13.ダンジョンの最奥で
そんなこんなで洞窟の最深部に着いた。
「「お帰りなさいませ。ご主人様。」」
「……何かクロノ納得いかない。」
そこには人型を取った二人の美女がいてクロノは今村の趣味なのではないのかとジト目を向けるが今村の方が引き攣った笑いをしているので何か言うことはしないでおいた。
「…何で折角の進化なのに……」
「ここでの目的は我々の種族が強くなる事でしたよね?でしたら、我々の中で最強のイメージであるご主人様と同じ形態をとるのはごく自然のことです。」
今村の呟きにスライム娘ことリンがどこか得意げに答えた。行方不明だと告げられたスケルトンことシャーレも見事に女性型になって今村の前に出て来ている。
「……シャーレも女だったんだな。」
「ご存じなかったので?」
「そこまでじろじろ見たわけじゃねぇしな…ま、いっか。取り敢えず侵入者の排除な。」
「「「はっ!」」」
色々と言いたいことはあったがまぁ今はどうでもいいことだと判断し今村は早速本来のダンジョン経営に移ろうとしてふと寒気を感じ、周囲の宝石を使って晶結呪文を唱えて防御した。
直後、その晶結術で作られた壁に皹が入り、それと同時に今村以外の全員が気絶する。
「ふっふ~……やぁっと見つけたよぉ?ひ・と・し?」
甘ったるい声音が聞こえ、誰かが空間を裂いて現れた気がしたが今村は聞こえなかった、気付かなかったことにし、ゆっくりと反対方向を向き全力で逃走を図る。
が……
「大魔王からは逃げられませ~ん♪」
楽しげな声とともに正面に現れたのは漆黒の闇に染められた絹のような長髪を足の付け根まで伸ばし、タレ目がちで吸い込まれるような黒い瞳をした3原神にも勝るとも劣らない滅世の美少女。
「……何でテメェがいるんだ?」
「愛ゆえに!」
「ならば愛などいらぬ!いかん。反射的に言ってしまった……えーと?何の話だっけ?俺今から何しようと思ってたんだか…?」
「ボクと結婚じゃない?」
「じゃないな。何だっけ……神核改造は今のテンションでやったら果てしないことになるからアレだし…ま、いっか。それよりお前さんは何でここに?」
「ボクは幼馴染をいい加減に故郷に連れて帰りに来たよ!」
びしっと今村を指さして不敵に宣言する滅世の美少女。今村が周囲を見渡して指先から避けると付いて来る。
「……ん~遊神さんは何て?」
「ボクに結婚はまだ早いって~わからず屋だよね?だから隙をついてオリハルコンで固めて海に沈めたよ♪」
「……まぁ俺もお前を沈めたことあるから何とも言えないが…【精練された美】様がそんなことしたら世のファンはどう思うことやら…」
やれやれとばかりに今村は肩を竦めるが【精練された美】は柔らかそうな頬を膨らませて不機嫌になっている。
「む~ボクは瑠璃だよぉ?仁ぃ?」
「……御名を軽々しく言うなってのこの馬鹿娘が…まぁ折角来たんだし茶でも飲んでくか?『最神鬼妖呪大魔発剄』。」
おどろおどろしい声音でそう告げると周囲の宝玉、鉱石などが光り輝き内部から黒い淀みを発すると黒く塗り潰されて深淵の闇を思わせるような黒い12方晶陣の結界が生まれた。
「これ天然物で長い年月掛けた上で大量の魔力と神氣と妖氣に呪力まで使うから大変なんだよなぁ~」
今村が出来栄えにニヤニヤしながら中に入るように【精練された美】を促すと彼女は色々と見渡しながら入って来た。
そして今村も中に入って……
「……仁。その女は、誰だい?」
「お兄様。私も知りたいですね。」
3原神が2柱【可憐なる美】と【無垢なる美】が、中にいたのを目撃してそっと閉じて封印術式を編み始めた。
