5.仙帝様の依頼ごと
「さて、早乙女。祓たちは何か発売してから5日でダブルミリオンとかいうのを達成したらしいが……お前は何だ?27枚しか売れてねぇじゃねぇか!誰が買ったんだよ!」
「いや……27枚売れたのが奇跡だと思うんだけど…200枚限定発売でこれだし…」
祓たちが表で朝倉の指導を受けた後一所懸命に頑張ってデビューしたころ今村は早乙女のプロデュースに取り組んでいた。
「その上、芸能会社からスカウトが来たぞ!芸人としてな!全く……アイドルとしての自覚が足りないんじゃないか?」
「いや、まずもってそんなものを持ち合わせていたことがないんだが…」
「ダンサーとしての誇りはどうしたんだ?あの世界に置いて来たのか?なんなら次はあのひらひらしたやつで…いや、まぁいっか。これからアイドルとして活動するか芸人として活動するかはお前次第だ。」
「普通に『レジェクエ』で働くんだが…」
「俺は何も言わねぇぜ。じゃあな。」
今村は背後の話を最後まで聞かずに出て行った。
「さて、実験は中々上手く行ってるから多少の空き時間があるなぁ……どうしたものか。」
今から何をするか考えながら「幻夜の館」内を歩いていると前からマキアの反応がし、ほぼノータイムで今村の目前に現れた。
「先生~お客さんです。仙帝さんが来てますよ!」
「あ~……音色か…何か戯言言ってた気がするけど何だっけ?」
「行けばわかると思いますよ!ついでに私も先生にイかせてほしいです!」
「逝きたいなら…」
今村がにっこり笑って「呪刀」を持ち出すとマキアは首を振って人手が微妙に足りていない仕事場に戻って行った。それを見送りつつ今村は呟く。
「……あー。まぁ、やることはやるんだが…何かこう、劇的にしないとな。」
前回来た時の用件を思い出しつつ今村は仙帝音色が待つ場所へと向かった。
「……私たち、このままでいいんですかね……?」
「……わかりません。ですが、こうしないとどうしようもなかったとしか思えませんし…」
一方、祓たちは激務の間を縫って控室で話し合いをしていた。本番前だというのに全員の顔は暗い物に包まれている。
「私は仁さんにしかサービス精神を発揮できないんですけどね~……見せ物扱いは気分が乗りませんよ~…」
「妾もじゃ…人の前に立つのは慣れておるが……」
この4人に対して5人目は一歩引いた視点で立っており、何も言わない。
「……ただ一緒に居るだけ……それすら駄目なんですかね…他の全てを投げ打ってこれだけしか残さなくても贅沢なんですかね…?」
「一緒に居るだけ……か。それよりもっと進んだところにいたいのじゃが…まずはその一歩だけでも…」
こんな話をするだけで休憩時間が終わり、外から感じる「レジェンドクエスターズ」の職員が近付いて来る気配に、全員の顔が仕事用の物に切り替わった。
「では、いつものように異性を近付けさせずに。」
「ですね……」
「生放送本番入りまーす!」
来たのは朝倉だった。彼女の言葉が5人専用の楽屋に響き渡る頃には全員が準備を済ませており、彼女が外に出ると全員がそれに続き、どことなく薄暗さを感じさせる舞台裏を進んで行った。
「お願いします。お金は準備しました!随風を生き返らせてください!」
今村は7色の髪を持つ少女に頭を下げられながら彼女が出した金額を視た。
「成程、君にとってその随風って奴は2万G(≒2億円)の価値ってことだな。ふーん。よくわかった。」
「ち、ちが……お金に変えられないほど大切な人なんです!これはぼ……私が出せる全額のお金で、そういう意味で……」
「いやいや、お金があれば大体のことは出来るから間違ってはない。まぁ要らんから返すけど。」
今村は金貨の入ったケースを音色に全額そのままで返した。音色の顔が悲しげなものに染められる。
「い、依頼は……」
「受けるよ。まぁ、貸し一つってことで。クロノ。」
「んーにゃぁ?なーにー?」
今村と音色以外誰もいない部屋で今村がクロノの名前を呼ぶとどこかで寝ていたらしいクロノが目を擦りながらこの場に現れた。
「ふぁぁぁ……うん。それでクロノは何すればいいの?」
「まぁ付いて来い。」
そう言って今村は問題の彼、随風がいる場所へと「ワープホール」を繋げてクロノと音色を連れて移動して行った。
「さて、君らクラスの奴が見ると情報統制に引っ掛かって死ぬ可能性があるから音色ちゃんはここで待っててね?」
「はい……あの、どれくらいで随風は…」
「条件による。」
今村は振り返らずにそう言って手をひらひらさせながら少し先にあるこの世界の主―――タナトスの家に向かって行った。
「あー……あ、今村さん。でしたっけ?」
家の扉を開けるとタナトスではなく、彼の自称嫁、寧々が迎えてくれた。今村はそれを特に疑問視することもなく中に入る。
「あー、旦那さんは?」
「最近、天界、地獄界、人界、冥界の4界が危なかったんですけど、その時に人界を何とかしようと出て、グロ・マキアって人に普通に負けたのがショックで鍛え直してます。」
(……マキアがかなり強くなってるな…今の俺じゃ勝てんか……?)
「ふーっ。あ、どうも今村さ…じゃなくてよう今村。」
「マキアに負けたらしいな。負けたからってマキアのケツばっか追っかけんなよ?そんなことしてたらお前の嫁にチクるからな?」
もう誰が嫁なんですか?などと言う突っ込みはしない。苦笑いで済ませるとタナトスは今村に用件を訊こう…として空からマキアが降って来た。
「先生が私のお尻を話題に出したと聞いて!マキア参上!」
「…………タナトス様?この方を仮想敵にしてずっと戦われていたんですか?浮気ですよね……?」
「まずもってお前と俺の間に何もない!後相手取ったくらいでぎゃぁああっ!」
何故か力量差があるのに抗えない気迫を受けてタナトスがアイアンクローで悶える中、今村はマキアやクロノ、目の前の惨状などを全部無視してここに来た用件だけを伝えた。
ここまでありがとうございます。




