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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第十六章~遊びましょう~
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13.独り用大浴場

「今度はお風呂!一緒一緒!」

「はいはい…」


 蓮華草のような色合いの千切ったり踏んだりすると即座に新しい物が生えて来て一定の形状に戻る草で草の冠を作ったり、それを作るために採取していたクロノが草に襲われたりと楽しいピクニックが終わった後、今村はクロノに連れられて大浴場へと来ていた。


 今村は元々ローブで入っていたという話を聞いたが今の記憶がない状態ではそれが何となく不自然な気がしたので全裸での入浴をしている。


 クロノもお子様なので普通に全裸だ。そんなクロノは今村の腕を取ってご機嫌で風呂へと進む。


「あーらいっこあーらいっこ♪お兄ちゃんとあらいっこ♪」

「通報されたら即敗訴だな。まぁ何か言われたら殺すけど…」


 そんなことを言いながら自分用に創っているはずの大浴場で基本無駄に有り余っているシャワーの一つの前に腰かけて…その上にクロノが来た。


 結構勢いがよく、ダメージを負わないとはいえ何となく腰が浮いた感がしながら今村は自分に座っているクロノに尋ねる。


「…もしかして洗えと?」

「え?お風呂って洗いっこするところだよね…?違うの…?」

「…まぁそうか。」


 幼い頃は風呂は入れてもらうところなんだったなぁ…と思いながら今村は色々諦めてクロノ用らしい甘いライチのような香りのシャンプーを貰って黒く癖一つない長いシルクのような手触りの髪を洗う。そんなことをしながら今村は自分の過去を回顧していた。


(…俺が一人で入るようになったのは…うん。物心ついた時からそうだったな…あれ?俺なんかおかしくね?)


 一般的に物心がつくのは5歳前後だが、今村の物心は3歳児の時から既にある。その時点ですでに軽度の育児放棄を受けていた気がする。


「ふみゃぁああぁぁ…お兄ちゃん気持ちいい…」


 そんなことを考えていながら頭皮マッサージ込みでのシャンプーを行ってあげるとクロノが気持ち良さ気な声を上げて喜んでいた。


「…痒い所はございませんか~?」

「だいじょぶ…」

「じゃ、流すから目をしっかりつぶってろよ?」

「うん!」


 シャワーで流すとライチのような甘い香りがするシャンプーが流される。流し終えたところで同じような瓶に入ったコンディショナーを髪と頭皮に馴染ませて放置することにした。


(…にしてもアレだな。毛穴がないからジッと見ると何か…)


「あ!クロノね!体は自分で洗えるよ!背中は届かないけど…」

「お、そう。じゃ立つ?」

「何で?クロノこのまんまでいいと思う…あ、お兄ちゃんちょっとおっぱい押さえてて?」


 考え事を中断してクロノの言葉を聞いた今村は黙った。クロノは不思議そうに今村を肩越しに見る。


「お兄ちゃん?おっぱい大きいから術なしだと屈んだ時滑ってバランス崩しそうだし押さえててほしいんだけど…」

「多分大丈夫じゃね?行ける行ける。こけそうになったら何とかするし。」


 流石にそれは…と思う今村にクロノは明るく追撃する。


「あ!後ねー普通に触って欲しいの!仲が良い男の人と女の人はそういうことするんだよね!?」


 今村の脳裏に何となく今日追放した奴らの顔が思い浮かぶ。それも特にドMの方の奴の顔が大きく出た。


(…あの腐れ馬鹿は俺の図書欄の一角をエロ本で埋めたことがあるからな…別に本であれば大体の物は許せるが子どもの前に出すべきではない本くらいは考えるべきだったろうに…はぁ…余計なことを覚えるお子様が…)


「え?何で溜息ついたの?クロノ間違ってた?」

「間違ってる。そういうのは…ん~説明が難しいな…10年早いっつーか…」

「んにゃ?10年年取ればいいの?」


 『時』の力を行使すればいいの?と訊いて来るクロノ。精神年齢がお子様のまま100歳を越しても成長していない彼女を言い包めるのは面倒だったのでもう言われるがまま実行してやった。


