14.安眠妨害の末
「…侵入者か。機械反応は無し…安眠妨害しやがる屑が…殺す。」
「………んぅ…ふぁぁ…あ。お兄ちゃんどったの?」
一緒の寝室で寝た二人は罠を破壊する轟音で起きた。ここに来るまでには死んでいるだろうが五月蠅かったので直々に殺しに行くことにして今村は立ち上がった。
クロノもそれに続いてカラフルな水玉模様のパジャマを脱いで最初に今村に貰ったゴスロリドレスに着替えて立ち上がる。
「あ、惨たらしく殺すからお子様は寝てた方がいいと思うよ。」
「…クロノも色々したし、だいじょぶ。」
「…じゃあ外見上見ても大丈夫なように精神壊すか。」
そう言う事で今村とクロノは破壊音の音源の方へと移動して行った。
そこに居たのは一人の少女だった。一見すると黒い外套で全身を包み、鳶色の目だけを出しているが身長とスタイルだけでそう判断できる。
尤も今村は「呪式照符」で普通に誰なのか動機が何なのかなどを調べているので一見した見た目から得られる情報は意味がないが…
そんな感じで得た情報から今村は目の前の少女をどうするか決める。
「…アレだ。何か…転生の少ない世界だとたまにある青い正義による熱血棚上げお説教。アレしよ。」
「ねむい…」
目の前でレーザーに肩を貫かれて動きが止まってその腕を失いながらも奮闘する少女の前で台詞を流し読みして覚える。クロノが眠そうに目を擦ったところで今村はもう飽きたので別プランに変更することにした。
「よし!もう面倒だし適当な世界から召喚した方が早いわ!」
「もういいと思うよ…?多分もうすぐ死んじゃうだろうし…ほら脚も撃たれた…お腹も穴開いちゃってるし…あ、急に治った…」
「一定ダメージが蓄積すると回復するタイプか。動き的にそれでゴリ押ししてここまで来た感じ。俺らの後ろの罠で確実死するタイプか。」
今村たちの後ろの罠はクロノが前に踊っていた力の一部で作った時の罠。何もなかったという時間で固定されているので入ると時の狭間に呑み込まれてバラバラになり風化するように作られている。
クロノが罠に目をやっていると今村は適当な世界とリンクして誰か呼び、繋がった相手のキャラを考えて自分側に引き込むためにクロノに一芝居させる。
「…あ、来た。クロノ泣け。いや、涙目になるだけでいい。それでお兄ちゃん怖いよぅとでも言って袖にしがみ付け。」
「え、泣くの?うんと…えっと…『タイムバック』…?で…えっと、お兄ちゃん怖いよぅ…」
急な振りに対してクロノがそう言ったその時、今村の目前に召喚陣が現れ、全身赤い装備をした美形の男が現れ、それと同時に目の前の少女がこちらに突っ込んで来た。
「!お前が【魔神大帝】か!」
「【魔神大帝】?俺はライプニッツ―――【魔導貴公子】だ。」
自信満々で現れた男と対峙する少女。今村は笑うのを堪えて見守った。クロノは袖を引いた手を移動させ、脚に抱きついて戦闘の方を見る。
「【魔導貴公子】…?なら貴様に用はない!死ね!」
「ふっ!女の子はそんな乱暴な言葉使わない方がいいぜ!」
二人が戦闘態勢に入る中、後ろの今村は壁を仙氣で強化して拳を叩きつけて笑うのを我慢した。クロノは早く寝たかったので今村の了承を得て目の前の戦いの場ごと時間を早める。
「はぁ…はぁ…何なんだ貴様…私の邪魔を…」
「お前みたいな可愛い奴に、はぁ…人を殺すなんていう…重荷を、はぁ…背負わせることは…出来ねぇからな…」
「貴様に何が分かる…私だって好きで殺しなんて…」
今村がストップと言ったところでクロノは能力の行使を止め、目の前には一瞬の間に外套をぼろぼろにして、顔を出している少女と赤い装備がぼろぼろになっている男が普通に出て来た。
「おっ!来た来た。」
