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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第十七章~ロールプレイ~
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11.この世界の終り

「許すわけないでしょう?」


 今村が血の池の中で創り上げた「ワープホール」は【移ろう者】のその一言でかき消された。今村の足元にあった血だけが消え、今村は一瞬ながら僅かに顔を顰める。


(ちっ…こいつからだけは逃げないといけないと思ってたんだが…全力でやって隙見て逃げるしかないか。最低限のレベルのテンションなら引き籠りの時の読書で溜まってるし油断した阿呆の吸収分のエネルギーもあるから即死はないだろ。)


「戦闘向きじゃないからと舐めないでくれるかい?流石に弱り切ってる君くらいなら余裕で殺せるよ。『独裁領域ディクタチュール』」

「『反対征域レジストウォール』『テンションモード』『神核融合』『陰王発剄』『αモード』『呪帝モード』…今はこれくらいしか使えんな…」


 互いに相手を弱体化する術を掛け、今村が強化しながら続く言葉を言う前に彼の目前には槍が迫っていた。それは「復讐法(ハンムラビ)」によって防がれるがあまりの威力に反射攻撃が発動しない。それを見て今村は口の端を吊り上げる。


「死ぬかねぇ?」

「勝ち目はない。大人しく死ね。そうすれば【勇敢なる者】様への手土産になってわたしも彼の宮廷に入れる…」

「流石にそんな戯けた理由で死んでられんなぁ……」


 多方面からのローブによる強襲も【移ろう者】の槍により逸らされ、かすり傷で済まされる上、その傷は次の瞬間には綺麗に消え去っている。

 「呪刀」による遠距離攻撃は相手の攻撃と同次元の攻撃手段で掻き消され、直接攻撃は上手く正面で受けられないように槍で抑えられる。


 このままでは埒が明かないとばかりに今村は現段階の能力を駆使する。


「死いづる所より我が眼に宿れ『死出眼しいでめ・睨み壊し』」

「移ろい流れゆけ。にしても困ったねぇ。第3世界レベルまで弱ってるはずなのに何気に固い……よっと。」


 今村と目が合った時点で空間が圧縮される気配を感じた【移ろう者】は術の対象を流した後嫌そうな顔をして手を揚げ、首なし死体たちを全快させて今村に襲い掛からせた。

 今村は流れ作業で再び皆殺しにしつつ【移ろう者】にも攻撃を入れていく。それを見ながら攻撃を躱しつつ猛攻を続ける【移ろう者】は嘆息しながら言った。


「はぁ……なーんで神とか能力者としての記憶もないのにそこまで無感動に殺せるの?彼女たち君のことが好きだったんだよ?何か思わないの?」

「敵だろ。死ねばいいと思う。あ、ついでに俺のことを好きだとか思える奴がいるわけがないとも思うな。」

「本当に記憶ないんだよね…?何でそんな変わんないかなぁ?で、逃がさないっての。」


 会話の最中に逃げようとするが【移ろう者】はそれを感知して出来ると同時にそれを叩き壊してそれを織り込み済みで作っていた今村の急襲を受ける。


「ちっ!」


 しかし、「呪刀」による神速の抜刀術は浅くしか入らず【移ろう者】に薄い一筋の赤い線を走らせるに留まった。


「いったーい!乙女の柔肌を何だと思ってんの~?」

「歳考えろ。何が乙女だ?多分ババアだろ?」

「……………………死ね。」


 【移ろう者】が攻撃を受けていた間に練り上げられていた術式を展開すると宮廷全体が塵と化した。刹那の間勝利を確信した彼女だが、嫌に見晴らしがよくなった目の前の光景を見て顔を顰める。


「なぁんでこれ喰らっても塵と化しやがらないんでしょうかねぇ?真面目にイライラしてくるんですがねぇ?」


 塵と化し、地平線が見えるレベルで全て瓦解した世界で平然と立っている【移ろう者】と表面上全く変わっていない今村は灰色の大地の上で対峙する。だが、内実のところ今村は嫌な気分になっていた。


(……わかんねぇが、確実に体の流れがおかしくなった。)


