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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第十六章~遊びましょう~
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12.何となくスライム

「…んー…納得いかんね…全員が俺を好きとか…マジ意味わかんね。」


 尋問後、今村は自室ではなく食事用の部屋で妖精に紅茶を淹れてもらいながら先程聞いた話の内容について考えていた。そんな状態でお菓子の匂いに釣られたのか寝ていたはずのクロノがやって来た。


「どしたの?…あれ?月美さんは?」


 城の食事用テーブルに今村が来ると業務の殆どを切り上げて来るはずの月美がいないことに気付いたクロノはきょろきょろしながら今村に尋ねた。


 今村は事もなさげに答える。


「何か俺のメッセージにない奴だったし疑わしいからカラフルズと一緒に城から落とした。」


 事情聴取を終えた今村は納得いかない内容を全員から告げられたので頭を冷やして貰うために論破して言い淀んだ時点で縛ったまま城から落としていた。


「…え?じゃあ今お城の中って私とお兄ちゃんだけ?」

「手伝い係もいる。」


 クロノは結構一大事なことをそっか。で済ませて妖精に大量の砂糖入りのチャイを貰って今村のすぐ近くに座る。


「さて、どうしたものか…事実のすり合わせのために一回『ワープホール』で里帰りでもしてみるか?」


 今村は紅茶を飲み干してカップを置いて思案気な顔になるとそう呟いた。クロノはそれを拾って可愛らしい顔を何と言ったらいいのか分からないといった微妙な顔にする。


「…でもあんまり外行ったらこの世界が色んな人にバレると思うよ?」

「ん~まぁ個人的には引き籠りたいし外に出たくないんだが…」


 今村はそこで言葉を切ってクロノを見る。クロノは思ったより熱かったチャイのカップを両手で持ってちびちび飲んでいる。


(…これの居場所作りも俺はしないといけないみたいだし…一人で引き籠るためには記憶なくてもやることやっとかないとなぁ…)


「どーしたの?」


 クロノをじっと見ていたら視線に気付いたクロノが何も言わないで自分を見ている今村が変なことを考えていそうだったので何を考えているのか訊いてきた。


「ん?あぁ…ちょっとスライムとスケルトンについて考えてた。なるならどっちがいいかなって。」

「だ、駄目だよ!お兄ちゃんはそのまんまでいて!」


 今村の適当な誤魔化しの言葉を慌てて否定するクロノだが内心では「αモード」の尻尾はあってもいいと思っている。寧ろ今反論しつつも包まって寝てみたいというところまで考えていた。


「まぁ、唯でさえ気持ち悪いのにスライムとかなったらアレか。」

「お兄ちゃんは気持ち悪くない!クロノお兄ちゃんがスライムになったとしてもお兄ちゃんだったら大好きだもん!でもこのままのお兄ちゃんが一番好きなの!」


 今村はクロノの言葉を受けて何となく全身をスライム化させてみた。重力に抗わずにスライムボディは椅子にべたりと張り付いて床に流れ落ちる。


「ふわっ!……え、えぇと…お兄ちゃん?」


 返事はない。スライムに発声器官は存在しないため念話しか手段がないのだが今村は今それをする気はない。

 スライムになった今村を前に先程ご大層な言葉を放ったクロノがどんな反応をするのか見たいのだ。


「お、お兄ちゃん?」


 今村が黙っているとクロノはまず今村の体の一部を掬ってみて―――それが千切れたので黒曜石のような大きな瞳を真ん丸にして固まった。


「…へ?…あ…う、嘘……た『タイムバック』!」


 クロノが慌てているのを見て面白くなって来たので今村はそれを「キャレスタ」によりキャンセルした。クロノは更に目に見えて動揺する。


「ど、どうしよう…クロノこういうの分かんない…あ!よ、妖精さん!何か知らない!?」


 クロノは救いの手を求めて紅茶を注いでくれた妖精に声をかけると妖精は身振り手振りで何とかスライムの生態を教えようと奮闘する。クロノも一生懸命それを理解しようと頑張る。


「千切れたら増えるの?」


 何とか説明が通じたクロノ。妖精は何度も頷いた後に千切れた部分と本体のスライムを指してお腹を押さえたりして分裂にエネルギーが必要だという事を伝えようとする。


 クロノは何となくわかったようだ。


「スライムは千切れて増える…今はスライムがお兄ちゃん…ならお兄ちゃんが増えるってことは…お兄ちゃんパラダイス…で、それが始まるためにはゴハンが要るってこと…」

「…俺が増えたら地獄だろ。」


 量産を考え出したようなのでここで今村は遊ぶのを止めて人間形態に戻った。クロノが持っていたスライム体は蒸発して消える。


「あ!……何でスライムになったの…?」

「何となく。ダメだって言われたらしたくなるのが世の常だろ。」

「びっくりしたんだよ!?」

「そりゃよかった。人生が驚きに満ちてるならいいことだろ。俺なんて色々考えてたら驚きが薄くなってきた。」


 適当なことを言って笑う今村。だが一応謝罪は入れておく。


「まぁそれなりに面白かったから軽いお願い事なら叶えよう。何かある?」

「んー?…え?ホントに?じゃあ今日はずっと一緒にいて!」


 拗ねたように頬を膨らませていたクロノだったが、今村のその提案を聞いた瞬間に目を輝かせて腕を組んで来た。

 そんな喜びクロノのさらさらの黒髪を撫でて生暖かい笑顔を作った今村はクロノに連れられて城内にある公園フィールドへと移動して行った。



















「ピクニック!」

「…徒歩3分だけどな。まぁその気になれば移動時間とかあってないようなもんだからいいけど。」


 青々と茂る芝生と蓮華草のような色合いの花々。そこに聳え立つ木の木陰に設置してある木製ベンチに着くと今村はそれに腰かけ、クロノははしゃいで走っている。


 因みに能力全面禁止のフィールドなので惨事は起きない。極度に発達してしまった一部分によってバランスを崩してこけるという事は起きたが。


「…痛い…」

「こっち来て落ち着け。」


 そう言いながら限定能力解除を行ってクロノの傷を自分で癒させる。それを見ながら今村は考えた。


(…そういや俺って回復系…まぁ白魔法って言われてるタイプが全部使えんな…俺らしくないよなぁ…ある程度の域までは使えるようにしてそうなんだが…まぁ才能ないらしいけど今からやるか。)


「うぅ…痛かったよ…でも泣かなかった!」


 「タイムバック」で怪我の状態を戻したクロノはそう言って今村を上目遣いに見ていた。今村はその様子を見て察する。


「あぁ、クロノは偉い偉い。」

「えへへ~」


 頭を撫でながらそう言うだけで満面の笑みになるのだから楽でいいなぁ…と思いながら軽食のサンドウィッチの入ったボックスを出してベンチに置いた。


「いただき…おてて洗わないとね!」

「『滅』。」


 どうせ限定能力解除を行ったので術で殺菌及び消毒を行ってクロノと食事を行う。


(…あの小さい人工太陽も俺が創ったんだよなぁ…今の俺でもできないことはないが…あの程度は軽くこなせるようにならないとねぇ…)


 のどかな風景を楽しみながら今村は自分の道を歩むためにはまだ色々と足りない物があると感じつつ、クロノと喋りながら過ごしていった。




 ここまでありがとうございました!

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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