「我希う。我が道を阻まんとする者への永久なる断絶と「仁!ボクまだ入ってるんだけど!?」…悪いな瑠璃。諦めろ。お前の友神はそんなもんだったんだ……隔絶を以て「…お兄様。取り敢えず、話は中で聞かせてもらいます。」あ。」
いくらテンションが高いとはいえ、相手は魔導の祖とも言える原神。そんな【無垢なる美】の一言とともに今村は中に引き摺り込まれて3神と顔を突き合わせた。
「……原神様、が何でこんな所に?」
まず、口火を切ったのは【精練された美】こと瑠璃だった。それには【可憐なる美】であるミニアンが答える。
「謂れのない暴言を吐かれた気がしてね。その後に僕の、旦那様に会える丁度良さ気な隔絶空間が出来たから来ただけだよ。妹も会いたいと言ってたから付いて来た。」
「僕の」の辺りに強調を置いて牽制するミニアン。瑠璃がその言葉を受けて今村に詰め寄った。
「ど、どういうこと!?何で仁が原神様の旦那さんになってるの!?」
「あー……まぁ、ちょっと耳貸せ。」
慌てている瑠璃に対して今村は耳を貸すように言ってロックを掛けた状態で原神たちに聞こえないように話した。
「こいつら、ツンデレで本当に好きな奴等に素直になれないからって八つ当たりで俺がどうのこうのって言って暴走気味なだけ。最近拍車がかかって来てるからそろそろ【勇敢なる者】とかに話を付けたいんだがあれはアレで俺を見ると殺しにかかって来るからちょっと厳しい。」
「ふーん……なら安心…」
「……安心?ねぇ、今、何を言ったのか、教えてくれる?」
ミニアンが形の良すぎる眉を跳ね上げて瑠璃と今村に問いかけて来た。瑠璃は安心した様子で今村が言ったことを普通にバラした。
「旦那様とか本命に対する照れ隠しで本気じゃないって。」
「…………襲う。」
「まぁ待て、落ち着け。図星つぅむっ!」
一瞬の沈黙の後端的にそう告げて悠然と、しかし確固たる足取りで今村の方に来たミニアンを宥めようとして今村の口はミニアンの明るく淡い桃色の唇で塞がれた。
「……そこの方。お兄様は、私のことも本気ではないと仰られてましたか?」
「……え?な、何コレ……何で?」
「そこの方、私の質問に、答えなさい。私のことも本気ではないと、お兄様は言ってたんですか?」
目の前の光景の意味が全く分からずに処理できず呆然とする瑠璃にセイランは術を掛けて情報を引き出した。そしてこちらも不服そうな顔をして移動して今村に張り付いているミニアンの袖を引いた。
「【可憐なる美】姉様。次は私です。」
「仁が僕が本気って分かるまで僕は離れない。だから【無垢なる美】も好きな所に張り付けばいいよ。」
「……おぶさるのも嫌いではないですが…顔を見たいので、姉様は左で私は右という風にしませんか?」
「……まぁ、譲歩するよ。」
ミニアンは少しズレるとセイランも今村に張り付いた。その光景を唖然としながら見る瑠璃は声を漏らした。
「仁……これのどこをどう見たら本気じゃないって…」
「こいつらね。その本命絡みで助けてほしいっつってたから色々要因が重なって助けたんだがいざ解決しようとしたら割り込んできたんだよ。」
「アレはそうしないと君が死ぬところだったからだろう?いい加減その件についても僕らのことを信じてくれないかな?」
べったりのままでそう言うミニアンを今村は鼻で笑った。
「はっ!俺のことなんざどうでもいい癖によぉ?俺が死のうが誰も悲しみゃあせんのに偽善者…っと。ナシナシ。」
饒舌になりかけたところで今村はここに瑠璃がいたことを思い出して取り消したが一度出た言葉が消える訳も無く瑠璃は眼光を鋭いものに変えると短く言った。
「詳しく。話を。」
今村は嫌そうにしながらも渋々ミニアンが語る過去話を妨げずに話させることにした。
ここまでお付き合いいただき誠にありがとうございます。




