹どう?」
クロノは子ども用ゴシックドレスをたくし上げてぺろんと自分の処女雪のように白い腹部を見せる。お子様らしからぬ黒バラレースの下着が思いっ切り見せつけられ、豊かな山脈を守っているブラジャーも少し露わになる中クロノはそれでも腹筋を止めない今村にお腹を近付けて来る。
「……いや、恥じらいの…」
「お兄ちゃんには全部見てもらうからいいの!それよりクロノのお腹だいじょぶ?一応太ってはないと思うんだけど……」
「まぁ、痩せ気味だな。」
不意打ちで来られたのでどんな顔をしていいのかわからない。それと同時に一応枯れてはないんだなぁ…とかロリコンなんだな俺…などどこか冷静に客観視する並列思考たちがいた。
「……ってかあんだけ食べてんのにな…どこ行ってんだろ…」
「次元の狭間だよ~クロノのエネルギーにするためにいっぱい落としてるの!」
クロノはドレスから手を離すと座席の下まで送って綺麗に着直した。今村も腹筋を止めて椅子を更に開き腹筋を伸ばす。
「お兄ちゃんのところのご飯とぉっても美味しいしいくらでも食べれるから最近クロノ強くなってきてるよ!」
「……まぁ、ほどほどにしといた方がいいぞ。特に俺と違ってお前みたいな奴は孤独に脆いんだから……」
「…?どーゆーこと?」
褒めて欲しかったのに苦笑して諫言されたクロノは意味が分からずにきょとんとした顔で首を傾げる。
「クロノは『負』の神でもなければ『正』の神でもないし、『特異点』としては生まれて間もないからまだ分かってないだろうが……いや、本当は気付いてるのか。だから俺を…」
「?どーしたの?」
「……ま、その時になればわかる。」
説明しようと思ったがもうすぐ着くし、説明が面倒なので今村は諦めて戦闘機の前方に注意した。クロノも釈然としないながらに前を向く。
「もう少し時間がかかる予定だったんだが向こうから来たしな。時間が短縮された。もうすぐ見えるぞ。」
その直後、戦闘機は空間の裂け目を通って別空間へと抜け出した。
「うわぁ……すっごぉい…」
そこはクロノが目を輝かせるほどの美しい世界だった。
ここまでの読了ありがとうございました。




