15.何となく
「あ、まだ居たんだ。シュークリーム食べる?」
今村が洞窟の元の位置に戻って来た時にも瑠璃、セイラン、ミニアンは難しい顔をして何か話し込んでいた。今村が戻って来たことで話し合いは中断され全員が今村の方を向く。
「……君は……空気読んでくれないかな?」
「お兄様……」
「あ、食べる。」
それぞれの対応をする中、今村が何を話していたのか尋ねると瑠璃が不機嫌そうに質問を質問で返してきた。
「仁、ハーレムなんて不潔なことしないよね?」
「あ?テメェハーレムを馬鹿にしたな?勿論俺は作る予定もなければ1人と結婚する気もないし果ては誰かと付き合うことも考えてないが、ハーレムを馬鹿にしたな?ぶち殺すぞ?」
「誰かと付き合うことくらいは考えて!」
今村の色々論点が違う返しに瑠璃は色々言いたいことはあったが今村がそれを封殺した。
「お前居た世界じゃ一夫一妻だが一妻多夫とか一夫多妻とか他じゃ結構当たり前だからな?世界舐めんな。」
「で、でも仁だって昔ボクが訊いた時…」
「俺は、一生、独り身だ。OK?返事は「はい。」か「Of course.」それか「相手がいないんだろ(笑)」しか認めない。」
「いるよ!目の前に!きょろきょろしない!」
今村は瑠璃をガン無視して宝石を千切ると加圧して加熱した変な黒い水に淹れて不思議な紅茶が出来るのを待った。
「さて、【可憐なる美】?そろそろお早うしてくれるかな?」
「ん。」
ミニアンは何も言わずに今村に浅い口付けを交わした。
「…お目覚めしてくれるかなって意味だったんだが?」
「お早うのキスかと思ったよ。で、何から目覚めてもらうつもりなんだい?」
ミニアンの目は笑っていない。変なことを言えば色んな意味で襲われかねない。
「【勇敢なる者】も俺の話を聞いてくれればいいのになぁ……まぁ何か馬鹿にしに行った感はあるけど…俺も多少悪い気が……しないな。あいつ天下無敵の王様なんだしもっと大きく心を持ってほしい。」
「っ!また無茶な事してないだろうね!?」
今村の発言にどこか不穏な雰囲気を感じ取ったミニアンが多少厳しめに言って来るが今村の視線は不思議な紅茶に向いている。
「まぁ、お茶が入ったよ?」
「話を逸らさないでくれるかい?」
「無茶だからお茶っつったのに…」
何か変なことに拘っている今村の戯言は無視してミニアンが心配そうに今村の体を見回す。
「怪我はないようだけど…何もなかったのかい?」
「少なくとも貞操に関してはお前らの方が大分性質が悪い。他は想像に任せる。というより、今の俺でも怪我した時点で即死だろ。」
「大丈夫ならいいんだけど…」
それでも一応出て行く前の一言で嫌われたくないと距離感を測りかねているセイランに今村の回復をさせる。
心配して色々見ている二人を余所に今村は瑠璃の方を見た。
「まぁ、その辺はどうでもいいとして。瑠璃もいい加減に結婚するのか。頑張れ!」
「超他人事!相手は仁だよ!?だからきょろきょろしない!き!み!ボクが他の誰かと付き合っちゃってもいいの!?」
「断言しよう。大歓迎だ。結婚式の日に『あの子は昔は格闘一筋でねぇ。色気づき始めたのはいい年になってからなんですよ~それで一時期は血迷ったこと言ってたんですよ。』とか知らない酒場で知らない人に適当に絡んで独りで勝手に盛り上がりたい。」
瑠璃は今村の歪んだ笑顔で言われた一言に酷く傷ついた顔をして震える声で弱々しく嫌がった。
「酷いよ……何でそういうことばっかり……」
「メンタル弱いな。嫌うなら嫌え。」
「それはないけど……やっぱその人たちの所為?ボクの何倍も可愛いもんね…ボクなんて……」
瑠璃が落ち込み始めたのを見て今村は溜息をついて治療を終えたセイランとミニアンの方を振り返った。
「落ち込み始めた。どうする?お前らが可愛過ぎたのが悪いってよ。」
「う……だから、不意打ちはズルい…」
「照れてる。うわー…よいしょ。」
