2.変神降臨
「に、苦っ!えほえほっ…不味っ!」
「…何してくれてんだこの馬鹿。」
「こ、こっちの台詞ですよ!にがぁ…うぅ…体がぞわって…」
「…まぁ多少飲んだっぽいな…」
今村は体を洗浄魔術で拭ったが、術式可能領域極小状態では何となく気分的に拭えていない感があったので水差しの水を顔にかけた。
「咽て鼻の方に何か入ってツーンってなってるんですけど…それににがぁ…」
「…お子様舌だからそんなに苦く感じるんだろ。」
「私はこれでも成人してます!…あ、でも…神様から見れば子ども…いや赤子くらいの…」
張角は首を傾げていたので今村は追撃してみた。
「謝れ。」
「へ?あ、すみません。…って違います!流れで普通にしてましたけど何で治したんですか!?」
「ストレプトマイシンだけど?」
「そうじゃありません!」
張角は子ども特有の甲高い声でそう言うことを聞いているわけではないと否定する。
「そう言う意味じゃなくて、何で私を治療したんですか!?と訊いてるんです!大体何ですかそのストプレトマイシンって!さっきの苦いのですか!?」
「ストプレと邁進?は?何て?苦いのは『過歳生薬』。」
「アレ違うんですか!じゃあ何であんな苦いの飲ませたんですか!?それとじゃあストプレトマイシン何ですか!さっき言ってたじゃないですか!」
うがー!と怒って今村に食って掛かる張角。今村は笑いながらその問いに答えた。
「分かってる。わざとストッププレイで邁進してんのか訊いただけ。んで…ストレプトマイシンだっけ。ググーってしてみたら?」
「意味分かりません!」
「冗談が通じないなぁ…ストレプトマイシン?ん~説明するとしたらえーと…組成式ではC21H19O12N7のアミノ糖、抗生物質だな。で、効果についてはリボソーム上の23SrRNAにくっついてポリペプチド鎖の合成を阻害、それでバクテリアの成長と代謝を止める。簡単に言えば結核菌を殺しまくって復活阻止して体を治す感じ。俺がいた世界の工業製法じゃストレプトマイセス・グリセウスの高生産性変異株を有機窒素源の…」
「ご、ごめんなさい。ホントに謝りますからもうやめてください…」
今村は意見の封殺に成功したようだ。
「よし、んじゃ水浴びて来るか…ぁ?何かいやがるな…」
今村は張角の治療を終えたので外に出て水浴びをした後適当な国に行こうとしたが突如巨大な氣が出現し、消えたので一応限定状態を解除してその場に向かうことに変えた。
「お、来た来た。眼鏡を黒縁に変えたんだけどどう思う?」
「前の記憶がないから分かりません。」
飛んだ先に居たのは一見すると眼鏡をかけた好青年だった。今村は戦闘の意思を探るために視た。その間男は喋り続ける。
「ん~…君もよくよく記憶を無くすねぇ…普通使わない代償なんだけど…まぁ君はあってもなくても大して変わんないからなぁ…あ、確認終わった?一々自己紹介するの怠いから任せてたんだけど。」
「…まぁだいたいわかった。ライアーか…ついでに驚愕の事実も分かったんだがどうしてくれる?」
相手の確認のために縛りを一時やめて「呪式照符」を使っていた今村だが、それによりこの空間に割り込むために目の前の好青年―――ライアーが空間の通り道を無理に拡張した所為で問題が生じていたことを知った。
「何?」
「しばらくパスが使えないんだが?戻れねぇじゃねぇか。」
ライアーは高次元とのリンクパスが今村が入る前、世界の爪弾きものたちを集めて色々していたときにパスをリザーブしており、今村が入った後にロックを掛けていたのをリザーブで第2世界から滑り込んでいたのだ。
このパスを直すのに時間がかかることが確定した。
なので謝罪代わりに今村はライアーの神権や神能、それに能力の一部を奪い盗って自己強化しまくってやった。しかし、ライアーに堪えた様子はなく、普通に会話は進んでいく。
「あぁ、まぁいんじゃない?……そんなことより!君がこの世界…三国姫艶舞へのパスを繋げてくれたことに感謝!」
今村は最近やたらと耳の調子が悪いな…と思いつつもう一度ライアーの言葉を促した。
「あ?三国志演武「三国姫艶舞」…それは、もしかして張角が女体化してたのと何か関係が?」
「張角ちゃんに会った!?どこ!?」
能力が盗られても普通にしていたのに今村の言葉にテンションを跳ね上げるライアー。今村は若干引きつつ曖昧ながら頷いた。ライアーは続ける。
「張角ちゃんいいよねぇ…肺の病で弱ってても頑張ろうとする意思…主人公にだけ見せる弱さ…薄幸の美少女って感じで!守ってあげたい!」
「…まぁ病については結核だったから治したけどな…」
今村の何気ない言葉にライアーは固まり、錆びついた人形の様に首を動かして今村を見た。
「…え?どうやって…?」
「その質問好きだよなぁ…ストレプトマイシンでだよ。」
「え、ちょ、違う…」
「ん?あぁ心配するな。単剤使用とかじゃねぇぞ?まぁだからと言って4種併用ってわけでもないが…本来なら念を押すほどのことじゃないしな。抗生物質が元々のこの世界にはないし…まぁ『過歳生薬』を使ったから即効…」
「ちっがーう!」
ロールプレイが抜けきっていなかった今村の台詞を叩き切ってライアーは叫び首を激しく横に振る。
「違う違う。全く違う!何考えてんの!?張角たんを治すには黄巾族が大陸の支配地域を3分の1以上にした状態で、張角たんの親愛度が90%以上の場合にのみ来るイベント『乙女の願い、叶えたるは神山の薬草』で二人で神山へと向かい!」
「もしもーし?」
何か変なスイッチを押してしまった気がした今村はライアーを直そうと声をかけるがライアーの耳には届いてないようだ。
「迫り来る先住民の試練を越え、二人がやっと辿り着いた矢先!張角たんは発作で倒れて気を失い!」
「お前一応神様なのにたん付けで人の事呼んでるけどいいの?信者とか自己世界に対する配慮とかいらない?」
「それでも諦められない主人公が薬草を噛み、口移しで飲ませることにより意識を取り戻す張角たん!その起きた瞬間のはにかんだ笑顔が…もう…たまらん!」
今村は取り敢えず興奮しているライアーを殴っておいた。そうすれば直るかなと思ったのだ。
「キャラヴォは!?」
「あ?キャラバン…「キャラクターヴォォイスッ!どうなの!?ゲーム通り!?」知らねぇよ…供えられてたやつらの欄から実在する世界のやつだけ取ってんだし…」
相手をするのが面倒になって来たので今村は顔などを洗うために水の流れる音がする方に向かい、ライアーには張角の居場所を教えて別れた。
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