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例外者の異常な日常  作者: 枯木人
第十五章~彼の思うがままに~
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6.気付く

「…先生っ!」


 祓は気付いたと同時に自らが身動き取れない状態なのを知る。そして部屋の中を見るとそこにはただ一人だけ、しかし彼女が最も欲していた人物の姿を認める。


「よ…かった…まだいたんですね…」


 祓の安堵の言葉に対して今村は目を細める。まず、確認しておきたいことがあった。


「…お前は誰で、何しに来たんだ?」

「…っ…私、何か悪いこと…したんですね?まずは謝ります。何がいけなかったのか教えてください…直しますから…」


 祓はベッドで身動きがとれないまま今村にそう頼む。祓が謝ったのは今村が「α(戦闘)モード」で、敵意の視線をぶつけていたからだ。


 しかし、今村は表情を全く動かすことなくもう一度ゆっくり繰り返す。


「お前は、誰で、何をしに、来たんだ?」

「…私は先生の生徒で、同僚で…」


 今村の目は祓をじっと見ているようで実際は「言霊」を見ている。確信がある言葉を連ねている様子であるのを見て先程冗談交じりに言った「こき使った復讐」の線が濃厚であるのが真実味を帯びてきたのを感じる。


「…そして、許して貰いに来ました。何でもするので、また、お傍にいさせてください…」

「…何が?」


 言霊を見終わった今村は祓を見て、ようやく話の流れを追い始める。そして聞いていた内容が結構意味不明であることに気付いた。


「…恋人候補って何?」

「え…?」


 祓は今村がおそらく自分の言霊を見ているので話は聞いていないと察し、自分が思うことを言いたい放題言っていた。


「奴隷…まではまぁ合ってる。」

「き…聞こえた…?先生…」


 今村の目の前で祓はいつの間にか泣いていた。それを見て今村は非常に怪訝な顔をして呟く。


「おかしい。嘘じゃない…?『恋愛視』…いや、おかし過ぎる…これは何だ…?何が起きた…?」


 祓を視て今村は気持ち悪い物を見る目にそれを変える。しかし、祓は非常に嬉しそうにベッドに横たわったままニコニコしている。


 今村は不気味すぎる物を見た。


「…いや、おかしい。洗脳…?いやする意味がない…もし白狼なら俺と闘う前に全感情を持って行かれる勢いだ…廃神になってる…」


 ここで今村は可能性に突き当たった。


「…待て、マキアの時も俺は気付けなかった…何でだ?後、祓はちょっとうるさいから黙ってろ。」


 愛の言葉を連ねる祓がうるさいので「自聴他黙」をかけておく。そして、今村は自分に術を掛けて哄笑した。


「マジかよ!アーッハッハッハッハ!あー『αモード』解除…成程ねぇ…『憎禍僻嫌』が俺に…しかも何十神前だぁ?」

「何事じゃ!?」

「仁さん大丈夫ですか~!?」


 今村はおかしなテンションで氣を周囲にばら撒きながら小瓶の中に黒い液体を満たし、そしてサラとヴァルゴに目を向けて歪んだ笑みを浮かべた。


「…お前らもかぁ…そうだよなぁ…何考えてんのか知らんが…じゃないとここまで俺に来い来い言わねぇしついて来たりしねぇよなぁ…あー…まぁ。」


 状況が掴めないサラとヴァルゴ。そんな中に新たな人物の影が出現した。


「いやっほう!皆の気持ちに気付きましたね先生!」

「…マキアか…まぁ気付くさそりゃ。んでもってありがと。」

「「「「えっ!?」」」」


 マキアが驚いた顔をして今村を見る。サラとヴァルゴも何が何だかよく分からない内に今村に想い伝わっていたと知って驚き、祓もすんなり受け入れられたのに驚いた。

 そして彼女たちが今から期待している展開になるのかと思ったその時。今村の笑顔が非っ常に愉快そうなものに変わった。


「飛んで火にいる夏の虫!ここに来てくれてありがとよ!一網打尽だ!」

「え…あれ?これ…」

「…?湯煙じゃの…仁がよく使う天然モザイクの。」


 祓は現状がよく分からずにそのまま、ヴァルゴは霧が立ち込めてきた居住区の寝室で首を傾げる。サラはそれを見て魔力から何であるか判断し、マキアは今村の全体を見てそれが何であるか理解した。