「ボーっとしてるねぇありがとう!塵と化して死ね。」


 今村が体内の淀みを見ている間に【移ろう者】は懐に潜り込み、今村が何かするよりも早く全身を発光させ無数の紋章を浮かべた。


 それは圧倒的な光を伴い一斉に放たれる――――


「……っかぁ………?」


 ――――いきなり術式を反転させ、彼女自身に向けて。


 彼女にとっては完全に制御している攻撃のためノーダメージではあるが一瞬の戸惑が生まれる。


 そのわずかな隙の間に今村は歪んだ笑みを浮かべ全力で、自身の思考で体が動くよりも前に反射レベルで体が覚えている限りの能力を行使し総攻撃を加えた。


「あぁ~鬱陶しいっ!効かないんだからさっさと死んでよ!」


 しかし、その総攻撃ですら彼女は痛痒すら感じていない。殆ど防御することもなく大振りの一撃を放って今村を消し飛ばしにかかった。


 そんな無軌道に何気なく放たれた一撃は、今村に命中し一撃が破裂して多彩な攻撃手段となって今村の全身を切り刻んだ。

 あまりにも呆気なく、しかも実体であることが疑いようもない状態で瀕死になっている今村を見て【移ろう者】は拍子抜けし、次いで理解が追い付くにつれ笑い始めた。


「……うそー。当たった!ふふ~これで死んだわね~」

「まぁ死ぬのは最悪仕方ないけどお前みたいなのに負けるのはムカつくから君には完全に死んでもらうけどな。」


 負け惜しみを…と【移ろう者】が言う前にそれは発動した。


 顕現した時点であらゆる善の存在を拒絶するかのような漆黒の陰の勾玉の図と、あらゆる悪を浄化することを目的としたかのような純白の陽の勾玉の図が彼女の足元に現れ、彼女は物も言わずに圧縮され潰れていく。


「がぁっ…!ごぇえっ!」

「マジかよ…まだ生きてやがる…ゲホッ……」


 外傷とは別に自身のキャパシティを越した能力行使によって激しい頭痛と目からの流血、それに倦怠感を伴いながら今村は吐血して醜悪な形になった【移ろう者】にとどめを刺しに動く。


「折角陰陽陣が……はぁ、あることだし。『反天滅絶』討ち滅ぼせ。」

「ぎっ!gugegyaaaaッ!」


 冗談ではなく本当に滅ぼされかねない力の奔流を前に【移ろう者】は獣の咆哮のような不明瞭な叫びを上げると全力で逃走しにかかった。


「あー……人には散々逃げられないようにしといて自分だけ逃げようとかふざけたこと思ってんじゃねぇよなぁ?ちゃーんと死んでくれるよねぇ?」


 勿論今村がそんなことを許すわけがない弱っている内に殺さねば後々厄介なことになるのは明白なことだ。「反天滅絶」の軌道を変えると【移ろう者】を消し飛ばした。


「げっほ……あー…マジキツイ…気ぃ抜けば楽に死ねそう。」


 地平線すらなくなり、次元に裂け目が入ることになって暗黒の空間が生まれている世界の中で今村はそう言って限界を迎え、倒れ込んだ。


「っとっと…マジで立ち上がれんなぁ…気持ちよくなって来た。」


 痛みすら全く感じない状態で今村は全ての感情を塗り潰し歪んだ笑みだけ浮かべると更に吐血し、途切れかけの意識で纏まらない思考を行う。


「あー…喋ってねぇとマジで寝るな。永眠だ。でもまぁそれもいいかねぇ…いや、でもあんなのに殺されたとあったら末世までの恥だな。でも帰るほどの力残ってるかなぁ?あ、なかったらなかったで術式失敗して死ぬってことで良いかもしれない。でもアレだね。そっちの方が間抜けっぽい気がしないでもないな。」


 色々天秤に掛けた結果、死ぬなら本に押しつぶされて圧死したいというあまり他の人では考えられない結論が出たので、今村は意地でも術式の行使まで行い能力の足りない分は座標を曖昧にすることにして自分が横たわっている地面に残存の最後の力を使って「ワープホール」を形成した。




 

 ここまでありがとうございます。

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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