3.黄巾での方針
今村は何となく勘でライアーは何か問題を起こしている様な気がしたが、気にしないことにして顔を洗いに近くに流れている川へと向かった。
「うえ…思ってたより濁ってる。」
仕方がないので今村は濾過装置を使って金属製のバケツに綺麗になった水を注いでから顔を洗った。
(…これで縛りの範囲内じゃ今日の魔力は使用不可域に達したな。)
そんなことを思いながらふと水の流れる音と違う音が聞こえると思い顔を上げると白馬に黒点が付いている毛並みの馬が向こう側から駆けて来ていた。
今村は補正無しでは視力が悪いので目を細め、睨むようにしてその馬を見ているとその馬は近くに来た時点で急に速度を緩め、今村の目の前に来ると動きを止めた。
「…ん~?あんまり馬とかを見る目はないんだが…有名馬ならまだしも…」
氣で見れば分かるのだが、現在縛りプレイ中なのでその程度の些事に使うようなことはしたくない。だが幸いにもこの馬は有名どころの馬のようだった。
脚と額の黒点。それに白馬。鬣が今村の居た世界での常識では自然界の動物には少々不自然な薄い藍色だが馬にもキャラ付けをしたかったのだろうという事で納得してその馬の面を撫でた。
「的蘆か?…まぁ色々突っ込みたいところだが…」
主要キャラが全体的におかしいのでその辺はもう気にしないことにして今村は目の前の馬をどうするか考える。目の前にいる馬は野生の馬にあるまじき膝を折るということをして、スタンバイ万全状態のようだ。
「…取り敢えず乗れと?」
今村が指示待ちで尻尾以外を一切動かさない的蘆にそう尋ねると的蘆は普通に頷いた。
(まぁ自動翻訳の能力は縛りプレイとは別問題だしな。これまで制限すると喋れなくなる。)
それはそれとして、今村の感覚的に裸馬に乗るのは罪人のやらされる辱めという意味合いを持っているのでしたくない。
「んじゃ…治療の対価として鞍でも貰うか。この時代のだから粗末で変なのしかないだろうけどまぁいいや。」
そう呟きながら今村は乗らなければ次の乗り手を探すとか言ってどっか行かねぇかな…と若干思いつつ離れて意識せずとも分かる巨大な氣を目指して移動して行った。
「おぉ…おぉ?」
「お、よぉ。快気見込みは3日後だ。根性あれば明日にゃ起きて動ける。」
陣に戻ると張宝が今村の前に現れ、臣下の礼を取った後に裸馬を見て懐疑的な目を向けたが今村は特に気にしない方向で張角の容体について話しておいた。
「……その、馬具をお納めしましょうか……?」
「ん?じゃよろしく。こっちのそれなりのランクのやつで頼む。」
今村がそんな感じに適当な指示を出すと張宝は人を呼び、的蘆に馬具を合わせて与えるように言った。
「…んで、奴さんはなにしてんだぁ…?」
今村はそう言いながら天幕の間を縫って移動し、ライアーというよく知らないが悪友のようなものの下へと向かう。
そして着いたのは何となく見覚えがあるような気もする見てきた中で一番立派な天幕。しかも中からは先程聞いた気がする声が2つした。
「大丈夫!張角たんは何もしなくていいよ!僕にお任せあれ!」
「ですからあの…話を聞いてもらえませんか?私は…」
しばしの逡巡。今村はこのゲームをしているであろうライアーを道案内にして帰れない状況下での自分の状態確保に出るために面倒事に入るかどうか考えた。
(イベント名も条件も覚えてたくらいだし…ん~でもなぁ…それじゃ縛りにした意味ないしなぁ…でも人の恋路が起きそうだというのに何もせずに消えるというのもねぇ…)
「ん~…まぁ怠くなったら消えることにして介入するか。」
そう決めた所で今村は天幕の中に入って行った。入ると、病気で臥せっている童女の手を青年が息を荒くしてにぎにぎして撫でていたので同時に周りに聞こえない程度の声で呟く。
「おまわりさん。こっちです。」
その言葉が聞えたわけではないだろうが、今村の姿を見て張角は助かったかのような目で今村を見て横になりながらも臣下の礼を取ろうとして手をライアーに捕まれているので礼だけした後質問して来た。
「あ、や、厄神様!その、こちらの方をご存知ですか?話を聞いていただけないので…臣にお教え願えませんか?」
「ライアー。偽りを司る神だ。」
「今村君!一緒に張角たん助けよう!」
気配で察知していたらしいライアーが振り向き様にスマイルを決めてそう言ってきたので今村はライアーの頭を持ってシェイクしながら張角に尋ねる。
「あー…助けとかいるん?」
「……要りません…黄巾軍は……最早私の言うことを聞かない只の暴徒と化し始めています。それに正規軍に比べ、単なる賊の数の方が増えてますから……官軍に滅ぼされるのが……最良でしょう。」
張角は弱り切った風に儚く笑いながらそう言った。その台詞を聞いてライアーがシェイクから離れて決め顔で反論した。
「逃げるのかい?この国を良くしようと君たちは立ち上がったはずだ!諦めて悪戯に混乱だけ招いた害悪として終えるのか?」
「…ですが、事態は最初の時点で大きく異なってしまいました…宮廷側に……宦官や腐った官吏に計画が露見してしまった時点で武装蜂起に踏み切ったのが…」
なおも言い募る張角にライアーが何か言おうとするが、今村はそれに割り込んで多少顔を顰めながら単刀直入に入った。
「うるせぇし怠いなぁ…手伝い要らないんだったら理由とか話すな。手伝ってほしいけど…とか未練が残ってるからんなこと言ってんだろうに…さて、これが最終通告。俺らの助けは要るか、要らないか。」
「ちょ、台詞があったのに…説得できる…好感度操作どうしてくれんの?」
ライアーが文句を言って来るが今村はガン無視を決め込んで張角を射抜くように見据えた。張角は息を一つ飲んで目を伏せて決心し、震える声で言った。
「非才な我が身ですが、黄巾軍を賊軍に成り下げないためにもご助力お願い致します。」
「えー…とっておきの台詞の使いどころが…好感度10アップが…」
ライアーが文句を言うが今村は頷いた。
「まぁ、目標は治安回復。その間に賊軍の財宝を押収、そして腐っている領主と統治変更。その旨を実力を示しつつ財宝の一部を朝廷に納めて太守の地位を奪取してまずは発言力を高めると。それで、乱を起こした件についての責任は全部賊軍に押し付けて行きましょうか。なぁに、証拠は作る物。証言者と弁護人は買う者だからねぇ…安心して賊軍を潰すための義勇軍としての名乗りを上げようか。」
今村はそう言いながら悪魔のように嗤った。
「そ…それは、その…」
「君が思っている以上にこの時代の朝廷は腐ってるから安心しな。生半可な内通者とかすぐに金で買えるんだよ。身を持って知ってんだろうに。まぁそこまで大事にはしないから安心しな。そうだねぇ…精々兗州程度だけ獲ったら消えるさ。」
今村はそう言って大陸の9分の1を掌握すると宣言してまた邪悪に笑った。
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