 黙ってクロノの胸の高さでホールドして抱える形にしておく。するとクロノはそれをもっと締めるように扱って微妙に首を傾げる。


「…お~……?別にどうもしない…気持ちいいって聞いてたのになぁ~」

「…何かイラッと来た。」

「ふみゃっ!?」


 何となく馬鹿にされた感があったので今村の嫌がらせスイッチが押された。ただ触れているだけなのにクロノは体が熱くなってくるのを実感する。


「へ、みゃ…うにゃ?にゃにこりぇ…」

「嫌がらせ。元の世界で言うところのセクシュアルハラスメントだな。俺が創ったこの世界には存在しないが。」

「んっ…い、嫌じゃない…よ?あぅ…あ…ん…こりぇ…がっマキ、アちゃん…の言う、そーなっんだ…」


 もじもじしながら甘い声を出し始めるクロノ。今村は面倒なことになる前に自分の体のスペックに軽く引きながらそれを止めた。


「…え…?何で…?」

「体洗いなよ。悶えてなくて。」

「も、もう一回…は?」

「体洗いなよ。悶えてなくて。早く。」

「…はーい…」


 クロノは今村の手をシートベルト代わりに使いながら体の表面を洗い、背面を今村に洗ってもらった。そして今村にコンディショナーと一緒にボディーソープの泡も流してもらう。


「ふぅ…じゃあ今度はクロ…私が洗う番!」

「じゃあちょっと退いて?」


 今村に言われるまま退くと今村は立ち上がって髪から洗い、クロノの手を一切借りずに体まで洗って風呂に移動した。


「…クロノ何にもしてない…」

「それが何か?」

「…あらいっこなのに…クロノ洗ってない…折角色々習ったのに…」


 変なことをされかねなかったんだなぁ…と思いながら湯に浸かる今村のすぐそばにクロノは腰を下ろし…大分沈みそうだったので段差一つ上に座らせた。


「ふわぁぁぁ…」

「…もっと広く使えよ。何で俺の間近に…」

「好きだからだよ~?」


 クロノは湯に入ったままふんにゃり笑い掛けるが今村の表情は一瞬固まり、それをなかったことにするかのように口の端を片方吊り上げるだけだった。クロノは横からそれを見て訊く。


「…お兄ちゃんは何で好きって言われるとそんな顔するの?」

「ん~?…まぁ…言ってる意味が分からないからだな。」

「何で?」


 クロノは今村をじっと見て続けた。今村は前を向いたままでクロノがどんな顔をしているのか見ていない。

 クロノは少しでも機嫌が悪くなればその話題を止めるつもりだったが今のところは大丈夫そうだ。


「好きという感情自体が俺にはよく分からん。楽しいとか面白いとか思ってもその一瞬だけ。後に残るのは虚無感だけだし。だから死ぬほど面白いことにあって死にたいんだよなぁ…」

「お兄ちゃんは誰かと一緒に居たいとか思わないの?」


 話がずれて来た気がしたクロノはすぐに今村の話の軌道を修正する。今村は風呂の効果か簡単に答えてくれた。


「ない。俺は独りが大好きだ。気楽だし、何やっててもいいし。」

「…クロノそれの方がわかんない…独りはもう嫌…独りってね寂しいんだよ?」

「…ん~まぁ実は寂しいってのもわからんしなぁ…知ってはいるが分かってはないんだよな…」


 デフォルトが違う。幼少期から基本誰にも関心を持たれず、才能が発揮された時だけ気付かれた今村は人間関係は上辺の物としか思っていない。

 クロノは別なのだろう。そんなクロノは自分の考えを拙いながら話して今村にも自分の想いを知ってもらおうと考えたのだが、今村は体の状態を見てもう出ることにしたようで立ち上がった。


「あ、…まぁいいや!まだ時間あるもん!」

「何が?」

「んーん。気にしないでいーよ。それより次は一緒に寝よ!」


 クロノがそう言って自分の前に立ち手を引く様子に流されながら余計なこと喋った気がするなぁ…と今更ながら今村は思いつつ風呂場を後にした。




 ここまでありがとうございます。

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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