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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第十八章~四界滅亡?~
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4.束の間

「むか~し昔、あるところに非常に好戦的なお爺さんとお婆さんがいました。彼らの里はお伽の里と呼ばれており、その町はずれに住んでいる老夫婦は今日も仕事をしに行きます。つまり、お爺さんは山へ野盗をしばきに、お婆さんは川へ昨日のお爺さんの戦利品の選択に行きました。」

「よっ!逆巻く屋っ!」


 今村は現在、魔界の魔人幼稚園で人間界の子ども向けのお話の紹介をしていた。自分が読んでいた本、「童話改造集」が面白かったのでご機嫌で、子どもたちにもその話を聞かせに来たのだ。

 因みに合いの手を入れているのはタナトスで、本来この役目を頼まれていた月美が「童話改造集」のやたら綺麗なイラストのコマ割りの紙芝居を持っている。


「お婆さんがめぼしい物に付着している血を洗い流していると川の上流から仙桃が二つ、ぷかぷかと流れてきたのでお婆さんはさっそく一口食べました。甘く芳醇な味わいが口いっぱいに広がり、爽やかな酸味が舌に心地いい。諄過ぎずしっかりとしたその桃は現世に在りて尚、桃源郷を見せんばかりの美味しさです。では、ここで試食してみましょう。」

「わぁ~い!」



 白仙桃の糖蜜漬け ~プワールファレットを添えて~


 白仙桃の個にして完結された美味さ、それをさらに甘く仕上げることで諄くなりかねない白仙桃の糖蜜漬け。しかし、天界名産のハーブの中でも特製のハーブを更に厳選して丁寧に作り上げたこの薬丹を添えることで諄さを全く感じさせない軽やかでいて次元の異なる美味しさを感じることが出来るでしょう。美容には勿論のこと、多少の怪我であれば即時回復。極上のひと時をお過ごしください。



「うんめぇーっ!」

「魔力がぞわってしたの!」

「お母さんにも食べさせてあげたいな…」

「……今村さん。俺の分はないんですね……」


 タナトスが寂しげに言って、その前を月美が白仙桃を入れた皿を持って目の前で美味しそうに食べる。そんな中、今村の昔話が続こうとして黙っていた魔界の主がストップをかけた。


「……何してるんですか。普通に、月美さんに昔話を頼んだんですけど?」

「面白そうなことしてるな~って思ったから来た。さて、……多少目の前の子どもたちが成長した感はあるが続けよう。」

「大問題ですよ!?」

「細かい奴だなぁ…じゃ食後にこの水飲ませろ。若返る。」


 今村はそう言って昔話に戻ろうとしたが、急に魔界の城下町全体を覆っている結界に皹が入ったかと思うと血塗れのイグニスが降って来た。


「お、痴話喧嘩でもしたのか?」


 あくまでも軽い調子の今村に対して月美は教育的配慮により子どもたちに血塗れのイグニスを見えないようにして、日馬はすぐに城の救護班に連絡を取った。


 そんな中血塗れのイグニスは辛そうに何があったのか話し始める。


「……不味いことになりました。天界と、地獄が全面戦争です…この怪我は上に立つ者として完全におかしいトップを暗殺しようとして、返り討ちに遭いました。トーイも同じように敗北してます……」

「……迷惑千万だねぇ。まぁいいや。あいつらが死のうが生きようが俺には特に問題ないが……どうするかなぁ?」


 今村はそこで考えた。別に戦争が始まろうがどうであろうがどうでもいいがここまで人に迷惑をかけるのも何か違う気がする。イグニスが日馬の呼んだ救護班に送られていくのを見送りつつそこにいた園児の一人に質問する。


「赤いのと、青いのと白いの。どれがいい?」

「白いの!さっきの桃の何か美味しかった!」

「そっか。ん~何か選択肢を変えればよかったかな……まぁいっか。決めたことだし行きますか。」


 今村がそう言ってローブで宙に舞い上がると不意に通信が入った。


「仁か?悪いが少し聞きたいことがあってだな……人類を滅ぼし始めたか?」

「ん?いや別に。どした?」


 通信相手は冥界の主、チャーンドだった。今村はチャーンドのことなど憶えていないが、役職と名前は知っている。

 チャーンドは「呪式照符」か何かで既に自分のことは元の情報と同じ程度は知っているだろうと、いつもと変わらない口調で続ける。


「いや…もの凄い勢いで人類が移動を開始していてな……しかも意にそぐわない形での移動だったか「あなたが、冥界の主?」…誰だ貴様は?」


 今村に繋がっている通信の中でチャーンドが誰か予定にない訪問客に出くわしたようだ。そして、その声を聴いて今村は非常に聞き覚えがある声だと感じる。


 通信は切れることなく、冥界での会話が続く。


「クロノね。ちょっと、冥界が要るの。お兄ちゃんと会うためにはここと天界ってところと地獄、それと魔界を全部クロノのにすればお兄ちゃんがどこに居ても分かるからね?」

「……貴様一人の為にそのような大それたことは許されないな。悪いがこんな状態になった。通信はまた後で頼む。」


 そう言ってチャーンドからの通信は切れた。今村は溜息をついて嗤う。


「全員サイコってる。まぁ俺も人の事言えんが……ん~死ぬのにもハードルがいるんだねぇ…『ワープホール』」


 今村はそう言って急いで冥界へと向かった。



















「……よわっちぃ。」


 今村がそこについた時には既にチャーンドが斬り捨てられていた。クロノはそんなチャーンドを冷めた目で見た後、不意に顔を上げて目を見開いて目を擦って頬を抓った。


「流れるようなコンビネーション。」

「お、おに…い、生きてたんだぁ……よかった……よぉ…」

「個人的には全く良くないがな。まぁ、今は多少ご機嫌がよろしいからどうでもいいけど。」


 飛びついてくるクロノを見て残骸になっているチャーンドの治療を黙って促す。クロノは涙目のまますぐさま実行した。


「糞砂利ガキがぁっ!舐めやがって!」


 その瞬間、チャーンドは整った顔立ちから藍色の虎耳と尻尾を出してぶち切れて咆哮を上げる。しかし、クロノはそれを見ても特に感情を動かさず今村に抱きついたまま訊いた。


「……お兄ちゃん。アレ、クロノのこと殺さないと終わらないと思うから殺したままでいい…?」

「……ん~今回白旗が選ばれたからなぁ…強制的にでも無血のまま全行程を終了させたいが…」

「…じゃ、心が壊れるまで殺してくるね!」


 クロノは笑顔でチャーンドの方へ向かうが、途中で首を傾げる。


「あれ?効きが悪いなぁ…とってもゆっくりしかできない…」

「……仁様。じゃない…仁。このガキは、知り合い?」

「まぁそうだな。」


 今村が頷くとチャーンドは溜息をついて変身を解き、普通に戻った。


「……じゃあ、まぁ仕方ない。うん……」


 その言葉とともに怒りも何もなく普通に収まったチャーンドを少々怪訝な目で見つつも今村は「ワープホール」を形成して言った。


「地上を止めて来るから。んじゃまた空いた時間があればな~」

「ん。あぁ…じゃあ。」


 それ以上会話を続けることもなくクロノと今村は地上へと移動して行った。




 お疲れ様です。ありがとうございました。

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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