何となく今村はミニアンとセイランを抱えてソファを召喚するとまず自らが座り二人をその上の太腿に座らせ、いっしょくたに抱き締めた。
「ぅぎゅ…う、嬉しいけど……ちょっと苦しい…」
「ふみゅ…ぅ…」
喜ぶ二人を解放して両隣に座らせると今村は雨の日に捨てられ野ざらしで雨に打たれながら帰る家を探している子犬を思わせる顔をしている瑠璃を見た。
「ハーレムってこんな感じ?」
「……も……それは………………嫌だ…」
「ん?」
「ボクだけその輪に入れないのはもっと嫌だよ……本当に好きなんだ。どうしようもなく……」
「ん~激昂して殺しにかかって来た方が面白かった。今なら弱い衝撃波で頭部トマト炸裂事件映像をお見せできたのに。」
いつの間にか食べつくしていたシュークリームに気付くと今度は何かピザが食べたくなって来たので自分の頭の代わりに炸裂させようとしていたトマト、それにサラミやバジル、5種のチーズをふんだんに使ってピザをローブで作って焼く。
「ハーレムでもいいから、ボクも仁と一緒に居たい……」
「だから…俺が誰かと付き合うなんてすると思う?3原神の武力組男集団を皆殺しにして『あ、今の何か納得いかなかったんで』つって3回やり直して『思ってたのと違うんで帰りますね?』って言って帰るくらいあり得んことなんだが?」
過去、天地がひっくり返ってもと言ったことで本当に天地をひっくり返した世界を創り上げてそこに住もうと言われたことがあるので今村はあり得ないこととして原神を引き合いに出して否定した。
「でも結婚したい……」
「あり得ないっての。無理。大体何で俺にそこまで執着するんだよ?遊神さんを沈めたなら遊神さんが決めたルールも無視していいじゃん。あ、言ってて思い出したけど今の俺滅茶苦茶弱いぞ?これじゃお前と結婚できるやつはお前より強くないとダメってルール守れないな。」
「パパは沈めたからルール守らなくていいの!だから仁が弱くてもいいの!気が付いたら好きになってたんだもん!」
瑠璃は言い切った。それと同時にピザが焼きあがる。
「ふぅ。あ、食べる?」
「食べるけど!真面目に話聞いてよ!」
「あーんしてくれますきゃっ♡」
今村はセイランが最後まで言う前にピザのピースを一つ口に運んであげた。瑠璃は涙目で抗議する。
「真面目に聞いてよぉ!」
「せ、【無垢なる美】だけじゃないよね?僕も…ん♡」
「真面目に聞けぇ!」
ミニアンにも食べさせてあげると瑠璃が怒った。それを無視して何となく蟹が食べたくなったので蒸し上げる。
「ん~おに~らいしゅき~♡」
「気を抜き過ぎだよ……全く。」
「ボクにもあーんしてよ!」
「『飛髪操衣』だとチーズがついた時なんか嫌だし。にしても。お前らやわっこいなぁ…良い匂いだしすべすべして気持ちいいし。」
今村は瑠璃の目の前でミニアンとセイランとイチャイチャとしか形容できないスキンシップを取って遊ぶ。瑠璃はもう我慢できなかった。
「交ぜろー!あっつ!痛い!何!?」
「蟹。食べる?」
「食べさせる!ボクはあーんしてあげる方になるもん!」
「……死ぬなよ?ん?何かいっぱい来たな……何だろ?」
蟹をローブで取って解体して蟹味噌を容器に集めていると不意に外に大勢の人物たちが集まっている気配を感じた。
「んにゃ?せーらんやっつけうよ?」
「いや、さっきちょっと軽く【勇敢なる者】に喧嘩売って来たから手先かもしれない。逃げといた方がいいよ。」
「えー…せっかくおにぃとしゅきしゅきれきたのに~」
全身を使っていやいやとして擦り寄るセイランを今村はミニアンといっしょくたに彼女たちの屋敷に放り投げた。
「よし。次行ってみよう。」
「ざ、雑だよ…うにゃあぁあぁぁぁあっ!」
何となく、本当に何となくローブで高空投げっ放しジャーマンを決めて瑠璃も彼女の故郷目掛けて投げ飛ばした後、今村は異変を感じた空間の外へと出て行った。
ここまでありがとうございました。