「っ!やっぱり甘くないかっ!」

「待てよ…って…ちっ。本体じゃなかったか…用心深いことだなぁ…まぁ俺の所為か…」


 今村はマキアが逃げたのを知るが、白狼のお出迎えの為にあまり時間も手間もかけたくないので白狼戦が終わってから片付けることにした。


「…あの…これは…?」

「んー?『憎禍僻嫌』を霧状にしてお前らに吸わせた。後は…そうだね。記憶も貰おう。『ドレインキューブ』っと。…あ、そうだ祓は何で記憶が戻ったのかな?それを調べないと…」


 祓は一気にどん底に突き落とされた気分になり、今村の手から逃れようと必死にもがく。サラとヴァルゴは急展開に急展開が重なり隙だらけだったところで精神に揺さぶりをかけられ、記憶を取られるという負荷が重なり、その場に昏倒する。


「…『恋愛神』の妹が余計な真似をしたのか…?ん~…でもこれ何か違う気がするな…まぁ本神見たことないから分からんけど…ま、いっか。感情が大っ嫌いになればそれに手助けはできんだろ。」

「いや…何で…何でもしますから…私は…先生が私のこと嫌いでもいいですから…お願いします…これだけは…」


 祓は号泣しながら懇願するが今村はにっこり笑って言った。


「何でもするなら諦めろ。全く…何を血迷ってんだか…でもってそれはおいといて『憎禍僻嫌』はどっかのアホ最高神の2柱が俺に製造禁止させてご丁寧に世界の理を変える手続きを済ませて現存物質は俺が作って隠し持った物以外全て呪いまで掛けた希少な薬だから無駄にさせないでくれるかな?」

「嫌…何で…どうして…まだ何も…」


 祓は思考が纏まらずただ泣くだけだ。そんな祓に対して今村は淡々と作業を済ませた。


「全くよぉ…もったいない…でも適当に殺すとこの思念があのアホどもに回収されるからなぁ…もっと面倒なことになるし…あ~怠い。引き籠ろうっと。」


 それを踏まえた上で白狼戦をすることにすると今村は色々適当にやってもいい感じになるかな~と引き籠り用グッズの開発に半分くらい作業を割くかどうか考え、並行思考で自身に「憎禍僻嫌」を付けた人物について考える。


 しかし、今村は結論にすぐに行き付く程度にしかこの希少な薬は配ってなかった。


(クソ姉貴が…警戒してたんだな俺が力を持つことに…最悪だな…俺を癒すとか自分は何があっても裏切らない味方だとか言いながら内心じゃ監視して舌出してたってか…はぁ…俺も温くなってたもんだなぁ…あんなの他人以下だってのに…)


 考えていると何となく楽しくなって来た。周囲が全部敵の方が色々やりやすいし解放感に溢れている気になるのだ。


 そんな感じでテンションを上げて良い罠を思い付いているとお昼寝中だったクロノが別室から起きてこの部屋にやって来た。


「うにゅ…おふぁよぉお兄ちゃん…」

「…別にいいけどヴァルゴの羽踏んでるぞ?」

「…あー…うん。ってあ、ごめん…でもこんなところで何で寝てるのかなぁ…?」


 クロノは小首を傾げるが特に何も考えつかなかったので今村に訊いてみることにしたが、今村の方は様子がおかしかった。


「お兄ちゃんどうしたの?」

「…オイオイマジか?んじゃゲットが優先事項だな…」


 今村の髪の中心部分がフヨフヨ逆立って何かを受信すると降りた。そしてクロノに声をかける。


「バルバロスっていう獲も…ドラゴンが復活したんだ。それを狩りに…ちょっと材料を貰いに行って来る。」

「私も!」

「…ん~…じゃあ先に前倒しで今思い付いた悪辣な罠を準備してから行くか…」


 今村はクロノを連れて自世界の中に消えて行った。




 ここまで読んでいただきありがとうございます。

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全盛期、相川だった頃を書く作品です
例外者の難行
例外者シリーズです
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