33.変化
(どうした? どこで間違えた? 何故また仁が死んだ? 我は今世において不要なことなど言っておらぬぞ?)
チャーンドはボロ屑となっている今村の残骸をぼんやりとして眺めながら動けなかった。
(前世において不要なことを口にしてしまい仁が殺されてから俺は今世では必要以上に自分を出さないようにしていたのに? 何故? 俺はあの方に会うことさえ許されないとでもいうのか?)
チャーンドは祓の絶叫をどこか遠く感じながら日本刀を取り落す。
(いつか……いつか、お兄様が褒めてくれると思って冥界を……何で……何で……やっとまた会えたのに……)
いつしか思考は堂々巡りになる。だが徐々に意識がはっきりとし始めた。そしてチャーンドはその美しい顔を憤怒の形相に歪めボロ屑を抱いて泣いている祓に告げた。
「死ね。」
それは何の予備動作もない一撃だった。だが、そこから生まれる一撃の威力はまさに一瞬で祓の存在を抹消できるに足りうるもので、祓がそれを真正面から受けたときチャーンドが敵は死んだと思ったのも頷ける一撃だ。
しかし―――攻撃を受けた所から壊れたような笑い声が聞こえる。
「フフフフフフ……私は……どこにも居られない……唯一の私の居場所も……居場所だと思えた場所も……たった今……壊れた……もう……こんな世界……」
いらない。
壊れつつもなおどこか妖艶で美しい顔で祓がそう告げたとき辺りの状況は一変した。
川は氾濫を起こして荒れ狂い、常に薄暗い冥界の地に祓を中心に目映い光が辺りを照らす。
その光景を見てチャーンドは舌打ちした。
(貴様がお兄様を気絶させていなければあの方は無事だった……なにを被害者ぶって……)
殺意が高まるのを感じるチャーンド。冥界の主としての品のある戦い方から前世の荒々しい戦い方をする為の体つきに内面が変化する。そして両者は互いに互いを睨みつける。
「「殺してやる」」
両者はそう告げると先程までの戦いがまるで児戯に等しいレベルに感じられる激しい戦いを始めた。
「ありゃ、ここはどこかねぇ……アーラムいねぇし死んではいないと思うが……ん~川の中?」
呑気な声で目を覚ました男。黒目黒髪、どこにでもいそうで何処にもいない顔をしている死んだ目をしたその男はとりあえず薄く赤い水を滴らせ、川から出て近くにあった岩に腰かけた。その踏みしめた大地は溶解している。
(ん~……確か俺は今一ノレずに祓に負けた気がする。テンションで能力が変わるから仕方ないとして「αモード」……は? 何て?)
唐突に思考に混じるノイズ。しかし彼は気にしないことにする。
(まぁいいや。「αモード」……思考の邪魔だな……!?)
考え事を「αモード」によって遮られながらも続けていると途中で体の異変に気付いて悶え始めた。
「あっがっ……いって! んだこりゃ……って治ったし。……何だったんだ?」
突如何の前触れもなく男の体に激痛が襲ってきた。―――がそれは起きた時と同様に突然消えた。
訝しげに首を傾げるも思考しようとすれば頭の中は「αモード」で埋め尽くされる。謎ばかりの状況だ。
「だーっ! うっせぇ! 『αモード』!」
男は耐え切れずに大声で頭に響くワードを叫ぶ。すると異変が起きた。黒目はそのまま死んだ目だがその付近は変貌を遂げる。黒髪は艶やかに、顔立ちは骨格から変えられたかのような絶世の美男子になり、体つきは細身に無駄のない筋肉質な体になった。
そこまではまだぎりぎり人間として見れたが頭上に漆黒の毛に覆われた狐の耳が生え、人間の耳が消失したことは人間から逸脱している。……だが、本人は気付かない。
「……うん。思い出した。『αモード』って前世の仕様じゃん。」
この状態になれるように精神を改造するために何らかの働きかけがあって今一ノレなかったのかなどと考察をしながら彼は体を確認して上機嫌になる。
「動きやすくていいわ~……顔……は、まぁ痛くなかったし変わってないかな? 見えないから何とも言えんが……体は魔改造済みだな。……さて、それはいいとして……あの二人は世界を壊す気かねぇ……? ちゃっちゃと行ってお説教だなー。」
そんな戦いの引き金となった男は何も知らずそんなことを言いながら立ち上がろうとして気付く。
「うおっ! いつの間にか岩溶かしてて空気椅子になってた……う~ん。もしかして……」
指についていた薄く赤い水を舐めてみる。そして頷いた。
「うん。こりゃ俺の血だな~そりゃ溶けるよ。」
一人で笑う。そして男はそれどころじゃないと自分で気付いてセルフ突っ込みを入れた。
「ってそんなことしてる場合じゃない! 急がねぇとね。」
男―――今村はその場から消え、飛んだ。
ここまでありがとうございました。
……まぁ分かりやすかったですかね……残骸とは書いてますけど死体とは言ってませんし……
あ、その辺は次で説明あります。




