15.猫好き
襲撃者が来た4時間後、今村が目を覚まして上体を起こすとクロノも起きた。今村はそのまま寝ていた間に更新されたものを色々チェックし、クロノは変な体操をして体を起こしている。
「…ふぅ。猫をモフりたい。」
「んにゃ?ご飯食べよ~?」
今村がチェックを終え、読んでいた本の影響を受けて久し振りに猫をモフモフしたいと思いながら立ち上がるとクロノも変な体操を終えて今村の傍にてこてこ移動してきた。
「…食後に何か飼ってる猫を呼ぶか…」
そんなことを決めた後、食事をしに部屋から出ると妖精たちは全員猫耳・猫尻尾で食事の準備をしていたので今村は食事前に噴き出す羽目になった。
「よし、んじゃ元気がいいのを召喚しましょうか。ほいっと。」
「…何か…お兄ちゃんって大概だよね…知ってたけど…」
驚くほど適当に、そして軽く召喚術を熟して圧倒的な存在値を誇る飼いネコ科のおニャン子様方を召喚した今村はまず手近にいた金色のオーラを放つ黒猫を抱き上げた。
「にゃ…」
「ははははははもっふもふだ!」
「…その子…多分クロノより強いよね…?」
見た目は子猫。しかしその子猫から発される氣はクロノがこれまで見たことがある生物の中で断トツの強さだと見て取れた。
「ぅにゃ…ふー!」
「嫌がってる嫌がってる!アハハハハ!大人しくしろ。」
しかしクロノが思っていた以上に今村は異常だった。一瞬で黒猫を黙らせると無抵抗になった黒猫を横たえて顔を埋めてモフモフする。
黒猫は早く終わらないかとばかりに虚空に視線を向け、身じろぎしなくなり、その時点を以て今村は黒猫を解放した。
「はぁ…モフったモフった。」
「お、お兄ちゃ…助け…」
黒猫の八つ当たりに遭うクロノ。存在値と実力の差から時を止めても全くお構いなしに攻撃され、クロノのぷにぷにした腕から血が流れ落ちる。
「ん?…まぁすぐ飽きると思うよ。」
「その前に死んじゃう…!」
クロノはそう言ったが黒猫は思ったより早く飽きたらしく尻尾をゆらゆらさせながら隅っこの方に逃げて行った。
「し…死んじゃうかと思ったよ…」
「…死んでも回復するんじゃなかったっけ?あ、オーバーキルか。」
クロノが怪我を治さないのを見て能力が封じられているのだろうと判断した今村は「ドレインキューブ」でその封印を解除してクロノに回復を促した。
「ありがと…ね、ねぇ…満足したなら…その、あのおっきいのとか…」
「あぁ…次はアレ行くか。」
どう見ても猫じゃない2メートル程あるプラチナ色に輝く短い毛並を持つライオン。その近くにはそろそろ子猫時代を卒業し始めたサーベルライガーズがうなうな微睡んでいた。
「眠いっぽいし、やっぱ止めとこう。ムササビチックに飛び回ってるあのフライングキャットをゲットすることに変更だ。」
「ふみゃっ!ぞわぁってした……え…?な、何コレ…お、お兄ちゃん…クロノに何か生えた…」
今村が高速で飛び回っている猫を見るために少し目線を上げているとクロノが驚きの声、それに続いて困惑の声を上げて今村を呼んだ。
そして呼ばれた今村が見たのは猫耳と尻尾を生やしたクロノ。しかもご丁寧に猫耳は今の心情を表すかのようにへんにゃりしている。
「おぉ。写真だけでもマニアに高く売れそう。」
「第一声がそれ…?」
今村の言葉に耳が更に聞きたくないよ!状態になって伏せられる。しかし、それでは話が進まないとクロノは今村に尋ねる。
「これ、戻る…?」
「ん?そりゃ戻ると思う。『タイムバック』すれば?」
「…『タイムバック』…あ!戻った!」
