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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第一章~最初の一年前半戦~
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3.契約

 今村が人間を軽く辞めた翌日の朝、今村は学校に着いて困っていた。


「……理事長室どこだ?」


 そう、道がわからなかったのだ。今村は七時二十分には学校に着いて、理事長室を探していたのだが二十分かけても理事長室を見つけていなかった。


 館内地図がある場所に戻って今村は首を傾げる。


「フム……この建物の中だと聞いたんだがなぁ……ここ何棟なんだろうか。授業間に合うか?」

「……どこ行ってるの?」


 今村が困ったように独り言を呟いていると突然誰もいなかったはずの今村の目の前に祓が現れる。しかし今村は何故か驚くこともなく普通に話しかけた。


「ん? あぁえーと……天明さんか。理事長室知らない?」

「こっち……あと私のことは祓と呼んで。あなたと仲良くしなさいって言われてるの。」


 祓は今村を先導しながらそう言った。今村はその発言に訝しげな顔をして祓に問いかける。


「別に名前で呼んだから親しいってわけにゃあならんと思うぞ……? 理事長に言われたのか?」

「うん。そう。」

「……まぁいいか。」


 全く深い意味などないとばかりに素直に頷かれ、呼び捨てにする理由を聞き、了承する今村。それに対して今度は祓から今村に尋ねる。


「あなたの名前は?」

「今村。」


 今村は即答するが祓はそれは知っているとでも言わんばかりに軽く首を振り、同じ質問をする。


「名前、下の方は?」

「言いたくない。別に大した名前じゃないが言いたくない。今村さんとでも言ってくれれば助かります。」


 それでも名前を聞きたい祓は食い下がる。


「……名前を。」

「ここか。おしかったなぁ。」


 しかし、今村は理事長室に着いたので祓との会話を切って理事長室の扉をノックした。扉が開けられ、今村たちは中に入る。すると入ってすぐ今村たちが席に着く前に理事長が口を開いた。


「えぇと今村君。」


 声をかけられた今村は席に座る前にその場に立って話を聞く。


「はい。ご用件は何ですか?」

「……単刀直入に言うと祓君の面倒を見てほしい。」

「何故ですか?」


 敬語なのに全く敬意を感じられない今村の口調に理事長は一瞬考える素振りを見せたがかぶりを振り、話を元に戻す。


「……君はどうして……いやなんでもない。祓君はフェデラシオンのとある身分の高いお方でね……」


 そこで今村の眉がピクリと跳ねた。しかし、すぐに表情を元に戻して話をするのでこの場の誰も気が付かない。


「フェデラシオンの通過儀礼ですね。」

「君は何でそんなこと知って……この国では知られていないドマイナーな儀式なんですけど……まぁ話が早くて助かります。ですから祓君の世話を……」


 そこまで聞いて今村は理事長に尋ねる。


「世話って何をすればいいんですかね。」

「特に何もしなくていいです。唯、学校が始まってから終わるまで祓君から離れないでください。授業は受けなくて結構です。付きっきりで、ある場所で彼女を見ていてください。」

「は?」


 今村は理事長の言葉に唖然となる……振りをした。


「君が望む授業評価をあげましょう。」

「そ……そんなこと……」


 今村は言葉の上だけ動揺して勝手に椅子に腰かけた。そんな今村に気を悪くした風もなく理事長は続ける。


「因みにあなたに拒否権はありません。学校を……辞めたくないでしょう? せっかく奨学金で授業料免除のクラスに入ったのですから。」

「脅しだ! ……仕方ない……協力するしか……」


 そこまで言って今村は制服の内ポケットに手を突っ込んで小さな板を取り出して言った。


「さて、ちゃんとできてるかな?」


 今村が取り出した板の先を弄ると今の会話が流れ始めた。それが終わるとさらに敬意を感じられない口調になる。


「うん。オッケー……で面倒見ろってねぇ。何で俺なんですか?」

「君は……その録音で何をする気なんですか?」


 呆れ半分興味半分というような理事長の問いかけに今村は当然といった風に答える。


「え? 約束を一方的に切られないようにしてもらいますけど?」

「芝居していたわけですね……まぁあんなに歪んだ笑みで感情こめた声を出している時点で何かおかしいとは思いましたが……」


 そんな理事長に対して今村は一つ言った。


「でもあなたが気にせず無視したのでいいものだと判断しました。それで、何で俺なんですか?」

「この子に手を出さない人だったら誰でもいいんですよ……この子は無意識に人を惹き付けるのでね……」


 理事長の台詞に今村は納得した。


「あー、成程ですね了解しました……因みになんですが」

「何ですか?」

「あなたが……人外が治めてる学校なんですから……魔導書とか禁書とか……ありますよね?」


 断定形で質問をする今村の口は歪んだ笑みを浮かべており、死んだ目も心なしか輝いて見えるような気もする。


 理事長も今村が何を言いたいのか把握した。


「……えぇ勿論です……報酬の一部として閲覧自由にしておきましょう。」

「どこにあるんですか?」


 今村は口調も早くなり、興奮した状態で身を乗り出す。理事長は少し引き気味に答えた。


「後で祓君が案内します。えぇと後は……必要経費として月に500G支払いますね。報告書、領収書などは必要ありませんし、余りのお金は今村君がもらって結構です。また、足りなかったら言ってください。」


 その言葉で初めて今村が止まった。それだけの金額だったからだ。


 この世界での通貨は世界共通で貨幣が使われている。


 1C=1円で、100C=1S、100S=1Gといった状態だ。通貨は1Cが小銅貨、10Cが大銅貨、1Sが小銀貨、10Sが大銀貨、1Gが小金貨で10Gが大金貨となっている。


 話が逸れたが、小市民の今村は今、月に五百万円払われると言われてフリーズしたのだ。


(一体いくら使うんだこのお嬢さんは……上流階級からすりゃ浪費家でもないのかな? まぁいいか、俺の懐が痛むわけじゃねーし)


 一瞬で持ち直すと今村はあっさりとした判断を下し、理事長に言った。


「わかりました。じゃあそれで行きますね。ご依頼を承りましたー」

「……正直拍子抜けですが、物分かりが良くて嬉しいですね。」

「えぇ、まあ物分かりがいいのが取り柄でして」


 今村は誰が聞いても嘘と思えるような口調でそう言って笑った。そんな今村に理事長は付け加える。


「……そうですね一応聞きますが今村君欲しいものはありますか?」


 今村は少し考えて答える。


「ん? とりあえず今のところは……大体自力で何とかできそうです。」

「何をしているのですかね?」

「……実験ですね。」


 にやにやとした笑みを浮かべて言う今村に理事長がそれはどういうものかと聞こうとするところにスーツ姿の美女が入ってきた。


「白水様。会議の時間です。」

「……わかりました。では今村君よろしくお願いしておきますよ?」

「わかりました。」


 今村は歪んだ笑みを一層深めてその部屋を後にした。




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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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