3.オーディション
賞品につられて応募者多数となったオーディション。「幻夜の館」の中でもなかなかの規模になったイベントを前に館町から出店などが出てまさに一夜限りの町が出来上がっていた。
「ん~取り敢えず何か参加するなら名前だけ送れって言ったのに勝手に書類選考的な物が送られて来て一応見たが…オーディションはこの20人で行くか。あんまり多いとアレだし。」
「判断基準は……」
「言霊の強さ。顔で選んだわけじゃねぇぞ?参加者リストは自筆で名前を書くように言っておいたからそこに込められた力から図ってる。まぁ……これ見たら説得力に欠けるかもしれんが……」
写真も送られてきているので何とも言えない感じの顔をするが、これが事実なので仕方ない。
「確かに……祓さんとかサラさんとかヴァルゴさん……皆さん何と言うか、アレですもんね…」
「…サラとヴァルゴに関しては地獄と天界の仕事いいんかね?何か俺の方の仕事に大分委託状が届いてるんだが…」
天界や地獄の内情が気になる所だが、それはそれとして今村の方でも両者の改革は望むところなので文句は言わないが二人がどうなのかは気になる。
「祓の方は祓であいつフェデラシオンじゃ死亡届出てたはずなんだが…アイドルなんか目立つことやっていいんかね?……まぁ本人が出るって言ってるんだから俺がどうこう言うことじゃねぇが…」
「まぁ、ここの時間の流れから乖離してるから大丈夫じゃないんですか?」
お目付け役は元々繋がりがかなり希薄になっていた上、この前敵に吸収されたので殺してしまっていない。なのでその辺適当なまま今村はオーディションを決行することにした。
「さて、ベルとゴルフレドの司会コンビの準備も出来たらしいし。行くぞ。」
「はい。」
今村は朝倉を伴ってオーディション会場へと向かった。
「さぁ始まりますよ!限定1ヶ月の奇跡のアイドルグループ!『レジェンドクエスターズ』がお送りする絶世の美少女達のにゅーじょーだーっ!」
「司会進行はゴルフレド。補助司会はこの私、ベルがお送りいたします。」
今村、朝倉が審査員席に着いたことでゴルフレドが頷き、ベルが周囲に合図を送るとBGMがけたたましく鳴り、紙吹雪が舞って19名の美少女達がステージ上に現れた。
「さ~今回のオーディションは凄まじいことになりそうですね!どの方もレベルが高いこと高いこと!熾烈な争いが繰り広げられそうです!」
「そうですね~。さて、今回彼女たちにはアイドルグループとしての座を争っていただきます。その争い方法は実に簡単です。審査委員長の朝倉さん。我らが至高の神様である審査委員の今村様。直視できない美貌の女神様アリス様。あと意外と参加しなかったマキア様とクロノ様の5名が選んだ5人の人たちが合格です。」
「……審査委員長が一番格が下の人という…」
朝倉は何故自分が審査委員長なのか分からずに首を傾げながら呟いたが熱狂している場の風の中にその声は飲まれて消えた。
「…俺の名前の前に何か変なのが付いてるんだが……まぁいいか。」
「あ、お兄ちゃんそれクロノも欲しい。」
「あ、先生私そのチョコバナナをいやらしく食べたいです。」
例によって今村は露店の物を全制覇するために全て持ち込んで食べている。左手のクロノにはドネルケバブを与え、右手のマキアには鉄拳制裁を与えた。その様子をクロノの更に右にいるアリスは寂しそうに見ていた。
「それではゴルフレドさん。1番の方から紹介をお願いします。」
「わかりました。エントリーナンバー1番。言わずと知れた『幻夜の館』の白髪美少女!まるで白雪のような透明感を持つ美しさとその中に健気に咲き誇るエーデルワイスのような可憐さを併せ持つ!天明祓先生だ~っ!」
紹介があると祓は一歩前に出て3方面に向けて礼をした。それが終わると下がり次の紹介が始まる。
「……飽きた……」
「もうちょっと頑張ってくれませんか!?まだ始まったばかりなんですけど!」
「いや~飽きたもんは仕方ない。クロノ。俺の周りの時を進めて。」
「んにゃ?いーよ?『クイックタイム』」
焼きトウモロコシを頬張ってハムスターみたいに柔らかいほっぺたを膨らませていたクロノに会の進行を早めさせた。
「……ん。そろそろかな。」
「おっけー」
「エントリーナンバー16番!最近、魔界の財政をチョコレート工場の多数設立で圧迫しているちょっとアレな魔王の婚約者!エリナ・セフィタナン・メルサス・ファシト!」
「エリー……?ちょっと後で話を聞かせてもらおうか……」
ちょっと観客席にいた魔界の王、日馬が怖い顔をしている辺りでスキップを止めると通常再生して会の進行を見る。
「おっと、この方は私が……エントリーナンバー17番。先日3股が発覚し、結局誰が本命なのかを詰め寄られた際に超平然と別に誰も好きじゃないと言い切った上、少し考えて顔とテクニックと金でランク付けした挙句にダメ出しして来た清純派を装った腐れビッチ!清楚系詐欺の壺川舞さんです!はっはー!堕ちろ!お前の不幸は蜜の味だぜぇっ!」
「ちょっとぉ……?何言ってるのぉ?せんせ、私そんな子じゃないですよぅ!」
「至極どうでもいい。次。」
歌が上手くてある程度動ければ私生活などどうでもいい。バッサリと切り捨てて次へと移行させる。
「エントリーナンバー18番!天明先生と教師陣人気を2分するあのお方!クールに見えて惚れた相手にはとことん尽くし、相手が骨抜きになるほどの可愛さで甘え蕩ける!猫耳クール美女ミーシャ・ロングアン先生だーっ!」
この辺りで今村の口の端が吊り上り始めたのを無理矢理抑えてきた。殆どの人々には気付かれないほどの一瞬のことだが、今村のことをいつもよく見ている面々は気付く。
「エントリーナンバー19番。この方をアイドルとして働かせていいのか!?色んな意味で危険な気がするが可愛らしさは宇宙メガトン級!ヴァテン・ルへテン・ゴクハブ「私には仁さんから貰ったヴァルゴという名前がありますよ~?次そんなふざけた名前を言ったら八つ裂きです~」…ヴァルゴ様だ~っ!」
色々物騒なことを言っていたがゴルフレドはすぐさま立て直し、今村の方は今村の方で気にした様子も見せずに話を進ませる。そして、ベルが不意に改まった顔で告げた。
「レディースエンッジェントルメン。皆様大変お待たせいたしました。これより極上の美…少…女…の方が!ご入場してくれます!」
今村の何か企んでいる顔と司会の異様な興奮に会場が沸き立つ。ステージ上のエントリーをしていた女性陣も不安げな顔を覗かせ、続く言葉を待つ。
「しかも!今回、大胆にも水着着用での乱入です!皆さん括目し!拍手喝采でお迎えください!」
会場のボルテージが高まる中、ついにこの場にいなかった最後の人が入場をしてきた―――
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