13.帰ります
底の見えない暗く深い海の中を揺蕩う。
深く深く沈み込んでいく。
しかし、不意に引き上げられた。
底にいる何かが舌打ちを。
そして曖昧な苦笑を浮かべた気がした。
「……ん?」
気が付けば清潔感溢れる部屋の中でベッドに横たえられていた。そして周囲には大勢の美女、美少女、美童女、美幼女がいて全員が自分を見ていた。
「よかった……」
目に涙を浮かべている何かの薄い膜を越えた先にいる白髪の少女。今村はその人物、カラフルズと名付けていた彼女たちのことを思い出しすぐさま臨戦態勢を取ろうとするが下半身は動かず、上半身の動きもどうも鈍い。
「先生……私たちは先生に一切の危害を加えませんから。お願いですから今は安静にしておいてください。」
「うん。何かあってもハニバニがバラバラにするからだいじょぶ。」
酷く悲しげな表情を作る白髪の少女とそれよりも大分近い位置にいて薄い胸を張るバニー美幼女。今村は戦闘する気であれば寝ている間に殺されているかと判断して戦闘態勢を解いた。
「あー……迷惑かけて悪いな。」
「いえいえ。おちゃください。わたしとしてもしなれてもらってはこまるのでおきになさらず。」
自身に入っている氣の流れから治療してくれた面々に謝っておいた。ハニバニ以外にこの場に意識を保っていた唯一の怪物、ベッドに入って添い寝をしている【破壊魔導姫】だけが返事をした。
ハニバニは手を出して無言でお菓子の催促。【最低最悪最狂】の竜はすでにこの場に残っておらず、後の二人は今村の脚にしがみ付いて寝ていた。
取り敢えず今村は速攻で両者への報酬と、治療分の報酬を渡した。
「おぉ~。いっぱいだ。じゃ、あんせーにおねがいします。うごけるはんいないならだいじょぶだけどむりしたらしんじゃうから。」
「…………死んだらハニバニいっぱい怒るからね?」
ハニバニと【破壊魔導姫】はそう言い残して去って行った。その瞬間、膜が消失しカラフルズが雪崩れこもうとするが全員が背筋に悪寒を感じその場に留まった。
「……ぅ…………ぁー?」
「おー起きたか。よく頑張ってくれたなぁ。偉いぞ?」
「…………ぅ……」
【狂危凶瀾恐厭姫】は今村に撫でられながらそう言われ白雪のように透明感のある頬をほんのり朱に染めてから姿を消した。
「んー……血に関してはどうなんだろうか。大概ダダ漏れしてたが勝手に取ったとかあるのか?」
最後まで残っている【消血妖鬼】こと桜花が僅かに魘されているのを見ながら今村は報酬について考える。
魘されていた桜花は安らかな眠りを求めて更に今村にしがみ付いて来るのを放っておき、今村はカラフルズの方を見た。
「で、何してんの?頭冷えたから地上に戻るってんなら自動で行けるぜ?」
「っ!本当に心配したんですよ?頭冷えたなんて…」
ミーシャが目に涙を浮かべて反論するが、今村は冷めた目で応える。
「心配ですかそりゃどうも。でもさぁ…前にも言ったけど俺記憶ないんだから若干放置してくれない?急に押しかけられて全員と付き合えって頭おかしいって自覚ある?」
「それは……いきなりは…その。ごめんなさい。ですけど…私たちだって必死なんですよ。何をしても軽くあしらわれて傍に居ることも味方でいることでさえ許してくれないって…」
「諦めろや。ぼっち舐めんな。あのさぁ。顔が良ければ何しても許されるって思ってんの?現在死にかけ。普通なら面会謝絶。そんな状況にこんなに人来るって常識ないの?」
今村からしてみれば関係のない話だ。手を出したのであれば責任云々を言われても仕方がない所だが面識もなければ手を出してもいない。
よく分からないが拒絶したらしい相手を弱っている状態でなぜおもてなししなければいけないのか、さっさと帰って欲しい。
「世の中熱情だけじゃどうにもならんこともあるのだよ。君らは若いし美人揃いだ世の中にゃもっといっぱい男がいるんだから視点を高く持てばいいよ。分かったら帰れ。」
「いっぱいいても……全部いらないです……」
「んじゃ、一回、一回遠くに離れてみればいいと思うよ。以前の自分の感覚から解き放たれよう!」
「そう言われて!少し目を離したときにこんなことになってるじゃないですか!嫌ですよ……取り返しがつかなくなるところじゃな……すみません…」
いきなり大声を出されて不快感たっぷりな今村だがそれはおいておいてへらへら笑って応じた。
「取り返しはつくさ。俺が死んでも君らが死ぬわけじゃない。1年もすりゃいたかどうかすら忘れてるって。」
「死ぬなんて言わないでください…」
「死ぬ死ぬ。すぐさま死ぬ。さっきどっか行った幼女が激怒するぐらい死ぬ。よく死ぬ。まぁその辺は置いといても実際何か死んだ方が良かった気がするんだよなぁ…ざっくりふわっと。うわ……」
静かに号泣している目の前の面々を見て今村はドン引きした。一部は何を言っているのか全く分からないが洗脳でも受けたの?と訊きたくなるレベルで死んでほしくないと感情を叩きつけて来ていた。
「先生……無理ですよぉ……」
「おぉ…どうした狂愛。何が無理?」
今村が前回会った時に悟りを開いた面をしていた祓に化粧全くつけてないんだ…と変な感心をしながら尋ねると祓はどれだけ今村が自分にとって必要なのかを必要ないレベルで語って来た。
「いや……何か……重い。なるべく関わらないでいただけるかな?」
「嫌ですよぉ……もうどうしたらいいんですか…諦めたら……」
「そこで試合終了…しまった!脊髄反射が!あ、それはそれとしてクロノは?」
今村の問いに顔をずっと上げないで俯けたままの月美が感情を押し殺して答えた。
「……泣き疲れて自分が衰弱して昏睡状態です。」
「何それ酷い。」
「酷いのは……」
言いたい言葉を何とか呑み込むと月美はそのまま黙り込んだ。今村は何でこいつここにいるのかなと思ったが気にしないことにして一先ずこの場をどう収拾付けてカラフルズを追い返すか考えた。
「んー?………ふぁ…おー起きた!血は貰ったぞー!」
そんな中、桜花が急に起きると場の微妙な空気など全部無視して元気よく立ち上がりポージングを決めた。そして続ける。
「じゃ、出ないとなー。あたしが出たらここ壊れるし!あにじゃ暴れ過ぎだよ!」
「……お?壊れる?」
「ん?そーだよ?一応保護はしてたけど、応急しかできなかったし、何か元々の形が色々改造されてたからわっかんなかったから無理矢理力技で抑えてただけだし!この世界自体が不味いよ!」
大げさな身振り手振りを交えて教えてくれる桜花。
「…マジか。住所不定無職か。触れた物を黄金化する能力があるから生活には困らんだろうが…」
「あ!い、家ならまだ残ってます!」
今村がそれならそれで楽しそうだなと変なことを考えて笑っていると芽衣が挙手して今村にそう言った。
「え?あ、じゃあそれで。」
その言葉を受けて今村は周囲が拍子抜けするほど軽い返事をしてゲネシス・ムンドゥスに戻ることにしたのだった。
ここまでありがとうございました。これで今章は終わりです。
序でに物語的に3分の2程度まで進みました。話も予定では後大体半分ですかね。予定は未定ですが。
このままお付き合い願えると幸いです。