「何が…?」
前にいる二人に聞こえないように会話する今村とクロノ。クロノは永遠にものを言えない状態で静かにさせて早く戻って寝たいのだが、今村は戻るつもりがなさそうだ。
「わかんねぇよ。俺にお前のことなんてわからねぇ。会ったばかりだし、心を読めるわけでもねぇからな…でもな!お前が間違ってることだけは分かる!分かってもらえねぇことを嘆いて人に責任押し付けて何が変わるん「…あ、お前が今考えてることアウト。死ね。」…は?」
赤い装備をした男が熱意を振りまいてシャウトするが、それを後ろから今村がほぼ反射的に黒ローブで撃ち抜き赤い装備の男は物も言わずに絶命して倒れる。
「…な…ぁ?」
「敵意に自動攻撃『カースローブ』でございます。さて、ノイフェ嬢?今何が起きたのか分からずに困ってるようだね?」
訳が分からずに変な声を上げる少女に今村は歪んだ笑みを以て声をかけ、名乗ってもいない名前を呼んで説明を始める。
「まず、君は俺の友人から指示を受けて…あぁ、依頼主から妹を殺されたくなければ殺しをしろって言われて、今回が最後ってことで大仕事、俺を殺せって言われて来た…」
「な…はぁ…?」
「…話を端折り過ぎたか?なら君の生誕から。ノイフェ・カルミージュはダナン・カルミージュとバーバラ・カルミージュとの間にカユーマ歴23年に2998gで生まれ「お兄ちゃんわざとだよね?」……突っ込みなしだからよぉ…面白くねぇんだこいつ…」
クロノが説明に割り込んで突っ込んだおかげで話を元に戻すことができた。目の前の少女、ノイフェは未だに混乱しているが何とか言葉を話すことが出来た。
「どういうことだ…?友人を殺…?」
「あ、その点に関しては訂正。上辺だけの友人。向こうは嫉妬まみれらしいし、俺は覚えてない。あー話が長くなるし、リアクションに期待できないからもう簡潔に言いましょう。君の妹だいぶ前に殺されてるよ?」
「は?」
ノイフェは今度こそ思考を打ち切られた。だがお構いなしに今村は続ける。
「んーとねぇ。一々世話するのが面倒になったらしくて、心臓を抉り出して成り済ましの魔術の触媒として利用。時間で言ったら君が俺を殺しに来た2年前。君が会ってた妹さんは成り済ましだね。」
「な、で…?シェミルは…」
「証拠欲しい?召喚してやろうか?時空を曲げて摂理も曲げる『魔法』様を使ってやるよほら。」
今村はほぼ無詠唱でノイフェの前に骨となった骸を呼び出して「死霊術」で肉付けし、降霊までした。目の前で起きている光景を見てノイフェは狂乱する。
「あ…あぁ…あぁぁぁあぁああぁぁぁっ!」
「…お兄ちゃん回復させるの?」
慟哭の声を上げるノイフェ。その声に隠れるようにクロノが今村の意思を確認するが今村は却下した。
「わ、私は…私はぁっ!」
「という事で全部間違ってたことに気付いた時点で死ね。」
「ごえっ!…げ、え…?」
ノイフェの妹の骸から突然行われた一撃に困惑しながらノイフェは血を吐く。そんな彼女に今村は呆れたように言った。
「おいおい…殺しに来てんだから勿論殺し殺される意識を持って来てるんだよな?何で敵前で呆けてんの?私も被害者なんですとかは…言うわけないよな?因みに今の一撃は妹さんからのプレゼントだ。」
顎が割れて不明瞭な言葉しか話せなくなった彼女に今村は続けて言う。
「今からのは俺から。まぁ今からって言ってもすぐ終わるが。ばいばーい。」
そして彼女は永遠に動くことがない骸と化し、妹の亡骸と赤い装備の男と一緒に妖精たちに運ばれて行った。後に肥料になる予定だ。
「…さて、寝るか。」
「うん…ふぁあ…」
そして二人もその場を去った。
ここまでありがとうございます。