先程いとも簡単に能力を封じられたのでこの猫化も自分の能力の及ぶ範疇を越しているのではないかと勝手に思っていたクロノはすぐに戻れることを知ってくるくる回って喜んだ。
「…あ、でも。お兄ちゃん…さっきの可愛かっ「おらぁっ!」…いーもん。モフモフタイム終わったらクロノの方が一緒だもん…」
クロノは猫耳・猫尻尾状態の今村の感想をもう一回訊き直そうとしたが、今村は飛んでいたフライングキャットを捕獲してジタバタするのを抑え込むのにご執心の様子で、クロノは拗ねた。
「…あ、あのぉ……」
「ふぇっ!?」
そんな拗ねたクロノに黒猫が声をかけて来た。まさか喋るとは思っていなかったクロノが驚いて足元を見ると先程の黒猫とは別の子が声をかけて来ていたようだ。
「あ、大きな声を出さないでください。…あなた、誰ですか?」
「え、クロノはクロノだけど…猫さんこそだれ…?」
「私は…まぁミーシャって名前なんですけど…えぇと、先程の訊き方だと漠然としてましたね。あなたと今村さんはどんな関係なんですか?」
「マァミーシャ「ミーシャです。」ミーシャ猫さん!クロノはお兄ちゃんの恋人兼妹兼子どもだよ!」
「…大分おかしいこと言ってますね…」
クロノは割と大きな声で言い切っていたが今村はクロノの方に関心を向けていないようで気付かなかった。
その間にクロノから話を聞いてミーシャは話の内容を解読していく。
「…なるほど。私たちと大体同じ感じですか…じゃあ何でクロノさんだけこの城の中に…」
「ん~…何かお兄ちゃんはどっかに私の居場所が見つかるまでは私の面倒を看るって言ってたよ?」
「…私も居場所がないんですが…今村さんの隣が私の居る場所なのに…」
ミーシャがどんよりしながら独り言を言っているとクロノは首を傾げた。
「…ミーシャ猫さんはお兄ちゃんの飼い猫じゃないの?」
「まぁ…今村さんの中ではこのくくりで召還された辺りで察せますね…飼い猫扱いされてるんでしょう……けど、私は異性として見てます。」
ミーシャはじゃれ合いという名の巨大猫と今村の戦いのようなものに目を向けて熱の入っていた目を半眼にしながらクロノの問いに答えた。
「…ん~お兄ちゃんはクロノのだからダメだよ?猫さん。」
「っ!」
ミーシャの猫背に寒い物が走り、体をアーチ状にしならせる。クロノの目は冷たい物だった。
「クロノはね。ずっとずぅっと嫌なことばっかりだったの。それでやっとお兄ちゃんに会って、今からクロノの楽しいことが始まるの。だから、駄目だよ?」
「私だって…」
睨み合う一柱と一匹。その後ろでは今村がトゥールハンマーで雷撃を放ち、放電していた猫を充電させる代わりに背もたれにしていた。
「私だって今村さんと会うまでは最悪でしたよ…あなただけじゃないんです。独占なんて…誰かが勝手にやるのを許すと思ってるんですか?」
「許す許さないはお兄ちゃんが決めることだよね?何で誰かに決めてもらわないといけないの?クロノはお兄ちゃんが…あれ?消えちゃった…」
クロノがミーシャの言葉への反論を言い終わる前に目の前にこの部屋にいた猫たちは全て召還されていた。
「ふぅ…よかったよかった。まぁ最初のと次のと5番目のと18番目のにはご機嫌取りに転送中にカニェーツ・ウートカ送っとくか。」
記憶がある時に今村がストックしておいた猫用の最上級おやつ。その効果により次呼ぶときには全員機嫌を直している。
それはいいとして、今村はクロノが妙な顔をしているのに気付いて、そう言えば何か違和感があったな…と気付いたが別にどう思われていてもいいかと割り切ることにして猫パーティーを終えた。




